33話 俺は伝説の英雄、人間族だ!
33話 俺は伝説の英雄、人間族だ!
結局朝食を食べる暇はなく、そろそろ昼食の時間だ。
食事前にロキの部屋に寄った。
ノックをするとアージア先生が顔を出した。
「アージア先生、ロキは?」
アージア先生は悲しそうに首を振った。
「あれからベッドに潜り込んで顔も出してくださいません」
「そうですか······ちょっと失礼していいですか?」
「もちろんです」
アージア先生は扉を大きく開いて俺を招き入れ、自分は廊下に出た。 ファビオとニコロにも待つようにお願いして、俺は一人で入った。
ベッドに腰かけてロキに話しかける。
「ロキ、俺だ······今から手掛かりを求めて貴猿国に行ってくる」
「·········」
「顔も見せてくれないのか?」
ロキは布団からゆっくりと顔を出した。
「俺が必ず女王様···ロキのお母さんを救い出す。 必ずロキに逢わせてやるから······俺を信じて待てるよな?」
「本当に? お母様までいなくなったら僕は······ケント兄さんを信じていいの?」
俺は頷いた。
「俺は誰だ?」
「誰って?······ケント兄さんはケント兄さんでしょ?」
俺は顔の前で人差し指を立ててチッチッチッと横に振った。
「違う。 俺は伝説の英雄、人間族だ」
ロキの顔がパッと明るくなった。
「そうだね!」
「すぐにとは言えないが、必ず助けるからいい子で待っていろ」
「わかった!」
「飯は食ったか?」
「そういえば······」
「俺は準備があるから一緒に食ってやれないが、飯は必ず食うんだぞ」
「うん!」
「お母さんに心配かけないように、良く寝て良く喰って勉強や訓練を怠るなよ」
「わかった!」
「いい子だ。 では、行ってくる」
「行ってらっしゃい!!」
◇◇◇◇
昼食の前に警察消防隊の本部に寄った。
城の正門横に4階建ての立派な建物が建っている。 警察消防隊の本部用に建てられたものだ。
そこにカタラーニ指導員がいた。
「ケント様、どうなされたのですか?」
どうも女王が拉致されたことは一般兵には知らされていないようだ。 混乱を防ぐためにも当分はその方がいいかもしれない。
「ちょっと公用で暫く留守にする。 ファビオとニコロも一緒に行くが、問題ないな?」
「はい! 傭兵たちも最近では責任感に目覚めたようで、よくやってくれています」
「何かあれば遠慮せずにアゴスト歩兵隊隊長に相談するように」
「了解いたしました! 皆さん、お気を付けて行ってきてください」
「後は頼んだ」
警察消防隊の本部を出て、隣の御飯に行くと、コルラードだけがいた。
俺たちを見つけて立ち上がる。
「グイド達は?」
「打ち合わせで少し遅れます」
「相変わらず忙しそうだな」
「でもグイドさんはやりがいを感じると、異常に張り切っています。 少し前の俺たちから考えると噓のようで、毎日が充実しています」
「いい事だな」
「ところで今朝方、兵士たちが走り回っていたのですが、何かあったのですか?」
「いや······気にする事ではない。 それより俺たち3人は公用で暫く留守にする」
「どこかに行かれるのですか?」
「ちょっとな。 帰りがいつになるか分からないが、問題ないよな?」
「それは大丈夫ですが、みんな寂しがります。 早く来ないかな」
コルラードは入口の方に視線を向ける。
結局、食事が終わってもグイド達は戻ってこなかった。 まぁ、今生の別れでもないので「急ぐから」と、隣の御飯を出て城に向かった。
◇◇◇◇
自室に戻って支度を整えている時に「出発の準備が整いました」と、兵士が呼びに来た。
ファビオたちも一緒に兵士についていくと、城門前に荷を乗せた馬が4頭と、重臣たちが待っていた。
もちろんヴィート先生たちもいる。
馬には貴猿国までの食料や毛布などが乗せてある。 そして貴猿王への書簡はヴィート先生に渡された。
「ケント様、女王様の情報を必ず掴んでください」
「はい! 何としても」
俺たちは取り急ぎ出発した。
◇◇◇◇
暫く走ると、隠し通路の出口になっている小屋があり、その先では女王捜索の為に残った4人の兵士たちが散らばって臭いを探していた。
その中の一人の近くでファビオは馬から降りた。
「どうだ、何かわかったか?」
「副隊長。 あの辺りにもまた女王様の血痕があったのですが······」
俺たちの後ろを指さした。
「その先には何もなく、手掛かりはありません」
「そうか······我々は貴猿国に向かう事になった。 だからお前たちはもう戻れ」
「そうですか、わかりました。 みなさんの旅のご無事をお祈りしています」
その兵士は俺たちに頭を下げると、ワオン!と吠えた。 そして狼の姿のままで走り出すと、散っていた兵士たちもその兵士の後を追って行った。
「やっぱり手掛かりはなかったか。 でも血痕だけってどういう事なんやろう? 馬とか馬車に乗ったんかな?」
「それにしては騎獣の臭いも馬車の轍もない。 ヴィート先生、どういう事だと思われますか?」
ファビオの問いにヴィート先生は嬉しそうだ。 何せ挨拶も頭を下げるだけ、必要なこと以外話もしないし近くに寄ろうともしないのだから、ファビオ好きのヴィート先生は寂しかったのだろう。
······ファビオが避ける気持ちは分かるけど······
「そうですねぇ······残念ながら私にも分かりませんね。 血痕だけを残すという事は、他の臭いを知られたくないのか······たまたまそうなったのか······」
······俺の世界でも警察犬が臭いを見失うのは、車に乗った時とかだよな······
その時、俺はフッと閃いた。
「翼竜······先生、女王様は翼竜に乗ったか、翼竜に捕まったとは考えられませんか?」
ヴィート先生とファビオは顔を見合わせた。 慌ててファビオは視線を逸らすが、ヴィート先生な嬉しそうにファビオの顔を見つめている。
「ほんまや! それや! それしか考えられへんわ! さすがケント様や」
「しかしなぜ翼竜が女王様を貴猿国に運ぶのでしょう?」
ファビオから視線を外したヴィート先生がニコロに聞く。
「それは······」
ニコロは言葉に詰まる。 当然だ。 今ここにいる者の誰にも分からない事だ。
「とにかく貴猿国に行こう。 ここで考えていても答えは出ないだろう」
「そうですね、参りましょう」
俺たちは再び走り出した。
本当に翼竜の仕業なのでしょうか?
なぜ翼竜が?
(;゜0゜)




