21話 貴猿族の先生
21話 貴猿族の先生
このジャンド町は王城を中心に12の地区に分かれている。
人口は約100万。 ジャンシャード国の人口が130万なので、ほぼこの町に集中しているのがわかる。
地区にはもちろん地名はあるが、基本的に第1地区から第12地区と呼んでいるらしい。
あのダメダメなルッカ詰所は第1地区で、王城前の大通り辺りが管轄で、兵士の出入りも多いためか、比較的犯罪が少ない地域だそうだ。
だから暇を持て余して遊んでしまったのかもしれないと、ニコロが言っていた。
この町の事をニコロがなぜ知っているかって?
彼が生まれ育ったのはドメンゴル町だが、15歳で成人すると同時にこの町で入隊し、しばらくの間はこの町で過ごしたらしい。 それでこの町にもファビオにも詳しいのだ。
第1地区には詰所が4か所ある。 4か所とも回ったが、始めの詰所ほどではないが、どこの詰所もかなり規律が乱れていて、ファビオが切れそうになっている。
いや、何度も切れていた。
結局、詰所総責任者の歩兵隊大隊長に直談判に行くと豪語していた。
◇◇◇◇
翌日、隣の御飯に行くと、なぜか超満員だった。
諦めて他の店に行こうとしたら「ケントさん!!」と声がし、その瞬間、わぁぁぁぁ~~っ!!と、歓声が起きた。
「えっ?」
「ケントさん、ファビオさんとニコロさんも待ってましたよ。 席を取っていますんで、どうぞこちらです」
傭兵のグイドだ。
「今日はやけに人が多いな」
「いやね、昼飯を食いにケントさんが来るかもってちょっと口を滑らせてしまったら、このありさまです」
······口を滑らせたんじゃなくて、絶対吹聴して回ったな······
席に行くと、サウォイヤ兄妹とコルラードも待っていた。
「やっぱりケントさんは来てくれると思っていましたよ」
「ファビオさんとニコロさんもご苦労様です」
「ファビオさん! またお会いできて嬉しいですわ」
「イラーリア······お前、女言葉を使ってどうしたんだ?」
「るせえな、兄貴! ハッ倒すぞ」
······イラーリアはファビオに気があるのか?······
店の真ん中あたりに貴猿用の椅子が置かれているテーブルがあり、そこに案内された。
店の客は乗り出して俺たちを見ている。
俺には慣れた光景だが、ファビオたちは不快な思いをしていないか、少し心配だ。
「いやぁ、俺たち人気者やなぁ」
「そうか?」
······一人は楽しんでいて、一人は気にもしていないようだ······そんな気はしていた······
周りがいつまでもざわついていたので、グイドが立ち上がって「はいはいはい! 静かに!」と両手を上げる。
「知っての通りこの御方は貴猿族ではなくて人間族だ!」
「「「おぉぉぉぉっ」」」
······えっ? 俺の宣伝?······
「お名前はケントさん。 数多の犯罪者を捕まえ、火事になって燃え盛る建物の中から多くの貴狼を助け出した凄いお方だ」
「「「おぉぉぉぉっ!!」
······お~い! 話が大きくなっているぞぉ~!······
「そしてこちらの方は最年少で近衛隊に抜擢されトントン拍子に出世されたファビオ副隊長と、知る人ぞ知る双剣の鬼神と言われたニコロ副隊長だぁ!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉ~~っ!!」」」
······そ···双剣の鬼神?······そうなのか······すごい······
「俺たちグイド隊はこの御方たちの一番の手下になった!! この御方たちに話がある時には俺たちを通すように!!」
「「「えぇ~~っ」」」
······それを自慢したかったのか······
「さっさっ! ケントさんたちは御食事にいらしたんだ! 騒がずに静かに召し上がっていただこうじゃないか!!」
「「「わぁぁぁぁぁぁ~!!」」」
······一番騒いでるのはお前なんだよ!······
という事で、やっと静かになって食事を始めた。
そろそろ食べ終わるかという時、急にコルラードが立ち上がって入り口に向かって「先生!」と、手を挙げた。
······先生?······
見るとそこには一人の紳士のような貴猿が立っていた。
初めてこの街に来た時に見た人間に間違えた貴猿に似ている。 背筋はピンと伸び、僅かに腕が長いが、普通に人間と同じ体型だ。
しかし顔はどうみてもチンパンジーだった。
コルラードが俺の前に男性を呼び寄せる。
その時、俺が何気に視線を向けたニコロは嬉しそうな顔をしていて、ファビオは顔をしかめていた。
そう言えばファビオのお父さんは貴猿族との戦いで亡くなったと言っていた。 それで貴猿族に対しての印象はよくないのだろうと、その時は思った。
「ケントさん、こちらはホレケーゼ・ヴィート先生。 私が通っていた学校の先生です。 先生がケントさんに逢いたいと言っていたので呼びました」
「ホレケーゼ・ヴィートです。 お目にかかれて光栄です」
「倉木賢斗です」
握手をしたが、ヴィートの視線はファビオに向いていた。
「ファビオちゃんもいたのですか? 卒業以来一度も会いに来てくれないので寂しかったですよ」
······ファビオちゃん?······ファビオが顔をしかめた意味はこれ?······
「ご無沙汰しています」
「先生! 相変わらずファビオしか目に入ってないな。 俺もおるで」
「知っています」
「わぁ、先生、冷たいやんか。 あれ? ノエミちゃんは?」
「ここよ」
ヴィートの胸ポケットから小さい猿が顔を出した。
······わお! 可愛い! なんだっけ······そうだ、ピグミーマーモセットだ!······
「ノエミちゃん、元気やったか?」
「もちろんよ。 あっ!」
ノエミは可愛い顔で俺を見上げる。
「先生の助手をしているアメート・ノエミです、よろしく」
「よろしく」
人差し指を差し出すと、小さな手で握手をしてきた。
······超きゃわいい!!······
ピグミーマーモセットとは、手のひらサイズの小さなお猿さんです。
しかし可愛すぎて少しオカマ言葉になってしまった(;^_^A




