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37話 クモザルのダッテオ

 37話 クモザルのダッテオ





 ピューマにやられて大ケガをしている貴猿の兵士をファビオが抱き、診療所まで先導してくれるクモザルの兄ちゃんの後をついていった。




 中央の道を通り抜けて少し登ったところの白い家の扉を開けた。


「先生!! ピューマにやられた!! ()てくれ!!」


 中から数人の白衣を着たチンパンジー(キエン)が4人と、後ろから出てきたのはでっぷり太った大きい貴猿だが明らかにオランウータンだった。


 貴狼族の二人を見て一瞬狼狽(うろた)えたがすぐに気を取り直す。



「他の者はまだか? 何人やられた?!」


 ピューマの襲撃を知って準備をして待っていたのだろう。


「彼だけです」

「なんで?」

「なんでって······彼だけですから、とにかく急いでください!!」

「わ···分かった。 患者を奥のベッドに」


 ファビオが奥のベッドに乗せると、医者たちが取り囲んだ。



 ◇



 患者を医者に引き渡したので、俺たちの仕事は終わった。 


 俺はふぅ~~と息を吐いて、待合の椅子に座り込む。



「ケント殿はけがをしていませんか?」

「大丈夫だ」

()()俺たちを置いていかないでくださいよ」

「ははは、すまん。 またやってしまった」


「でもケガがなくてほんまに良かったわ。 しかしピューマを一人で倒してしまうなんて、さすがケント様やな。 虎を倒したのもわかるわ」



 そこへヴィート先生が入って来た。


「良かった、ここでしたか。

 しかし表は凄い騒ぎになっていますよ。 ケント様がお一人でピューマ倒した事になっていますが本当ですか? おケガは? あっ!! ファビオちゃんもケガをしているのですか?!」



 ファビオの服が血で汚れているのを見て、ヴィート先生が慌てて駆け寄る。



「これはケガ人を連れてきた時に付いただけです。 俺たちが着いた時には終わっていました」

「それは良かった······って、本当にケント様お一人であのピューマを倒されたのですか?!」

「ほんまですよ。 俺たちが着いた時には止めを刺していた時やったから、出番なしですわ」


「本当にすごかったですよ!!」


 突然クモザルのお兄ちゃんが話に入って来た。 不審げに見ているヴィート先生に、ここまで案内してくれた(キエン)だと説明する。



「ピューマの一撃を軽く(かわ)して何度も斬りつけるなんて、貴猿(わざ)じゃないですよ! それにあのピューマを蹴り倒すんですよ!! この目を疑いましたよ!!」


 目を輝かして解説してくれている。



「しかし······」クモザルのお兄ちゃんは俺に目を止め、マジマジと眺める。


「兄さんみたいな貴猿は初めて見るな······どこから来たんだ? 種類は何だ?」

「君は?」

「あっ! 失礼しました! 俺はクモザルのダッテオ。 よろしく」



······クモザルで正解だった。 わざわざ聞いた事はないけど、みんなちゃんと種類があるんだな······



「俺は人間族のケント。 ファビオとニコロに······」

「チンパンジーのヴィートとピグミーマーモセットのノエミです」


 ヴィート先生が自分で紹介する。


「そうか、人間族の·········に···にんげんぞくぅ?!!!!」


 ダッテオはクリッとした可愛い目を大きく見開いて驚いている。 その顔を見てヴィート先生は嬉しそうだ。



「我々は貴狼族のジャンシャード国から来ました。 これから貴猿の王都に行く予定です」


 ヴィート先生は何気に得意そうに話している。


「しかし表で待っている大勢にケント様が人間族だという事がわかれば、パニックになってしまうかもしれません」




······そうか······ここでバラしたのはまずかったかな······




「この事はダッテオさんの胸に仕舞(しま)っておいてもらって、表の皆さん方を何とか解散していただけないでしょうか? 明日も早いので、取り囲まれてしまうと色々と面倒ですので」

「そ···そうですね」


「我々がこの町を離れてからなら、いくらでも話していただいても結構です」

「わかりました。 (しばら)く待っていてくださいね」


 そう言って、俺にチラリと視線を寄越(よこ)してからダッテオは出て行った。




「ヴィート先生、すみません。 俺が人間族だとバラしてしまったばかりに」

「いいえ、よく見ればケント様が貴猿族ではない事は貴猿なら直ぐに分かります。 下手に隠すより正直に言って協力してもらう方が得策なので、どちらにしても話をするつもりでした」



 その時、白衣を着た貴猿(チンパンジー)が治療室から出てきた。 医者なのか看護師なのかは分からないが、まあいいか。



「彼の具合はどうですか?」

「どうにか一命は取り留めました。 もう少し遅ければ間に合わなかったでしょう」

「それは良かった」

「本当にケガ人は彼だけなのですか?」

「はい」


「ピューマは?」

「死にました」

「なのにケガ人は一人だけ?」

「そういうことです」

「そ···それは幸運な事で良かったです」


 少し拍子抜けした感じで治療室に戻って行った。

 それを見て、ヴィート先生は得意げに説明してくれる。



「フフフ、ピューマが街に出れば、10人、20人のケガ人が出るのが普通ですから、医者の先生も驚いているみたいですね」

「そんなに?」

「それをケント様は一人で倒してしまわれるのですから、街の者達も驚いているでしょう。

 それはそうと、ダッテオさんは上手く追い払ってくれるでしょうかね、フフフ」


 ヴィート先生は何だか楽しんでいるようだった。




 暫くすると、2人の兵士が入って来た。


「······彼は?!」


 俺を見てから治療室の方に視線を向ける。


「命は取り留めたそうです」

「良かった······」


 二人はホッと胸を撫でおろした。 そして俺に向かって直立不動になり、剣を胸に当てた。


「お助けいただき誠にありがとうございます! ダッテオからお話は伺いました。 今、兵士が街の者達を帰しています。 もう(しばら)くお待ちください」


 そう言いながら俺の顔をチラチラ見ている。 ダッテオから人間だという事を聞いたのだろうと······その時の俺は思っていた。


 しかし一人の兵士が申し訳なさそうに聞いてきた。



「あのぉ······失礼ですが、あまりお見掛けしないお顔ですが、種類は何ですか?」



······ダッテオは黙っていたんだ。 律儀(りちぎ)でいい奴だ······



 その時、ダッテオが入って来た。


「ケント様! もう宿まで帰れますよ。 念のために兵士の皆さんが護衛してくれることになっています」

「ありがとう、手間をかけたな」

「とんでもないです!!」



······貴狼族なら尻尾をブンブン振っているところだろう······




 民衆が寄ってこないように俺たちの周りを兵士が取り囲んで宿まで歩いていく。





 確かに寄ってくる者はいないが、窓に中から、屋根や木の上から幾つもの目がピューマを倒した男はどんな奴だと視線を送っていた。











襲われた兵士は、無事で良かったです!

( ´∀` )b

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