8話 俺は個性の強いボルナック族だ
ギギを倒して、またまたお祭り騒ぎだ。
8話 俺は個性の強いボルナック族だ
俺がギギを倒して子供を助けた事は、あっという間に村中に広まった。
家に戻るとビルビが待っていた。
「ケント様がギギを一人で倒したと聞きましたが、本当ですか?」
「ビルビの特訓のおかげだよ」
「ガルヤでさえ一人で倒すことが出来ないのに、凄いですわ!!」
「つっ!」
思わずビルビが抱きついてきて、左肩の傷が痛んだのだ。
「だっ! 大丈夫ですか?!」
「ちょっと爪でやられて······」
「大変だわ! こちらに!」
家の裏にあるコンコの所に連れていかれて、ジャケットとシャツを無理やり脱がされた。
濃紺のジャケットで分からなかったが、かなりの出血でシャツは真っ赤に染まっていた。 傷口を見ると、10㎝ほどの長さで肩をえぐられている。
「って!!」
「我慢してください!!」
水で傷を洗い、傷口に傷薬を塗ってから、肩を包帯でグルグル巻きにされた。
「この傷薬は一日に一回、傷口を洗ってから塗ってください! あっ······私が塗りに来ます!」
何だか少し怒っているように見える。
部屋に戻ると、ちょっと待っていてくださいと、ビルビはどこかに走っていく。
直ぐに戻って来た彼女は、何着かの服を抱えていた。
「私の服ですみません。 今度ケント様用に作ってもらいますので、今はこれで我慢してください」
そう言って俺に服を押し付けて出て行った。
そういえば俺は制服しか持っていない。 それが破けてしまったので、代わりの服を持ってきてくれたのだ。 しかも男物はサイズが違いすぎるので、ビルビの服を持ってきてくれたのだろう。
女物の服を着るのはちょっと恥ずかしい······
それでも遠慮なく着させてもらった。
少し大きい······下の腕用の袖が余っているので前で縛ると腕があるみたいだ······まぁ、それもいいか······
着替え終わった頃、何だか外が騒がしくなってきた。 またも村人が手土産をたくさん持って俺の家に押し寄せてきたのだ。
例のごとく家の中と外で宴会が始まった。
沢山の女性たちが手伝いに来てくれた。 そしてビルビとナルビも、こまめに動きながら時々俺に目線を向けては、とても嬉しそうにしてる。
ビルビの怒りは収まったのかな?······
助けた娘の父親のガラナダが娘と妻を連れて、お礼を言いにやって来た。
三人で俺の前で片膝を着き、自分達の畑で作っているモーナという野菜を沢山差し出し、アンにはコムの肉を持ってきた。
アンは嬉しそうにその肉を食べ、モーナは料理に使ってもらうためにビルビに渡した。
モーナという野菜は肉の臭みを取るハーブのような役割もするらしい。
実は俺の家の前では先程倒したギギの丸焼きが作られている。 大きな肉にモーナが足りなかったのでちょうどいいとナルビが喜んでいた。
その時、一部始終を見ていたという青年がみんなにせがまれ、立ち上がって俺がギギを倒した時の事を話し始めた。
「俺が種を蒔いていると、畑の入口に腕を失くした神が見えたんだ。 ああ、また巡回に来て下さったんだと思って見ていたら、急に物凄いスピードでこっちに向かって走って来たんだ。 驚いたよ! あれはアミよりも絶対に速かった!
そして逃げろ! と叫んでから、あっという間に俺の横を走り抜けると、ガラナダの娘の近くにいた黒い物に体当たりをしたんだ。
初めは黒い物体が何か分からなかったんだ。 驚いたよ、まさかあんな所にギギがいたなんて!
