26話 迫りくる嫌な予感
26話 迫りくる嫌な予感
ボルジアの案内でジルドという店の近くまで来た。
ジルドというのは家具店のようだ。 大きな間口の店先にはテーブルや椅子などが並べられている。
そして店の前や中には20人ほどの団員とみられる男たちがたむろしていた。
「あの店の2階です」
店には外階段がある。 開け放たれた2階の窓から覗き込んでいた団員が俺たちを見て「ボス!! 表に······」と中に向かって叫んでいる。
ジュノバ詰所の班長が先頭に立って店の方に向かうと、団員たちが行かせまいとして立ちはだかった。
「どけっ! お前らも捕まりたいか!」
班長に怒鳴られたが団員たちは当然退く気はないようだ。
ボルジアとダニオが前に出てきた。
「あっ、ボルさんとダニさん」
「お前たちは奴らの言いなりになっていただけだろう? 奴らを捕まえに来たんだ」
「抵抗するとお前たちも捕まってしまう。 頼むから道を開けてくれ」
お互いに顔を見合わせながら、少しずつ後ろに下がって行った。
「行くぞ」
班長を先頭に外階段に向かい、俺たちも黙って後ろからついていく。
兵士たちは2階に駆け上がり、バン!とドアを開けた。
例の5人がソファーに座り、10人の団員が壁際に立っていた。 しかし兵士が飛び込んできたのを見て、剣を抜いて構えている。
「マッサリオとその一味! トラーニ自警団の幹部たちを殺し、パドヴァ地区の住民たちを苦しめ、証人とその一家を皆殺しにし、その他諸々で捕縛する」
······マッサリオという奴は、真ん中の一人掛けのソファーにふんぞり返っている奴か? ニコロと同じタテガミオオカミだ······手足が無駄に長い······
「お前ら、下がっていろ」
マッサリオの命令に団員は渋々剣を収めて壁際に並ぶ。
「これは兵士さんたち、どういう事ですか?」
「お前たちがパドヴァ地区住民を苦しめているという証言があった。 また、トラーニ自警団の幹部たちを殺したのもお前たちだと聞いた。
詳しい事情を聴きたいので、刑部まで来てもらおうか」
「俺たちは何もしていませんよ」
「とにかく来てもらおうか」
「分かりましたよ。 直ぐに戻るから待っておけ」
団員たちにそういうと、5人は大人しく立ち上がる。
「あれ、名前はなんて言ったっけ······忘れた······君たち元幹部だよね、もしかして証言したのは君たち? ご苦労な事だね。 ハハハハハハ!」
······なんだか超ムカつく······
5人は抵抗する事もなく、大人しく城までついてきた。 そして証言をするためにボルジアとダニオも一緒に城に入って行った。
◇◇◇◇
俺はお願いして刑部の取り調べの様子を見せてもらった。
何だかのらりくらりとして話が進まない。
もちろんマッサリオたちは容疑を認めないし、ボルジアの証言も証拠はないと言われ、ダニオが殺されかけたのはマッサリオたちの仕業だと訴えるが、本人たちが否定しているからと聞き入れてもらえなかった。
結局、他の証拠や証人を集める必要があるという事で、今日は帰って自宅待機するようにと言い渡された。
彼らが部屋を出て行く時、薄ら笑いを浮かべているマッサリオと刑部の取調官が、目配せをしたように俺には見えた。
◇◇◇◇
今日は許しをもらってロキとの夕食はニコロと食べてもらい、俺とファビオは黙ったまま遅い夕食を食べた。
食後、自室に戻り風呂に入る。 風呂の時間はとっくに過ぎていたのだが、待っていてくれたのだ。
湯船につかっていると、ベルタが話しかけてきた。
「ケント様、湯加減はいかがですか?」
「うん、ありがとう······丁度いい」
「······大丈夫ですか? お声が沈んでおられるようですが」
「······なんでもない」
「·········」
暫く沈黙があった。
「······いつも頭で考えるより先に体が動いてしまうって仰っている方が、そんなに悩まれるのですから、何かよっぽど大変なことが起こっているのですね······」
その言葉に俺はハッとして顔を上げた。
······そうだ。 俺は気付くと体が先に動いていたのに、なぜ今回はこんなにウジウジと思い悩んでいるのだろう······
「ありがとう!」
「えっ?」
俺はザバッ!と風呂から上がると急いで着替えた。
······気になるなら考えていないで動いてみればよかったんだ······
······ずっと付きまとっていた嫌な予感······ただの思い過ごしならいいのだが······
隣のファビオの家のドアを叩いた。 顔を出したファビオは俺の顔を見ただけで察したようだ。 直ぐに剣を掴んで背負った。
「先に行く!」
「はい!」
俺はパドヴァ地区に向かって走り出した。
俺が全速力で走るので、転変して狼の姿で走るファビオでも離されていく。
しかし気にしている暇はない。
人の多い大通りは通らずに屋根の上を走る。 大きな月の明かりだけで十分だ。
······ただの思い過ごしならそれでいい···しかし嫌な予感がどうしよもなく俺を追い立てる······
パドヴァ地区に入り、ダニオの店に向かった。
屋根の上から見ると、ダニオの店の前に誰かがしゃがんでいるように見えた。
「何をしているんだ? あっ!!」
その男の足元から赤い炎が立ち上がって来た。
「きさまっ!!」
屋根から飛び降りざまにその放火犯を思いきり蹴とばした。そのまま遠くに飛んでいく。
とにかくそいつは放っておいて先に火を消す。 しかし油を撒いているようで直ぐに消えない。
放火犯を飛ばした方向に井戸が見えたので急いで井戸に向かう。
「ケント殿!!」
ファビオが追いついてきた。
ナイスタイミングだ。 俺は転がっている放火犯を掴んでファビオの方に向かって投げた。
「受け取れ!」
「はい?」
ファビオは飛んできたものを慌て避けたので、放火犯はガラガラガッシャンとものすごい音を立ててゴミ置き場に突っ込んだ。
「誰だぁ?!! あっ!」
物音で起きてきたダニオは火事に気付き慌てて降りてきた。
その時俺も井戸で汲んできた水を持ってきて燃える炎にかける。 油が撒かれているようだが、燃え始めたばかりなので、あまり広がってはいない。
再び水を汲んで戻って来た時にはダニオも水を火にかけていて、俺がかけた水でとりあえず鎮火した。
「ファビオ、放火犯は?」
「あそこに」
放火犯は大きなゴミ箱の中に頭を突っ込んで気絶していた。
油を撒いた所に火をつけて、水で消火できるのでしょうか?
異世界の油の様なものと思って下さいませ。
(゜_゜;)




