44話 翼竜の情報
44話 翼竜の情報
街へ出て、昼食を食べようと歩いていたのだが、周りが騒がしい。
2人の貴狼のせいもあるのだろうが、「宝石店」「強盗」「一人で······」などと聞こえてくる。
しかし、その中に「人間族」「ケント様」という声が聞こえてきた。
······俺?······
その時、遠くの方から「ケント様ぁ~~!!」と、叫びながら走ってくる貴猿がいた。 あの時のキツネザルだ。
「ケント様ぁ~~!! 人間族のケント様ぁ~~!」
それを聞いて、周りにいた者達が一斉に立ち止まって俺を見る。 そして続々と集まってきて、俺たちの周りを取り囲んでしまった。
「あいつ! 宣伝するなよ」
「切り捨てますか?」
「なぜ俺の名前と人間という事を知っているのか聞いてからだ」
「承知」
冗談を言う俺たちにニコロは驚いていた。
俺たちを取り囲んでいる民衆の間を抜けて、キツネザルがもう一人を引き連れて俺たちの前に来た。 後ろからついてきたのは尻尾が白黒の縞模様になっているサルだ。
······ワオキツネザルだ······
「ケント様! また会えてうれしいです。 俺の名前はレオニです。 それと······」
「それよりお前、なんで俺が人間だって事を知っているんだ?」
俺が小声で聞くと、レオニも小声で答えた。
「あの詰所の兵士さんたちが、ケント様たちの事を言いふらしていたんですよ。 あの貴猿は、実は『ケント様』という名前の人間族だとか、『奇跡の剣士』様に『双剣の鬼神』様の事まで全部聞きました」
「あいつら!」
「警察消防隊やったら殴り倒すところやな」
「兵士としてあるまじき態度です」
「それにしてもお前が大声で叫ぶから、こんな状態になってしまったんだ。 どうしてくれる」
「す···すみません」
周りを囲む野次馬の人数がどんどん膨らんでくる。
ちょっと戸惑っていたレオニはもう一人のワオキツネザルと何やら相談していると思ったら、ワオキツネザルが急に俺の手を掴んだ。
「みなさん、サーラについていってください」
「こっちよ! 来て!」
そう言って走り出すので、ついてく。 どこに行くのかと思っていると、道外れの細い路地に入っていった。
振り返ると、俺たちを追いかけて来ようとしている民衆をレオニが路地の入口で食い止めていた。
そのうち、一軒の古びたお店に入っていった。 地元の者しか分からないような御飯屋さんだ。
「ここまで来れば大丈夫よ。 座って」
普通の貴猿サイズの店なので、ファビオたちには窮屈そうだ。
直ぐにレオニも店に入って来た。 その時、奥から恰幅のいいワオキツネザルだが出てきた。
「すみません! 昼の営業時間は······なんだレオニとサーラ······珍しい客を連れてきたな」
「父さん、この人たちが昨日言っていた方たちよ」
「え?」
「おじさん、俺、ケント様と知り合いなんだぜ」
「えっ?!」
レオニは得意そうだが、知り合いと言うほどでも······
「ケント様、昼飯は食べましたか?」
「まだだけど」
「じゃあ、ここで食べていきなよ。 店は汚いけど美味いんですよ」
「そうだな。 いいか?」
ファビオたちに聞くと、二人ともいいという。
「じゃあ決まり! おじさん、時間外だけどいいよね。 一番うまい奴を出してくれるか?」
「まかせろ」
と言って奥に入っていった。
「ところで、何か俺に用でもあったのか?」
「そうそう」と言いながら俺の隣に座る。
「ケント様が街中で翼竜について聞いて回っていたって聞いたんだけど、本当ですか?」
「うん、何か知っているのか?」
「サーラが見たって」
「本当か?」
「えっと······」テーブルの横に立っているサーラは俺たちに見られて少し怯えたように俯いた。
······ファビオ! 睨むなよ!······
「いつ見たんだ?」
俺は極力優しく質問した。
「えっと······12日前の夜8時頃かな? 北のサウォー地区に行った時に見ました」
「何かを乗せていたとか、運んでいたとかしていなかったか?」
「えっと······」
サーラはチラリとファビオを見る。 やっぱり怖いんだ。 ファビオの気持ちも分かるけど、こんな近くで睨まれると、俺でも怖い。
俺はファビオの足を蹴って、視線を外すように目で言う。 するとファビオは、あっ!と言って視線を外した。
「大丈夫だよ。 教えてくれるか?」
「はい。 白い野蛮獣を足に掴んでいました」
「野蛮獣だったか? 貴狼ではなくて?」
「遠くて良く分かりませんでしたが、そう言われれば白い貴狼だったかも······そうか! あのヒラヒラは服だったのだわ! そうだわ、白い貴狼ですわ」
俺たちは顔を見合わせた。
······とうとう証拠を見つけた······女王様は翼竜に連れ去られたのだ······
「その翼竜はどっちに向かって飛んで行ったのかわかるか?」
「西の方に向かって飛んでいきました」
「西?」
「戻っていったんか?」
「もしかすると、貴豹国に向かったのかもしれません」
「今度は貴豹国か······ありがとう」
「いえ······お父さんを手伝ってきます」
そう言ってサーラは奥に入っていった。
「役に立ちましたか?」
「もちろん。 ありがとう」
「白い貴狼が連れ去られたのですか?」
「レオニ殿が知る必要はない。 つっ!」
また俺はファビオの足を蹴った。
「悪いな、詮索しないでもらえると助かるんだが」
「ハハハ、腹減がへったわ。 美味そうな臭いがしてきな。 楽しみやわ」
「本当だな」
出された料理は庶民的な家庭料理のような物で、とても美味しかった。
◇◇◇◇
夕方、迎えが来たので馬車に乗って城に行った。
城内に入り、案内されたのは晩餐の会場ではなく、会議室のような部屋だった。
円形に置かれたソファーに将軍と宰相、そしてヴィート先生たちが座っていた。
俺たちが入ると将軍たちは立ち上がった。
「食事の前に、聞き込みの結果をお知らせした方がよろしいかと思いまして、少し早めにお越しいただきました」
「いえ、その方が助かります。 お気遣いありがとうございます」
俺たちはソファーに座る。 今回案内してくれた兵士は部屋の外に出て行った。
「聞き込みんだ結果、北の地区で翼竜の目撃情報が幾つかありました。 白い貴狼を掴んで東に向かって飛んでいたと」
「やはり。 俺たちも同じ情報を掴んでいます」
フムと将軍は頷いた。
「やはりそうですか。 我々貴猿に疑いをかけるようにわざわざこちらに向かって飛んだのだな。 姑息な貴豹め!」
「まぁまぁ、落ち着きなされ、将軍殿」
毛を逆立てる将軍を宰相がなだめ、話しを受け継いだ。
「実は、新たな噂を聞きました」
「噂ですか?」
「はい。 噂レベルなのですが······」
宰相は声を潜める必要はないにもかかわらず、身を乗り出して小声で話し出した。




