40話 宝石店強盗
40話 宝石店強盗
日も陰って来たし、そろそろ帰ろうかと思った時、宝石店が目に入った。
俺の髪飾りや剣の鞘に付いている宝石がどれ位の価値があるのか知りたいと思っていたので、入ってみた。
中にはヴィート先生のようなピシッとしたスーツ姿のチンパンジーの男性と、リスザルの可愛らしい女性が立っていた。
リスざるといえば50㎝ほどのイメージだが、140~150㎝ほどある。
······やっぱりデカイ······いいけど······
「いらっしゃいませ」
「宝石の鑑定はできますか?」
「もちろんでございます」
俺は髪飾りをほどいて女性に渡した。
「これは、どれくらいの価値があるのか見ていただくて。 それと、こっちも······」
たすき掛けの鞘ベルトを外そうと思った時に、3人の貴猿がドヤドヤと入ってきて、俺と店員たちに剣を突きつけた。
ボスの種類はマントヒヒだろう、俺より少し大きい。 他の二人はよく分からない。 カニクイザルみたいだが······身長でいえば俺と同じ位だ。
「大人しくしろ! 早く宝石を袋に詰めさせろ! 急げ!!」
マントヒヒが他の二人に指示している。
一人は俺に剣を突きつけていて、もう一人は男性の店員に剣を突きつけ、女性に袋を渡して宝石を詰めるようにつついている。
表を見るともう1人見張り役がいた。
俺に剣を突きつけている強盗が「それを外せ!」と、剣を鞘ベルトごと外させて、マントヒヒに渡す。
「これは見事だな。 こんな剣は初めて見るぞ」
「本当ですね。 狙っていた剣を持っていたこいつが、押し入ろうと思っていた宝石店に入るなんて、一石二鳥とはこの事ですね」
······『一石二鳥』なんて言葉がこの世界にもあるんだ······
俺は暢気にそんな事を考えていた。
······店内で暴れるとマズいかな······ショーウインドウは壊さない方がいいよな······
とりあえず、店に被害が出ないように、倒す順番を考える。
表の見張りが外を向き、二人の貴猿が油断して袋詰めに気を取られている隙に、俺に突き付けている剣を一瞬で取り上げた。
そして、そいつとマントヒヒの頭を掴んでぶつけ合うと、二人共、足から崩れ落ちた。
「あっ!」
店員に剣を突きつけていた強盗がこっちを向く前に腕を掴んで剣を取り上げた。 店内の異変に気付いた見張り役が慌てて入ってこようとする。
俺は腕を掴んだ強盗を抱えて見張り役に向かって投げつけた。 すると、二人は絡まり合って道の向こう側まで飛ばされて、動かなくなった。
「そいつらは強盗です! すみませんがこの店に運んでもらえますか? そしてどなたかは兵士に知らせてください!!」
驚いていた民衆の中から数人が出てきて気を失っている二人を抱え上げ、数人が走って行った。
強盗が気を失っているうちにどうにか動けないようにしないといけない。
「二人とも大丈夫ですか?」
「「はい」」
「こいつらを縛る紐とかないですか?」
「それなら······」
女性は太めのリボンを差し出した。 十分な強度がある。
表から二人の強盗犯も運び込まれ、俺は彼らを縛り付ける。 少し余ったリボンをマントヒヒの首に蝶々結びをして飾り付けた。
すると、店内を覗き込んでいた野次馬たちから拍手が沸き起こった。
俺の髪飾りと剣を、店員が差し出してくれた。
「「ありがとうございました」」
「ケガがなくて良かったです」
その時、兵士がドヤドヤと入って来たのだが、その後ろからファビオが顔を出した。
「ケント殿!!」
「ファビオ!」
店内に入って来た。 天井は高いが、インテリアが貴猿サイズなので、ファビオがすごく大きく見える。
「また人助けですか?」
「いや、俺も被害者だ」
「えっ?! 大丈夫······ですよね」
「うん」
「何があったのですか?」
「こいつらは俺がいる時に入って来た強盗たちだ」
「それは運の悪い······」
運が悪いのは、俺ではなくて、強盗犯の事だろう。
俺は髪をかき上げて髪飾りで括りながらクックッと笑う。
······髪飾りと鞘の鑑定はまたの機会だな······
「俺の剣も狙っていたらしいから、遅かれ早かれ俺に捕まっていたけどな」
「それなら仕方がないですね」
店員から話を聞いていた兵士が俺の前に来た。
「強盗を捕まえてくれたそうだな。 話しを聞きたいから詰所まで同行しろ」
「お前! 誰に向かって······」
横柄な口の利き方の兵士に、ファビオが怒って突っかかろうとするのを止めた。
「もちろんです」
「しかし強盗にプレゼントリボンを付けるとは、なかなかユーモアがあるな」
「それはどうも」
という事で、リボンで縛られた強盗を先頭に、店員たちも一緒に店を出て歩き出した。
店を取り囲んでいた野次馬たちから、リボンを付けられた強盗を見て笑いが起こる。
そして、なぜか大勢が俺たちの後を一緒についてきながら、噂話に花が咲く。
「リボンで縛られた強盗って前代未聞だな、ハハハハハ」
「しかし強盗たちはあの兄ちゃん一人で捕まえたんだぞ、知っていたか?」
「一人で? まさか······よっぽど弱い強盗たちだったんだな」
「とんでもない! あのマントヒヒの貴猿は、腕が立つって有名なやつだ、知らないのか?」
······そうだったのか······
「なになに? あの兄ちゃんが一人で捕まえたって? 噓だろう? 横の貴狼の兄ちゃんが捕まえたんじゃなかったのか?」
「貴狼の兄ちゃんは兵士と一緒に来ただろ?」
「そうだったのか······でも見たことがない変わった種類だよな、あの兄ちゃん」
······もうバレた?······
「なぁ! もしかして今朝ホエザルの報告で言っていたピューマを倒した4人組のうちの二人じゃないのか?」
「まさか·········」
「でも、あの兄ちゃんは強盗2人を道の端まで吹き飛ばしたんだぞ」
「本当か?!」
「そうだよな、あれならピューマを倒したって事も頷ける」
「ちょっと聞いてみろよ」
「俺が?」
「お前は初めから見ていたんだろう?」
いつの間にか周りの野次馬たちも噂話をやめて、3人の話しに耳を傾けていた。
横で聞いていた女性が話に割って入ってきた。
「キツネザルのお兄さん、始めから見ていたの?! 聞かせて!」
······噂話をしていたのはキツネザルだったのか······
「お······おう! 俺はマントヒヒ一味があの兄ちゃんの後ろをつけていたのを見てピンと来たんだ。 あの兄ちゃんが背負っているキラキラ光る剣の鞘を狙っているんだって」
「えっ?······まぁ、本当に綺麗な鞘だわ」
······もっと前から狙われていたのか······つけられていた事に気付かなかった······
俺は耳を全開にして聞き耳を立てる。
ファビオの耳も、横の兄ちゃんの方に向いている。
まさしく、俺たちは聞き耳を立てているのだ。
リボンを付けた市中引き回し?
( *´艸`)




