19話 俺の手下
19話 俺の手下
今朝はニコロに双剣術を教えてもらう予定だったが、俺が手を火傷してしまったので、できなくなった。
とりあえず理論だけ聞いていると、二人の兵士が訓練場に入って来た。 そして俺の前に来て直立不動になる。
俺は手を挙げて「何か?」と聞いた。
「ケント様、女王様がお呼びです。 サルバトーレ様とインザーギ様も御一緒するようにと」
「女王様が?」
「多分けいさつの件を昨夜報告しましたので、その事ではないかと」
「そうか、仕事が早いな。 行こう」
「お···俺もなんか? 俺はええわ」
「お前も一緒に報告したんだから、当然だろう?」
「俺は女王様にご挨拶に行っただけで······」
「さあ、行くぞ!」
俺たちは嫌がるニコロの服を掴んで引っ張っていった。
◇◇◇◇
案内された場所は大きな円卓があり、前に食事会で一緒だった重臣たちが既に座っていた。
俺が入って来たのを見て、全員が立ち上がる。
······あの時も俺の為に立ち上がっていたのか?······
女王の真向かいの席に案内されて座るように勧められた。 遠慮なく座ると、全員も座った。
ファビオとニコロは俺の後ろで立ったままだ。
「ケント様、この国にはもう慣れましたか?」
「はい、快適に過ごさせていただいています」
「いつもロキを気遣ってくださりありがとうございます」
「こちらこそ細やかなお気遣いに感謝しています」
女王は優しく微笑んだ。
「昨夜は火事現場から二人の貴狼を助けてくださったとか」
「たまたま居合わせたのですが、助けられてよかったです」
「それ以外にもひったくりや強盗も捕まえてくださったと聞いています」
「それもたまたま居合わせたのですが、その事で呼ばれたのですよね」
「けいさつという仕組みについて、話してもらえますか?」
「もちろんです」
俺はファビオたちに話したことをもう少し詳しく、例を挙げたり、俺の考えをつけ足したりしながら話した。
始めは興味なさそうにしていた重臣たちだが、特に将軍が興味を持ってくれた。
質問してきたり「こうしたらどうだろう」と新しい案を出したりするうちに、他の者たちも興味を示すようになってきた。
俺と行動を共にしているファビオの感想を聞いたり、現場を知っているニコロにも質問が飛んだ。
とりあえず俺の案は出し切ったのだが、色々と調査や調整が必要という事で、続きは後日という事になった。
こういう機会はそうあるものではないので、厚かましいと思ったが、もう一つ提案をさせてもらう。
「あのう······実は、警察とはまた違う組織なのですが、俺の国には消防士がいます。
火事を消したり救助したりする事を専門に訓練された人たちなのですが······」
「火事を専門にする組織?」
「俺が言いたいのは高い建物でも消火活動ができる設備や取り残された人を助ける訓練が必要だという事です」
消火栓のように、どうにかしてポンプにホースをつないで消火に使えないか、そしてせめて3階まで届くような伸ばせる梯子の案を出し、消火や救助の訓練、そして消防服についても提案した。
これも質問攻めにあい、新しい案の提案も受けた。 頭の固いおっさんばかりだと思っていたのだが、とても柔軟に俺の意見に耳を傾けてくれた。
「異世界から来られたという事だけはありますね。 とても参考になりました。 また意見を伺いたいのでよろしくお願いします」
女王様は丁寧に俺に向かって頭を下げてくれた。
◇◇◇◇
いつもの食事処で昼食をとっている。
この店の名は【隣の御飯】というらしいのだが、字が読めないので今まで知らなかった。
ただ、ファビオは恥ずかしいから店名を口にしたくないと言っている。
······俺には何が嫌なのかわからない······
昼食後、警察開設の為に幾つかの詰所をまわる事にした。 街の治安の状況と詰所の設置場所によって傭兵の募集人数も変化するからだ。
「しかし女王様は偉そうにふんぞり返ったりせずに、腰が低くて思慮深い方のようだな」