それ以上に驚いた事は、あれだけ大きなギギが腕を失くした神に体当たりされると遠くまで吹っ飛び、木に叩きつけられたんだ。
でもすぐにギギは起き上がり、腕を失くした神に向かって来たんだ」
青年はもったいぶるように酒をごくごくと飲み干した。
「それからは死闘さ! ギギが攻撃してくると腕を失くした神は躱しながら槍で突き、また躱しながら突くを繰り返す。 そして最後にギギを蹴り飛ばして倒れたところで止めを刺したんだ! あのギギを蹴り飛ばすんだぜ! 思わず歓声を上げたぜ!」
話し終えると、固唾を呑んで聞き入っていた人々から「おおぉ!」とため息がもれた。
それからというもの、再び俺の前に来て片膝を着き、お礼を言う者、賛美やら感嘆やら口々に話し始めて大変な騒ぎになった。
◇
夜も更けてみんなが帰ってから訪問者があった。 ガルヤ達だった。
彼らはいつも3人で行動している。
少し小柄(といっても2m50㎝はある)なキムルと、無口で控えめなツーラだ。
ガルヤはこの村の警備隊長で、キムルとツーラも警備隊だ。
「どうした? こんな夜更けに」
彼らは多分俺より年上だ。 しかし、始めが始めなだけに丁寧語を使う気になれない。
「······」
ガルヤは憮然とした態度で何も言わずに突っ立っている。
「俺に話でもあるのか?」
「······」
「今日は疲れているから明日にしてくれないか?」
「······」
いつまでも黙っているガルヤの後ろからキムルがつついている。
どうしたのかと思ったら、突然ガルヤが片膝をついた。 キムルとツーラもそれに倣う。
「おいおい、なんだ?」
「すまん」
「何が?」
「お前を······腕を失くした神を侮っていた······いました。 そんな小さな体で我らを護る事などできる訳がないと。
しかし一人であのギギを倒せる者がいるとは思いもしなかった······しませんでした。 今までの態度をお許しください」
3人は少しぎこちなく頭を下げた。
「いやいや、そう思うのが当然だよ。 突然小さいのが現れて神だ何だと言われても、はいそうですかと思う方がおかしいだろう。
それに何といっても俺自身が信じていないのだからな、ハハハハハ」
「神は神であることを知らないのですか?」
「守りの祠の壁画を見て一番驚いたのは俺だよ。 とにかく立って中に入らないか? 話したい事があるんだ」
3人は少し躊躇ってお互いの顔を見合っていたが、頷き合うと立ち上がった。
中に入り、4人が輪になって座った。
彼らに異世界移転の話をしようと思った。
実はずっと誰かに話したかった。 頭がおかしいと思われるだろうが、分かってもらいたかったのだ。 もしかしたら彼らなら理解は出来なくても納得してもらえる気がした。
少し逡巡してから俺は口を開いた。
「信じてもらえないかもしれないが、俺はこことは違う世界から、突然ここに飛ばされたんだ」
「「「?」」」
「俺がいた世界は文明が発達していて、動物ではない乗り物でアミの何倍もの速さで移動し、空を飛ぶ乗り物もあり、遠く離れた人と話をする事ができたり、会った事もない人たちを見る事が出来たり、この世界の高い木よりもっと高い建物もあるんだ」
「「「·········」」」
3人は理解が出来ないようだが、俺は気にせずに話を続けた。
「俺にはあちらの世界に両親と妹がいる。 しかしある時、事故で高い崖から落ちたんだ。
本当ならそこで死ぬはずだったのだろうが、俺はここにいる。
そしてなぜかこの世界に来た時に特別な力を授かっていた。 この強い力、高く飛ぶ力、速く走る力、野生動物並みの反射神経。 なぜこうなったのか自分でも分からない。
でも今こうしてここで生きていかなくてはならなくなったからには、精いっぱいこの力を利用しようと思っている。
だから俺を神と思う必要なないが、君たちも遠慮なくこの力を利用してほしい」
頭がおかしいのかと笑われるかと思ったが、予想外に真摯に聞いてくれた。
3人とも考え込んでいるようだが、ガルヤが顔を上げた。
「俺達にどうしてほしい?」
「特別な神ではなく、違う世界から来た余所者ではなく、少し個性の強いボルナック族と思ってほしい」
「個性の強いボルナックか、ハハハハハ、それはいい。 分かった、お安い御用だ。 知っていると思うが俺はガルヤだ、よろしく」
ガルヤがいつもは腕を組んでいる下の手を差し出した。 ここでも握手ってあるんだ。
俺も手を差し出し握手をした。
「俺は倉木賢斗。 賢斗と呼んでくれ。 ちなみに様は付けなくていいぞ」
「ケントか。 わかった」
「俺はキムルです」
「ツーラ」
やはり下の手で握手した。
ガルヤ達と和解できたのですね!(*⌒∇⌒*)




