16話 双剣のインザーギ・ニコロ
16話 双剣のインザーギ・ニコロ
翌日の夜。 ファビオに飲みに誘われた。 そういえばこの世界に来てから酒を飲んでいない。
「飲みに誘うなんて珍しいな」
「迷惑ではなかったですか?」
「とんでもない! いつでも誘ってくれ」
「はい。 実は、双剣の使い手の友人がそろそろ到着すると思うのです」
「双剣の先生が? 飲みに行く場合じゃないんじゃないか?」
「ドメンゴル町から来るのですが、この先の店で待つように手紙に書いてありました」
「店で待ち合わせなのか」
······さぁ、どんな先生か楽しみだが、それよりどんな酒があるのか楽しみだな······
その時、嫌な連中が目についた。 6人の男たちが前から歩いてくるのだが、先頭を歩くのは例の4人組だ。 俺を見つけてニタニタ笑っている。
「追い払いましょうか?」
「いや、俺目当てだから俺が相手した方がいいだろう。 ファビオは少し離れていてくれ」
「承知」
ファビオは歩くスピードを緩めて、俺から離れた。
俺は何食わぬ顔で通り過ぎようとした。 もちろん何もしてこない事に越したことはない。 しかし腕を組んだ一番大きいシルバーの貴狼が俺の前に立ちはだかった。
「おいおい! どっかで見たことのある貴猿じゃないか。 こんな夜にどこに行くんだ?」
「母さんが心配ずるぞ」
「ママのオッパイを飲みに帰らなくていいのか?」
「上手に歩けていまちゅねぇ~~」
「「「ハハハハハハ!」」」
「道を開けてもらえるか?」
「なんだよ! 偉そうに!!」
「道を譲っていただけませんか?と、頭を下げてお願いしてみろよ」
「ちゃんと頭を下げれば、考えてやってもいいけどな」
「もちろん譲る気はないけどな、はははは!」
「面倒くさいな······やっぱりダメか」
「なんだと!! 生意気な!! ボコボコにしてやれ!」
デカい奴が殴って来たので、腕を掴んで投げ飛ばした。 横の貴狼が蹴りを出すのでしゃがんで躱し、軸足を掴んで持ち上げると、ドウ!と後ろにひっくり返った。
三人目の拳を払ったが、その手がもう一人の顔にクリーンヒットした。
この野郎!!と、向かって来た貴狼の腕を払ってちょっと後ろから押してやると、オットットとそのまま前に進んでいく。 するとそいつをファビオがこっそりとラリアットで仕留めてくれた。
今度は両側から同時に殴って来たので、ちょっと手を添えてお互いの顔の方に拳を向けると、お互いの顔を殴って倒れる。
気付くと立っているのは一番デカイ奴だけだった。 そいつはスラリと剣を抜いた。
「まだするのか? 諦めろよ」
「バカ抜かせ!!」
上段から振り下ろしてきた。 しかし俺はその手から剣をもぎ取り、ジャンプして背中の鞘に戻してから、背中を思いっきり蹴った。 デカイ奴はゴロゴロと転がって街灯にぶつかってうずくまり、街灯のランプが激しく揺れて影が大きく揺れた。
うずくまりながら俺を見上げる。
「お前! 何者だ!」
「俺の名はケント」
「ほう······人間族のケント様ってあの方の事なんかファビオ」
「ニコロ!」
気付くとファビオの横にやたら足の長い貴狼が立っていた。
体の大きさだけで言えば、ファビオよりひと回り以上小さいのだが、異常に足が長いので、身長で言えばファビオより少しだけ高い。
ブラウンの毛並みで長い鬣が襟元から伸びていて、鬣の毛先と口元だけ黒い。
······俺の世界で見たことがある······確か······そう! タテガミオオカミだ! モデルのような体型で、一度実物を見てみたかったんだ······
······転変してくれないかな······
思わず俺はそんな事を考えていた。 すると、周りの観客(?)が大興奮で騒ぎ出した。
「「「あれは貴猿ではなくて人間族だって?!!」」」