「はい、そう思います。 素晴らしいお方です」
「そやけどな、気丈な御方に見えるけど、5年前に国王様が亡くなられた時には御病気になるんちゃうかと思うほど落ち込まれて大変やったんや」
「そうか······ロキがいるという事は国王様がいたんだよな。 どうして国王様は亡くなったんだ? 病気か?」
「実は原因がよく分からなかったのです。 お元気だったのに突然御倒れになり、そのままお亡くなりになりました」
ファビオは耳を垂らして俯いた。 近衛隊として責任を感じているのだろう。
「あれは絶対毒殺やと思うのに何も証拠が出えへんかったから、結局迷宮入りになってしもうたんや」
「そんな事があったのか。 それで王妃様が王座に就いたんだな」
「元々貴狼族は女性が王座に就く事が多いんや。 女性の方が頭がよくて機転がきくからな」
「そう言う割には重臣たちは男だけしかいなかったな」
「おいおい! 皆さんの前でそんな事はゆうたらあかんで!」
「どういう事だ?」
「半分は女性です」
「何が?」
「あの場にいた重臣です」
「えっ?!······えぇぇっっ~~~!!」
言われてみれば、今まで声と服装だけで男性か女性かを見分けていた気がする。
たまに分かりやすく胸の膨らみが大きい女性もいるにはいたが、人間のように髪型とか化粧とかでは見分ける事は出来ない。
そういえば微妙に女性っぽく声が高い人がいたが、特に女性の言葉遣いを使っているようにも聞こえなかった。 まさか女性だとは思っていなかった事もあり、文官はみな同じ服装だからまるで気付かなかった。
「なぁ······ファビオとニコロは······男だよな」
「当たり前やんか! 兵士は体の大きい男性が多いけど、文官は女性の方が多いな」
······危なかった······
その時ファビオが顔を上げて俺の後ろに視線を向ける。 少し顔が怖い。
俺は入り口に背を向けて座っていたので、誰かが入って来たのかと振り返った。
例の傭兵4人組だ。 俺を見つけて真っすぐこちらに向かってくる。
······またかよ······いい加減にしてほしいな······
知らん顔をして食べ始めたが、横に来て4人が並んだ。
「えっと······貴方は人間族のケント様···ですか?」
「それが?」
「「「「申し訳ありませんでしたぁ!!」」」」
4人そろって90度に頭を下げた。
一番デカイ奴が少し前に出る。
「ケント様! 俺たちもケント様の手下にしてください!」
「て···手下?」
「お二人の兄貴たちの下で構いません! お願いします!」
「兄貴たちって?·········」
俺はファビオとニコロの顔を見た。 ファビオは苦虫を噛み潰したような顔をしていて、ニコロは吹き出しそうな顔をしている。
「「ブハハハハッ!!」」
俺とニコロは大笑いしてしまった。 天下の副隊長たちを捕まえて俺の手下と思っていたなんて、笑える。
「悪いな、面白い申し出だが手下には困っていないから遠慮·········いや······」
警察を作るには傭兵の知り合いがいる方が何かと便利かもしれないと考え直した。
「わかった。 俺の手下にしてやろう」
「本当ですか!! やったぁ!」
「ただし、条件がある」
「「「「はい!」」」」
4人は姿勢を正して俺が条件を出すのを待っている。
「まず、貴猿族や貴豹族だからと言って差別しない」
「「「「はい!」」」」
「街の風紀を乱さない」
「「「「はい!」」」」
「女性やお年寄り、子供には親切にする」
「「「「はい!」」」
「それと、彼らは俺の手下じゃなくて近衛隊副隊長と歩兵隊副隊長だ。 彼らから何か要請があれば、俺からの要請だと思って素直に従う事」
「「「「えっ?」」」」
「近衛隊の副隊長だって?」
「もしかしてファビオ様?」
「双剣の歩兵隊と言えばニコロ副隊長じゃないの?」
「嘘だろう?!!」
「返事は!!」
「「「「はいぃ!!」」」」
「よし」
子分ができた\(^-^)/
ちょっと違うか( *´艸`)




