36話 ヤコボ町襲撃事件
36話 ヤコボ町襲撃事件
至る所に道が作られているのだが、荷車一台分の細さで、下は断崖絶壁になっている。
そして馬に同情してしまうほど起伏が激しい道が続いた。
道の途中の所々に避難場所のような開けた場所がある。 休憩場所でもあるが、荷車がすれ違うための場所だそうだ。
◇◇◇◇
それから2日後の夕方、小さな町に到着した。 王都はもっと先だそうだ。
ちなみに貴猿国の正式名称はファーノザ国と言い、この町はヤコボ町というそうだ。
町の真ん中を通る道を挟んで、左右の山の斜面に沿って建物が建てられている。
面白いのは、建物の屋根の上にも板を渡して道が作られており、また建物の間に枝を広げた木が植えられいる。 貴猿族は、ほとんど下の道を使わずに、屋根の上の道か、木の枝を渡っているのだ。
そして建物の形と色は統一されている。 柔らかなオレンジ色の壁に緑色の平らな屋根は自然と一体化していて、夕日に照らされた町は一段と美しい。
貴猿たちの注目の的は、もちろん貴狼族の二人だ。 貴狼国のビトント町には多くの貴猿族が暮らしていたが、貴狼国に一番近いこのヤコボ町でも貴狼の姿は見当たらない。
「先生、ここには貴狼はおらへんのですか? 俺たち目立ってしゃあないわ」
「ふふふ、そうですね。 貴猿の国は貴狼族にとっては暮らし難いのでしょうね。 商談などでたまに貴狼族が訪れることはありますが、それ以外ではフラッとやってくる旅行者くらいでしょうか。 王都なら少ないですが貴狼族が暮らしていますけどね」
「先生やケント様はいつもこんな好奇の目に晒されていはったんやな。 今更ながら尊敬しますわ」
ヴィート先生はフフフと笑いながら慣れた足取りで急な上り坂を上がり、横道に逸れた先の宿屋に入る。
宿の入り口にある騎獣預り所に馬を預けた。
しかし宿というより、どう見てもホテルだ。 白いモダンな建物で、階段状に部屋が連なり、美しい造りになっている。
ヴィート先生がカウンターの受付に向かう。
「いらっしゃいませ!」
「貴狼2人と貴猿3人で」
「3人?」
そう言われてノエミちゃんが懐から顔を出した。
「あぁ、失礼いたしました。 ご案内いたします」
案内された部屋は、中東を思わせる高級感のある部屋だ。 天蓋付きのベッドもあり、インテリアもなかなか洒落ている。
荷物を置いて久しぶりの風呂に入り、宿の食堂で夕食を取ってから部屋に戻った。
「貴猿国の食事は美味しいでしょう?」
ノエミちゃんがヴィート先生の肩からピョンピョンと飛んで、運び込まれていた自分用の天蓋付きのベッドに乗っかった。
「うん、美味しかった。 ファビオたちには内緒だけど、こちらの食事の方が俺に合っているかもしれないな」
「やっぱり。 フフフ、貴狼族の御飯も美味しいけどね」
「そうだな」
俺は窓を開けて外を見た。
月明かりに照らされるこの町は美しい。
向かい側の山肌に敷き詰められた建物を、生い茂った木の枝が覆っている様子は神秘的にも見える。
せいぜい直径が3キロほどのこの町の向かい側斜面は端まで見渡せるのだが、森の木々が覆いかぶさっていて境目があいまいになり、山に溶け込んでいるように見える。
その時「フオッ!フオッ!フオッ!フオオオオオ~~ッ!!」と遠吠えが聞こえた。
「ホエザル?」
「そのようですね」
ヴィート先生は窓際まで来て聞き耳を立てる。 すると再びホエザルの遠吠えが響いてきた。
「ケント様! 大変です! ピューマの襲撃を受けているようです!」
ヴィート先生とノエミちゃんが慌てて外を見回す。
「先生! あれ!」
ノエミちゃんが指さした先は、向かい側の町の上の方だった。 遠くてよくは分からないが、貴猿たちが蜘蛛の子を散らすように逃げているのが見えた。
俺は剣を掴んで窓から飛び出した。 屋根の上を伝って走り、木の枝を使って道を飛び越える。
「ピューマだ!! 逃げろ!!」と叫びながら貴猿が逃げてくる方向に走った。
町の端まで来た時にピューマが見えた。 分かっていたがデカイ!
