31話 大事件勃発!
31話 大事件勃発!
ある日の早朝。
朝風呂に入った後、ゆっくりしていると、表でバタバタドンドンと騒がしい。
そして「副隊長!! ファビオ副隊長!!」という切羽詰まったような声が聞こえてきた。
窓から顔を出すと、ファビオと近衛隊の赤い軍服を着た兵士が慌てて走っていくのが見えた。
どうしたのかと思っていると、ニコロも家から出てきて、走って行こうとしている。
今、ファビオとニコロは同じ家に住んでいるのだ。
「ニコロ!! 何かあったのか?!」
「ケント様!」
ニコロは俺の前まで走ってきた。
「大変や! ロキ様と女王様が行方不明なんや!」
「なんだって?! ちょっと待ってくれ、俺も行く!」
急いで服を着て、城に向かった。
◇◇◇◇
「ロキ様も女王様もどこにもいらっしゃらない」
ファビオは立ちつくし、ニコロも柄にもなくオロオロしている。 城の中は探しつくした。 城外に出たとしか考えられなかった。
「ファビオ、アージア先生は?」
「そういえば······」
「ほんまや、忘れてたわ! ちょっと見てくる!」
ニコロは走って行った。
結局アージア先生の家まで確認しに行ったが、彼女もいないし、見た者がいないか聞いて回ったが、誰も知らないという。
「もしかしたらアージア先生とロキと女王様が3人でどこかに行っているのかもしれないぞ?」
「ロキ様はともかく、女王様が近衛兵に黙ってお出かけになるはずはないです」
「何か急用があったのかもしれないし······」
「今、街中も捜索しているのですが······」
その時、遠くでワオォォォォォ~と、遠吠えが聞こえてきた。
ファビオの顔がパッと明るくなる。
「ロキ様がお戻りになったそうです」
3人で城門まで走って行った。 既に数人の近衛兵が待っている。 その中にいつも女王様の後ろに立っていた兵士がいた。
よく見るとファビオの軍服より袖の線が多い。 近衛隊隊長だそうだ。
ロキとアージア先生が見えてきたので、全員が駆け寄った。
全員がロキの前で直立不動になる。
「ロキ様、お探し致しておりました。 女王様はご一緒ではないのですか?」
「え?! お母様は来てないよ。 いないの?」
「·········」
隊長を含め全員が呆然と立ち尽くす。
俺はロキの前にしゃがんで顔を見上げた。
「どこに行っていたんだ?」
「あ···朝日を見に······」
「申し訳ありません! 私がお誘いしたばかりに!」
「ロキ、なぜみんなに黙って行った? 俺を探しに行った時に怒られただろう?」
「朝食までに戻れば大丈夫だと思って。 城を出るとなったら手続きが面倒だから······」
「手続きなんてものが必要なのか······じゃあ女王様にも話していないのか?」
「うん······お母様がどうしたの?」
俺は話していいものかと隊長に目を向けると、隊長は厳しい顔で頷いた。
「落ち着いて聞けよ······女王様がどこにもいらっしゃらない。 ロキと一緒に出掛けたのかと思ったのだが」
「お母様が?!!」
「大丈夫だ。 必ず探し出すから部屋に戻っていろ」
返事がない。 ショックが大きすぎて放心状態になっている。
「くれぐれもロキから目を離さないように」と、ロキ付きの近衛隊にくぎを刺した。
ロキはアージア先生に肩を抱かれて、部屋に戻って行った。
「ロキを探しに行って入れ違いになったんじゃないのか?」
「いいえ······そういう時も女王様は必ず近衛隊に事情を説明されるはずです」
「という事は······拉致されたか、何かの事情でコッソリ城を抜け出したかだな」
ファビオと近衛隊隊長は顔を見合わせる。
「場内からの拉致は不可能かと······」
「じゃあ、こっそりと出て行ったのか? なぜだろう······」
「それもあり得ない事ですが、いらっしゃらない事の説明がつきません」
