24話 パドヴァ地区
24話 パドヴァ地区
再びパドヴァ地区に向かって歩き出した。
にぎやかな大通りから横道にそれて、二筋先に行くと、急に寂れた街並みに変わった。
商店は半分以上閉まっていて、割れた窓や壊れた建物は修理もされずに放ってある。 道行く人たちは生気もなく疲れ果てているように見えた。
「この辺りってこんなに寂れとったか? 俺がおった頃のイメージとちゃうんやけど」
カタラーニ班長は周りを見回してから、声を落とした。
「実はこの辺りで数年前から突然マッサ組という勢力が台頭してきたのですが、それ以来急激にこの辺りが廃れてきました」
「マッサ組? 聞いた事あれへんな······ファビオは知ってるんか?」
「いや、聞いたことがないし、報告書にも書いていなかったと思うが?」
「はい。 彼らは今までこの辺りを護っていた自警団を追い出してマッサ自警団と名乗っています。
しかし被害者たちは酷い目にあっても決して彼らの名前を出しません。 きっと報復を恐れているのでしょう。
しかし噂では用心棒代と称して法外なみかじめ料を払わされたり、タダで飲み食いしたり、気にくわない店主がいれば、因縁をつけて店を壊したりとやりたい放題のようです」
「取り締まらないのか?」
「先ほども言いましたように、被害者が訴えないので我々としても動きようがなく······」
その時、前からフラフラと歩いてきた男がドン!と俺にぶつかった。
「おっと、すまねぇ」と言って通り過ぎようとする男の腕を掴む。
「なっ! 何するんだ!この野郎!」
そういった男の手には俺の財布が握られている。 反対の手で殴りかかってきたが、その手も掴んだ。
「は···放せ!!」
俺の手から逃れようと暴れるので、力を入れて抑え込むとイテテテ!!と、膝をついた。
「あれっ?! それはケント様の財布ちゃうんか? そいつがスったんか?」
「みたいだな」
「こいつもケント様の財布を狙うとは、運のない奴や。 班長そいつを······」
「はい!」
カタラーニ班長は俺からスリの現行犯を受け取って縄をかけた。
「こいつを連行したいのですが、後は私がいなくてもよろしいですか?」
「俺たちは大丈夫だ、そいつを頼む」
「承知いたしました!」
カタラーニ班長はスリ犯を連れて行った。
◇◇◇◇
「しかし、そこかしこから視線を感じるのだが」
「はい、そのようです」
「ほんまやなぁ。 なんか見張られてる感じがするわ」
3人でブラブラと歩いているのだが、生気のない目で見られていると思ったら、今度は殺気を持った鋭い目で見てくる者もいるようだ。
しかし街中はゴミが散乱していて悪臭も漂ってくる。
今まで見てきた街は、整備されゴミもなく、道行く人々も活気にあふれていた。 こんな区域もあるのかと何だかショックだった。
「貴猿の兄ちゃん!」
突然後ろから呼ばれて振り返ると、男女の貴狼がこっちに向かってくる。 見覚えのある大柄の男性と、その太い腕に細い腕を回している女性も見覚えがあった。
「あっ! お二人さん! もしかして······」
「貴猿の兄ちゃんのおかげでこういう事になれた。 本当に感謝している」
「ほんとうに······貴猿の兄さんのアドバイスのおかげで、この人は本当に優しくなったのよ。 いつかまた会えたらお礼をしようと、いつも話していたの」
「お礼なんていらないけど、よかったですね」
「いやいや、それでは俺の気が済まねぇ。
お連れさんも一緒に一杯どうだ?」
ファビオとニコロを見ると、ニコロは嬉しそうに頷いているが、案の定、ファビオは首を横に振っている。
きっと「昼間っから酒など」と思っているのだろう。
「じゃあ、そろそろ休憩したいと思っていたから、お茶なら」
「任せろ、ケーキが貴狼国一美味い店がある。 こっちだ」
次の角を曲がって広い通りに出た。 だが相変わらず人通りもまばらで寂しい街並みだ。
その少し先にケーキの模様が描かれた看板があった。
「あそこだ」
オシャレな店のようなのだが、ガラスにはヒビが入っていて軒先テントは破れたままになっている。
