46話 女王様がいなくなった訳
46話 女王様がいなくなった訳
貴狼国ジャンシャード国の会議室。
いつもの重臣たちが俺たちを待ちわびていた。 中に入るなり「女王様は?!」と聞いてきた。
俺は翼竜の目撃情報と、貴豹王の噂を話した。
「なんと破廉恥な!! 貴豹王がそのような事をするなんて!!」
「まことにあるまじき行為ですな!」
「我らの目を欺いて、貴猿国と戦争をさせようなどと! その手に乗るものか」
「攻撃先を間違えるところでした。 ケント様のお陰です」
「本当だ。 今度こそ······」
「ちょっと待ってくれ!」
······本当に気が短い種族だ。 貴猿国の事で懲りていないのか······
俺の言葉に一瞬で静になった。
「貴豹王の噂はあくまでも噂だ。 しかも、突然降ってわいたような噂なんだ」
みんな顔を見合わせている。 何が言いたいのか分かっていないようだ。
「今までに白い貴狼をコレクションしているなどと言う噂を聞いた事はあるか?」
「女王様に思いを寄せているという噂は前々から聞いていましたが······」
「コレクションなどと言う恥ずべき事は、ひた隠しにしているのでは?」
「いや、ケント様の言う通りかもしれない。 そう言われれば女王様が拉致されたこの時に、いかにも貴豹族の仕業を示唆するような噂が出てくるのは変だ」
「そうだな」
「それもそうですわ」
俺は頷く。
「本当にたまたまなのかもしれないが、俺には何者かの意図を感じて仕方がない」
「貴豹族が女王様を拉致したと思わせるために、誰かがありもしない噂を流したと?」
「そうだ」
「貴豹国を攻撃させるつもりなのでしょうか? 以前の話しでは貴猿国と我々を戦わせて貴豹国が隙をついてくるのではという予想でしたが、今度は貴豹国を我々が攻撃している隙を貴猿国が狙うのですか?
やはり貴猿国の仕業?
何だか訳が分からなくなってきました」
「それよりも俺はなぜ翼竜が?と、ずっと思っていた。 貴竜国が仕掛けたという事はないのか?」
俺の言葉を聞いてみんなが顔を見合わせた。
「貴竜国には貴竜族のような大きな種族を運ぶ船を造る技術は有りません。 ですからこちらの大陸を標的にする意味がないと思うのですが」
「それを知らない間に可能になったとすれば?」
「「「·········」」」
「まさか······そんな事はないと思うのですが······何かご存じなのですか?」
「ない。 ただの仮定の話しだ」
「ではどうすれば良いとお思いですか?」
宰相は俺に問いかけた。
「もちろん貴豹国に行ってみようと思う」
「分かりました。 貴豹国への通行証と貴豹王への書簡を準備いたします」
宰相がそれでいいですねと、みんなに同意を求める。 もちろんと全員が頷いた。
将軍も頷き、その後ファビオたちに視線を移す。
「ファビオ殿とニコロ殿も同行するのか?」
「「はい」」
「「私達も御一緒します」」
もちろんそう言ったのはヴィート先生とノエミちゃんだ。
「わかりました。 では皆さんの分を準備いたします」
結論が出たという事で、みんなが立ち上がろうとした時、俺は予め聞いておこうと口を開く。
「そう言えば、ロキは大丈夫なのか? 俺たちがいない間、ちゃんとご飯は食べていたのか?」
俺の問いになぜか全員が動きを止めた。
「何かあったのか?」
「それが······」
再び全員が椅子に座った。
「体調を崩したとかじゃないだろうな」
「実は······」
何だか歯切れが悪い。
「ケント様たちが出発された翌日の夜にアージア殿がいなくなったのです」
えぇっ?!!と声を上げたのはニコロだった。
「なんでや!! いなくなったってどういう事や?! もしかして彼女も誘拐されたんちゃうのか?」
宰相は両手を顔の前で振って慌てて否定した。
「違います! 『突然ですが、辞めさせていただきます』という手紙を置いて、いなくなったのです。 彼女の荷物も綺麗になくなっていました」
「こんな時になぜ? ロキは?」
「女王様が誘拐され、頼みの綱だったアージア殿までいなくなってしまって、ロキ様はどれだけショックを受けられたか」
宰相は悲痛の表情で話を続ける。
「急いで新しい世話係を探してお付けしたのですが、始めの5日程は一切食事をとろうとなさりませんでした。
しかし新しい世話係のヴィットーリト殿のお陰で、少しは召し上がられるようになられたのですが······」
······こんな時になぜ?······責任感が強そうに見えたアージア先生がなぜ······それも俺たちが出発した翌日に逃げるように······逃げる?······
「もしかして、女王様の周りの者で同じ時期に辞めた者はいなかったか?」
みんなは顔を見合わせている。 俺の意図が分からない事もあるのだろうが、使用人が辞めたかどうかまでは彼らの感知する事ではないのだろうか?
その時、一人が声をあげた。
「思い出した! 女王様の衣装係の······ファビオ殿と同じ毛色の······名前は何でしたっけ?」
「メディッチ」
「そうそう! 彼が同じ日に辞めたわ」
名前を言ったのはファビオだ。
······さすが何でも覚えているファビオさん······
「ケント様、よくわかりましたね、アージア殿以外に辞めた者がいたことが」
みんなが俺の顔を覗き込み、俺はみんなの顔を見渡した。
「なぜ女王様が近衛隊にも言わずにコッソリ城を抜け出したのかが分かった気がする」
「「「えっ?!! なぜ?!!」」」
みんなでハモっている。
「あくまでも俺の想像だが······」と、一応前置きをする。
みんなはゴクリと生唾を飲み込んだ。
「女王様が拉致された日の夜、ロキまではいなくなったのは偶然だと思っていた」
「違うのですか?」
「うん。 先ずアージア先生が夜中にロキを連れだす。 その時にメディッチが『ロキを拉致したので一人で東の草原に来い』というような内容の手紙なりを女王様に渡せば、必ず女王様は近衛隊にも報告せずに、こっそりと一人で向かうだろう」
「その時に翼竜が拉致すると言う訳か」
「そうだ将軍。 それならば辻褄が合う」
「それならあの日にロキ様がいなかった事も、女王様が黙っていなくなった事も。 そしてアージアとメディッチが翌日に急いで辞めていった事も納得できますね」
「しかし自分たちだけでやったとは考えられないのだが、それを指示したのが誰かという事はさっぱり分からない」
「誠に······」
「貴豹国で何か分かればいいのだが······その前に、ファビオは貴豹国に行ったことはあるのか?」
「はい、一度だけですが」
「案内は出来るか?」
「大丈夫です」
・・・ファビオなら一度行けば覚えているだろう・・・
「じゃあ、ヴィート先生とノエミちゃん。 今回は留守番をしてくれないか? 案内はファビオにしてもらう」
「お邪魔でしょうか?」
「とんでもない! ロキが心配なんだ。 俺たちが貴豹国に行っている間、ロキと一緒にいてくれないか」
ヴィート先生とノエミちゃんは直ぐに納得してくれた。
「わかりました。 お任せください」