「ロキは城からこっそり出る時は、城壁に開いている小さな穴から外に出ているそうだが、女王様にもそんな場所があるのか? 兵士に見つからずに出られるようなところが」
みんな顔を合わせる。
「ケント様、ロキ様が通られる城壁の穴の場所をご存じですか?」
「多分、こっちだ」
案内したが、その穴の周りには、ロキとアージア先生の臭いしかないそうだ。
「じゃあ、後は隠し通路とか······」
俺のつぶやきに、隊長とファビオは顔を見合わせる。 そして二人は別々の方向に走り出した。
もちろん俺とニコロはファビオについていく。
隠し通路なので地下か一階だろうと思っていたのだが、なぜか2階の大広間に入っていく。 そしてその奥にある書斎のような部屋に入った。
ファビオはその部屋の臭いを嗅いでいたが、突然書棚に手をかけて動かそうとする。
ニコロも手伝って動かした書棚の後ろから隠し通路が出てきた。 そして中に入ると直ぐにまた臭いを嗅ぎ始めた。
「女王様の新しい臭いがします。 ここから抜け出されたのに間違いないです」
ファビオはワオォォォォ~と、遠吠えで知らせてから中に入る。 俺とニコロもついていった。
◇◇◇◇
通路の中は真っ暗だ。 中に置いてあるカンテラに火をつけて足早に降りて行った。
当然窓もないのでどこまで下りたのか、どこに向かっているのか分からないが、2時間は過ぎただろう。 唐突に行き止まりになり、横に梯子がかかっている。
「臭いは続いているのか?」
「はい、ここで間違いありません」
ファビオは梯子を上って上の蓋を押し開けると、光が差し込んできた。
梯子を上って顔を出して見ると、そこは使われていないような汚れて散らかった小屋の中だ。 そしてそこに置いてあるように見える木箱が出入口になっていた。
小屋を出る。 そこは低い山の麓で、遠くの方にジャンド町が見える。
どうやら町の東の方に出てきたようだ。 そのはるか先には恐ろしく高い山々が連なっている。
その山は貴猿族の領土だそうだ。
ファビオとニコロは転変して女王の臭いを探して走り出した。
······ニコロのタテガミ狼の姿だ!! 足が長すぎ!! カッコいい!······
この非常事態に不謹慎にもそんな事を考えながら二人の後をついていく。 低い山の麓をグルリと回った辺りで二人が止まった。
「なんやこれ?」
「嗅いだことがない匂いだな」
「ほんまに。 それにここで女王様の臭いがなくなったで」
「なぜだ······」
ファビオが辺りの臭いを嗅いで女王様の臭いを探している。 ニコロも臭いを嗅ぐ範囲を広げて探していた。
「ケント様! ファビオ! これを見てくれ!」
ニコロに言われて走っていくと、そこには血痕があった。 ファビオはその血痕の臭いを嗅ぐ。
「女王様の血痕で間違いない!!」
「これは絶対女王様に何かあったんや!! どうしたらいいんや!!」
「この先にあるのは貴猿国だよな」
「そうです」
「貴猿族が女王様を連れ去ったんちゃうんか?」
「方向だけで決める事はできない······一度戻った方がよくないか?」
「そうですね、このまま追っても······」
その時、隠し通路の出口がある小屋から、貴狼たちがゾロゾロと出てきた。
近衛隊長たちである。
「副隊長、どうなった?」
「隊長、こちらに女王様の血痕があり、その先の臭いが消えています」
「なに?! 血痕だと?!」
隊長も血痕の臭いを嗅いで、ショックを受けている。
「ケント様が一度戻った方がいいのではないかと」
「そうだな、このまま貴猿国まで行くわけにもいかないからな。 とにかく何人かはこのまま捜索を続けてもらうが、日没には戻ってくるように」
隊長と一緒に来ていた兵士4人は転変して臭いを探しまわり、俺たちは(地上を)戻って行った。
女王様がいなくなった!!
何があったのだろう?!!
( ̄□||||!!




