29話 警察隊と消防隊の顧問
29話 警察隊と消防隊の顧問
翌日の朝食の時。 と言っても俺は1時間ほどしか寝ていないが、気分はいい。
いつもの部屋に入ると、ロキとニコロが既に座っていて、それはいいのだが、なぜか見知らぬ女性と、なんと!! 女王様まで座っていた。
「ケント兄さん! おはよう!」
「ケント様、おはようございます」
「女王様! おはようございます。 どうされたのですか?」
「たまにはロキやケント様と朝食でもと思いまして」
「まさか······」
「ホホホホ、昨夜の報告を聞きました。 私の国であのような事が起こっているとは知らず、お恥ずかしい限りです」
「前に連行した時には罪に問えなかったので、今回こそうまくいけばいいと願っています」
その時にノックがあってファビオが駆け込んで来た。
「ケント殿!! あっ!! あたた······」
女王がいることを知らなかったのだろう。 慌てて直立不動になったのはいいが、走ってきたためにこけそうになって慌てている。
「副隊長、気になさらくてよろしいのよ。 公的な場ではありませんのでいつも通りにしてください」
「ありがとうございます。 失礼致します」
ちょっとぎこちなく俺の横まで歩いてきた。
「ケント殿···ケント様が仰ると通りでした。 刑部のあの取調官はマッサリオから金品を受け取り、やつらが捕えられても罪に問えないように証拠や証言を隠蔽していたようです」
「やっぱり」
「案外直ぐに吐きました。 これで今回奴らは罪から逃れる事はできないでしょう」
「副隊長、どういう事ですか?」
「はっ! 女王様。 前回マッサリオ一味を捕えた時に取調官とマッサリオが目配せした事をケント様が気付かれたそうです。 それで取調官を問い詰めるように私にお願いしてこられたのであります」
「なんという破廉恥な······重ね重ねケント様には足を向けて眠れません」
「やめてください、女王様。 これも、たまたま気付いただけです」
「やはりケント様は私たちには無い何かをお持ちなのですわ。 そこでお願いがあるのですけれど」
······お願いが本題だろう。 何なのか楽しみだ······
「何でも仰ってください」
「警察隊や消防隊も本格的に作る事が決まったのですが、ケント様に顧問を務めていただきたいのです」
「顧問ですか? 相談役のようなものですね。 もちろん喜んでお受けします」
「よかったですわ。 忙しくなると思いますので申し訳ないのですけど」
「とんでもないです!!」
女王は話すべきことが済んだ様子で、食事に専念しはじめた。
しかし、当然のようにロキと並んで一緒に食事をしている女性を誰も紹介してくれない。
「ロキ······その女性は?」
「ケント兄さん、やっと気が付いた?」
······いやいや、初めから気付いていたけど······
「この人はね、僕の新しい教育係兼世話係のテェルラ・アージア先生だよ」
「アージアです。 よろしくお願いいたします。 ケント様、ファビオ様」
体は小ぶりで耳も小さいが目が大きくてクリッとした可愛らしい女性だ。
ニコロの声がしないと思ったら、黙ってアージアに見とれていた。
······ニコロさん! 尻尾がちぎれそうですよ!······
「でね、新しい先生がもう一人増えたんだ。 貴狼族王室初めての貴猿の先生なんだ」
「へぇ~、今までいなかったのか」
「うん。 そしてね······その先生が連れている助手はこんな小さくて可愛らしいんだ! 今度ケント兄さんに会わせてあげるね」
ロキは親指と人差し指を広げてみせた。
······小さな助手を連れている貴猿って······
俺はハッとしてファビオを見ると、ファビオの耳がペタンと垂れて、凄い困り顔になった。
「それってヴィート先生とノエミちゃんか?」
「ケント兄さん、知っているの? さすがだね」
······ファビオの天敵再び現る······だな······
◇◇◇◇
食後、俺たち3人は刑部に行ってマッサリオの悪行についての証言をした。 パドヴァ地区の住民も証言をしようと大勢詰めかけているらしい。
証言の調書を取り終えてから、マッサリオの取り調べを見せてもらった。 もちろん取調官は替わっている。
俺の顔を見たマッサリオは耳を伏せた。 今まで反抗的な態度をとっていたそうだが、俺の顔を見てからは、観念したのか大人しく罪を認める証言を始めた。
後日聞いた話なのだが、当然のごとくマッサリオたちの刑は確定した。
この国に死刑はない。 その代わりに【三肢の刑】というのがあり、剣を生業にしている者にとっては致命的な刑がある。
それは後ろの利き足を斬り落とすのだそうだ。
マッサリオは一番重い刑で、右の後ろ足の付け根から斬り落とされる。 そして他の4人は少し軽い刑で、足首から斬り落とすのだそうだ。 当然この世界には義手や義足などはないし、教えてやる気もない。
ただ転変して四つ足になれば、一本なくても歩くことは出来る。 転変して剣を持つなということだろう。
ちなみに他の犯罪によっては腕を斬り落としたり、舌を斬り落としたりすることもあるそうだ。
ちょっと野蛮な気もするが、長期間牢屋に閉じ込める懲役刑はなくて、体罰的なものがほとんどらしい。
マッサ自警団の者達は、30~50回の鞭打ちの刑だけだと言っていた。
後日聞いた話だが、刑が執行されて城から出てきたマッサリオたちが、パドヴァ地区の住人たちによって殴り殺されたらしい。
国はそういう報復を見て見ぬふりをするのが通例だという。
可哀そうだが、それだけ住民たちの恨みが大きかったのだろう。
◇◇◇◇
俺の手の傷も癒えた頃、ニコロによる双剣の訓練が始まった。
基本はファビオに習っているし、双剣の理論は聴いた。 しかし本格的な動きはやっぱり難しい。
これまた動きが分かりやすい癖がついているという事で、修正から始まった。
やはり双剣の鬼神と言われるだけあって、ニコロは剣を持つと恐ろしいほど人が変わる。
初めの頃は手加減なしにボコボコにされたが、直ぐに立場は逆転した。
今ではファビオとニコロを含めて20~30人と闘っても余裕で勝てるようになった。
「もう俺が教える事はなくなったわ。 そうなるとドメンゴル町に帰らなあかんな······ここにいたいのに」
「ファビオ、あの件は聴いてくれたか?」
「はい、承諾をいただきました」
「何の事や?」
「ニコロを当分の間、俺付きの警護兵にしてもらえることになった」
「わぁ!! ほんまか?!! やった!! さすがケント様や」
「実のところ警察のための視察や何やらの時に、ファビオはクソ真面目すぎるし、喋らずに睨んで分からせようとするから、ニコロのフォローにいつも助けられていたんだ」
「そうやろ、そうやろ」
「それで女王様にお願いしたんだ。 でもドメンゴル町には実家があるんだろう? こっちに来て大丈夫か?」
「じつは配置換えを前からお願いしてたんや。 でもジャンド町の次に大きいドメンゴル町の歩兵隊をまとめるように命令を受けてたから、ダメやと思ってたんや」
「それは良かった。 これからよろしく」
「よろしくたのみます」
ニコロとファビオも長いフサフサな尻尾をブンブンと振っている。
······俺も尻尾がほしい······
ニコロもずっと一緒!
良かったね!( *´艸`)