しかし店の中はきれいに掃除され、いい香りが漂っていた。
「いらっしゃい」と店の奥から出てきたのは小ぶりの女性だが結構太っている。
いや······太っているのではなくて、お腹に子供がいるようだ。
「あら、ボルジアさんとパオラさん。 その方たちはお友達?」
その女性は可愛らしく首を傾ける。
······この二人の名前はボルジアとパオラっていうのか······自己紹介を忘れていた······
「この前話していた貴猿の兄ちゃんだ」
「まあ! 二人を結び付けてくれた?」
「そうよ、イレーネ。 お礼に美味しいものを食べてもらいたいのだけど」
「とりあえず座って! 旦那を呼んでくるわ」
イレーネと呼ばれた妊婦さんは奥に入って行った。 そして直ぐに出てきた旦那というのはファビオ並みに大きい貴狼で、右目が傷で塞がっていて、ちょっと強面だった。
「縁結びの兄ちゃんが来たって?」
「そうなんだ、ダニオ。 貴猿の兄ちゃんとそのお友達だ。 お礼に何か美味いものを出してくれ」
「任せろ!」
強面のダニオは顔を崩して人好きのする優しそうな笑顔を見せてから、奥に入って行った。
「そう言えば自己紹介してなかったな。 俺はケント」
「俺はボルジアで、こいつはパオラ」
「パオラです、よろしく」
「彼がファビオでこっちがニコロ」
「よろしく」
「よろしくね」
そう言いながらボルジアは首を捻っている。
どこかで聞いたような······と、ブツブツ呟いていたが、思い出したのか「あっ!······えっ?!······えぇ~~~っ!!」と目が飛び出しそうになっている。
「どうしたの? 何を驚いているのよ」
「えっと······ちょっと失礼······」
ボルジアはパオラを部屋の隅に連れて行った。
そしてコソコソ話していたが「えっ! うそ!!」とパオラが驚いて、そこにある椅子にドンと座り込んだ。
そろそろと近づいてきたボルジアは、耳を後ろにピタリと寝かせている。
「もしかして······ケントさんは人間族······ですか?」
「そんな事は気にしないで、普通にしてくれよ。 俺、そういうの嫌いだから」
「そ···そうか?······そうだよな······そうするか、ハハハハ」
ちょっと乾いた笑いだった。
直ぐにケーキとハーブティーが運ばれてきた。
思った以上にオシャレで綺麗に細工されたケーキだ。 ただ俺の世界のケーキの3倍ほどの大きさだが、美味しければ問題ないだろう。
一口食べてみて驚いた。 凄く美味しい! 大きい物は大味のイメージだが、とんでもない。 どこかの有名店のケーキと言っても差し支えないほどだ。
······貴狼族···恐るべし······
「これは美味い」
「ほんまに美味いな。 こんな店があったなんて知らんかったわ」
ダニオもイレーネも俺たちの声を聴いて店の隅で満足そうにしている。
「この店は2年前に開店したばかりだからな」
「2年前? にしては·········」
割れたガラスや破れたテントに目を向けた。
「もしかして最近台頭してきたというマッサ自警団の仕業か?」
「よく知っているな。 実はそうなんだ」
「ボルジア!」
話そうとするボルジアをダニオが遮る。
迷惑をかけられた本人がなぜ話すのを止めるのか理解できなかった。
「ダニオ、この人は人間族だ」
「「えっ?!」」
ダニオとイレーネは驚く。
「そしてこちらの方はあの有名なファビオ副隊長と、双剣の鬼神と言われるニコロさんだ」
「「!!」」
「この方たちに話さないでどうする。 このまま一生食い潰されてもいいのか?」
「伝説の人間族······」
考えていたダニオは俺の前まで来て跪く。
「ダニオさん?」
「ケントさん、聞いてください」
「とにかく座って」
俺はダニオを椅子に座らせた。
「このパドヴァ地区はマッサ組に食い潰されています」
「食い潰す?」
なんとも物騒な話が飛び出した。
ケーキが旨い貴狼族! 恐るべし!
食べてみたい!!(;゜0゜)