あの時の虎と同じくらいのサイズがある。
すでに一人の貴猿を捕えて肩に咬みついて抑え込んでいた。 どうやら兵士のようだ。
周りの兵士が剣を向けているが、近づこうとすると鋭い爪をむき出しにした太い前足で威嚇してくるので攻撃ができずにいる。
俺は走って来た勢いそのままにピューマの背中を飛び越えざまに斬りつける。
すぐさま鋭い爪が襲い掛かって来たが、紙一重で避けることが出来た。
背中から血を流すピューマは、俺が危険な対象と認識したのだろう。 襲っていた貴猿に背を向けて、長く鋭い牙を剥いて俺に向かって構えた。
ガルルルルッガルルルルッ!
口から血の混じったヨダレを垂らしながら地鳴りのような唸り声で威嚇してくる。
「みんな離れていろ!」
周りの兵士たちに向かって叫ぶが動こうとしない。 近くにいると俺の攻撃のとばっちりを受けるかもしれない。
「大丈夫だ!! 頼むから離れていてくれ!!」
ピューマから視線を離さずに怒鳴ると、兵士たちはゆっくりと離れて行ってくれた。
······よし!······お前に恨みはないが生きて帰すわけにはいかない······
俺は剣を握り直した。
ピューマはゆっくりと身を屈めて飛び掛かる機会を窺っている。
俺は誘うように足を一歩前に出すと、全身のバネを使って飛んで襲って来た。
俺は右に避けると同時にそこにある木を蹴ってピューマの反対側まで飛び、振り返る前にスパン!と右前足を切り落とした。
グワオォ!!と叫んで転がったが、直ぐに立ち上がる。 すかさず右肩を斬りつけてから距離を取った。
右足を切り落としたにも関わらず、果敢に向かってくる。 何度か斬りつけたが、諦めずに向かってこようとする。
ピューマも必死なのだ。 しかしケガをした兵士の手当てを早くしないと手遅れになってしまいそうで、少し焦りを感じた。
昆虫世界では左側の前足と中足の間が急所だった。 そこには心臓があるからだ。
しかし巨大モルドとの戦いの時に剣を深く突き刺してしまったがために、こちらも重傷を負ってしまった事が頭をよぎる。
······大丈夫、上手くやれる······
ピューマも動きが鈍ってきている。 再び木を反動に使ってピューマの頭にドロップキックを食らわし、転がるピューマが態勢を整える前に胸に深く剣を突き刺す。 そしてすぐに飛び退いた。
胸を刺されたピューマは血の泡を口から吐きながら俺がいた場所を後ろ足で何度も搔いている。 しかし少しずつ動きが鈍くなってきて、とうとう動きが止まった。
俺は念のためにもう一度止めを刺し直してから、倒れている貴猿の所に駆け寄った。
まだ息はあるが、酷い出血だ。 とにかく肩口の噛み傷を手で押さえる。
「誰か医者を!!」
その時、ファビオとニコロが走って来た。
「ケント殿!!」「ケント様!!」
「俺は大丈夫だ! それより医者を!」
「任せてください」
ファビオが抱き上げる。
「誰か診療所まで案内してくれへんか?」
「俺が!! こっちです!」
どこに隠れていたのか手足が長くて黒い毛の貴猿が前に出てきた。
······クモザル?······
走り出すクモザルの兄ちゃんの後を俺たちは追いかけた。
噛まれた兵士は大丈夫なのでしょうか?!
(;゜0゜)




