28話 マッサリオ
28話 マッサリオ
「きさまぁ! お前はただの貴猿ではないな。 何者だ?!」
あっさりと仲間4人を倒した俺に、マッサリオは怒鳴る。
「俺か? 俺は人間だよ」
「に?···人間?······伝説の?······」
「そうだ、伝説の人間族だ」
それを聞いたマッサリオはニンマリと笑った。
「人間族か······それはいい······伝説の人間族を殺して、今度は俺が伝説の貴狼族になってやる、ハハハハハハ!」
俺は白い包帯を巻いた手で剣をスラリと抜いた。 アドレナリンが出ているのか、手のひらの火傷の痛みは感じなかった。
「伝説の貴狼族か。 なれるといいな」
「なるさ」
マッサリオの体がゆらりと揺れた途端、目の前にいた。
······早い!!······俺には見えているけどね······
振り下ろしてきた剣を跳ね返した。
「くそっ!」
多分この一撃を防げる者はほとんどいないだろう。 しかし軽く俺に受けられて、マッサリオの顔が歪む。
すぐに上から横から攻撃してくるが俺は平然と受ける。 しかし面倒なので次に攻撃してきた時に、カキン!と剣を斬ってやった。
「あっ!」
焦ったマッサリオは折れた剣を投げ捨てた。 そして倒れている仲間の手にある剣を取ろうと下に手を伸ばした途端、俺は奴の顔を蹴り上げた。
「グエッ!」
今度は顔を上げたマッサリオの腹を、思いっきり回し蹴りで蹴り飛ばした。
ズドドン! ガラガラ!!
マッサリオは壁をぶち破って隣の部屋まで飛ばされて、そのまま動かなくなった。
◇◇◇◇
未だに室内の気絶している団員とベランダの二人と、マッサリオたち5人組をロープで縛り終えた時、バン!と部屋のドアが開いた。
ファビオとボルジアだ。 後ろに数人の貴狼が続いていた。
「ケント殿!!·········?!······えっと······」
「ケ···ケントさん、スゲェな。 全部やっつけたのか?」
「庭の奴らは?」
「ダニオが俺の仲間と一緒に取り押さえている」
「あっ!」
縛られずに床に倒れている男に気づいたファビオが走っていく。 しかし死んでいるのが分かり、驚いて俺の顔を見上げた。
「ケント殿······」
「そいつはボルジアさんの家に火をつけた放火犯だ。 マッサリオが証拠を生かしておけないと言って殺した」
「なんと非道な」
「そいつを殺したところも、マッサリオが放火を命じたという話も聞いた。 今度こそ罰せられるよな」
「もちろんです」
「ボルジアさん、火事は?」
「家の回りに置いてある物が燃えただけで中まで火が回らずに済んだ。 ケントさんのおかげだ、本当にありがとう」
「よかった。 しかし証言した腹いせに一家皆殺しにしようとするなんて、本当に許せない。 この後こいつらを市中引き回しの刑にしてやる」
「そんな刑があるのですか?」
俺はニンマリと笑った。
「俺の世界で昔にあったそうだが、罪状を書いた立て札と共に悪人を連れまわして見せしめにするんだ。
今度こそこいつらが捕まったことをみんなに知らしめれば、証言してくれる者が多く現れるかと思うのだが······」
「さすがケントさん、それはいい考えだ。 奴らが連れ回されている時に、もう俺たちが証言しても平気だという事をみんなに分かってもらえるように話して回ろう」
「そうしてくれると、証人が増えるだろう。 それと元トラーニ自警団でマッサ自警団に入って悪さをした者たちも、きちんと証言してくれれば減刑してくれるように俺からお願いしてみる」
「それは助かる。 きっと喜んで証言してくれるだろう」
◇◇◇◇
暫くして兵士たちがゾロゾロと入って来た。
てっきりジュノバ詰所から来るのかと思っていたら、城から直接来たようだ。
先頭で入って来たのはニコロだった。
「ケント様! 俺を置いていくなんて酷いやんか!」
「すまん」
「今度こそ罰せられるんか?」
「もちろん」
「それはよかったなぁ。 ケント様は本当に思い悩んどったもんな」
「痛々しいほどでした」
「ははは······」
······みんな気付いていたんだ······
捕えた団員たちは一人ずつ縛っているが、マッサリオたち5人は一纏めにして縛ってある。
兵士たちに追い立てられてマッサリオたちは押し合いながらやっと立ち上がった。
「おい! 縛っていていいから一人ずつにしてくれ」
「大変そうだな。 こけないように気をつけて階段を降りろよ」
「聞いているのか?! お前が縛ったんだろうが!! 別々に縛りなおせよ!」
「ほら、よそ見していると、5人まとめて階段から落ちるぞ」
5人を背中合わせに縛っているから、後ろ向きに階段を下りる事になる奴もいるのだ。
「おい! 気を付けろ」
「ゆっくり行きますよ」
「ちょっと待ってくれよ! あっ! わわっ!」
「まてまて! ち···ちょっと······」
「見えねえよ、声をかけてくれよ、わぁ!! わっ! とっと······」
情けない声を上げながら階段を下りて行った。
多くの人を苦しめ、罪のない人々を殺してきた彼らの情けない姿を見て、街の住人たちも少しは溜飲を下げてくれればいいと思った。
玄関を出ると、ダニオが待っていた。
既に空は白みかけている。
「ケントさん、本当にありがとうございました。 俺の家族の命を救ってくれただけでなく、この街まで救ってくださったことは決して忘れません」
ダニオと一緒に仲間たちも一緒に頭を下げてきた。
「そんな事は忘れていいから、早くこの街が元に戻る事を祈っているよ」
「「「はい!」」」
広い庭を通って大きな門の外に出た。
朝も早いというのにそこには大勢のパドヴァ地区の住人が待っていた。
未だに恐怖が残っているのだろう。 誰も声を出さず、シンと静まり返った街中を、纏めて縛られて、歩きにくそうにしているマッサリオたちを数人の兵士が囲んで引いていく。
横向きや後ろ向きの者は悪態をつき、お互いの足を踏んだりつまづいたりして、こけそうになりながら少しずつ歩みを進めていた。
その時、いつの間にか人ごみに紛れていたボルジアが大きな声で叫んだ
「今朝、こいつの命令で俺の家に放火した奴がいるんだ!! そいつは捕まえた。 放火はこいつの指示だという事も分かっている。
もう一人の放火犯は無残にマッサリオに殺された! こんな事をいつまで続ける!!
ちゃんと証言してこいつらを厳罰にしてもらわなければ再び悲劇が起きるぞ!」
「俺の家も放火された!! 今から一緒に行って、俺も証言するつもりだ!
法外な上納金を請求された者や、タダで飲み食いされた者! 証言しないように脅された者! 証言しようとして殺された者と縁のある者!
奴らに重い罰を受けさせよう!」
それを聞いて、ざわつき始めた。
「そうだ! 二度と奴らが戻ってこれないように俺も証言するぞ!」
「私は店の帳簿を持ってくるわ! 奴らにいくら巻き上げられたかすべて書いているのよ」
「俺も!」
「私も!」
ある者は急いでどこかに走っていき、ある者は隊列の後ろに並んでついていった。
今度こそ、マッサリオたちは厳罰に処されるでしょう!( ̄ー ̄)b