「「「ファビオ様って!!」」」
「「「わぁ!!ニコロ様だ!!」」」
ファビオはもちろん、タテガミオオカミも有名人なんだ。
倒れている連中も驚いている。
ファビオがタテガミオオカミを俺の前に連れてきた。
「ケント殿、双剣を教えに来てくれたインザーギ・ニコロです」
「ニコロです、お会いできて光栄です」
「こちらこそよろしくお願いします」
俺たちが話している隙に、6人はお互いに抱えながら、こっそりと逃げて行った。
◇◇◇◇
当然いつもの食事処とは違う店に案内された。 ゴレッティという名の店らしい。
落ち着いた雰囲気の店で、少し高級そうだ。 ここは貴猿族用の椅子はなくて、全てソファーになっているところは気に入った。
「何を飲みますか?」
「この世界での酒は飲んだことがないから任せる」
「わかりました。 ニコロは?」
「俺はいつもので頼むわ」
······大阪弁?······
ファビオは店員を呼んで何かを注文し、すぐに酒といくつかのつまみを運んできた。
「これは何という酒だ?」
「ブランデーといいます」
「知ってる! 俺の世界にもあった」
ブランデーと訳すくらいだから、よく似ているのだろう。 ただ人間世界のブランデーを飲んだことがないから本当に似ているのかは誰にも分からない。
一口飲んでみると、結構強い酒のようだが、香りがよくて美味しい。
その時、店のステージ上で生演奏が始まった。 なかなか趣があって気持ちのいい曲だ。
······金持ちのおっさんになった気分だ······
「ここの楽団はええなぁ。 俺の町にもこれくらい上手い楽団がおったらええのに」
ニコロはうっとりしながら音楽に聞き入っていたが、何かを思い出したのか、フッと顔を上げた。
「そういえばケント様、こいつからの手紙では、ケント様は違う世界から来たようなことが書いてありましたけど、ほんまですか?」
「実は本当です。 貴狼族も初めて見ました。 俺の世界では、ここで言う野蛮獣の狼はいますが、転変できる生き物はいません」
「ほんまやったんか。 違う世界があったなんて、信じられへんわ。 そこには人間族の国があるんですか?」
「そうです」
「しかし、人間族って強いねんなぁ。 俺の指導などいらんのちゃいますか?」
「俺がいた時代はとても平和で、剣など必要としませんでした。 だから使い方もわからくて、やっとファビオに勝てるようになってきたところです」
「ファビオに勝てるんですか······やっぱり俺じゃあ役に立ちそうにありませんわ」
「いやニコロ、ケント様は元々双剣を使われていたのだが、私ではお教えすることが出来ない。 1本と2本では使い方が違うからな。
基本をお教えするだけで、飛躍的に上達されると思う」
「あれだけの身体能力があれば、当然やな······あれ? なぜ双剣を使ってはったんですか? 剣は使ったことがなかったってゆうてはりましたよね」
「信じられないかもしれませんが、この世界に来る前に、もう一つ違う世界にいました。 そこは危険が多く、武術や槍術は習ったのですが、その世界には剣がありませんでした。 それで自己流で練習しただけです」
前のめりで話していたニコロは、デンと背もたれに寄り掛かった。
「あかん! 頭がついていかれへんわ。 ケント様はケント様という事でええわ」
「ニコロはすぐに考える事を放棄するんだから······昔から頭ではなく口で行動する奴だった。 お前も相変わらずだな」
「二人は古くからの知り合いなのか?」
「はい、私とニコロは同期で、始めの頃はよく二人で練習しました」
「いやいや、こいつは飛び抜けて強かったんで、俺は引っ張ってってもらったんですわ。 おかげで俺も上達できたって事ですわ」
「なぜかニコロとは気が合いましたね」
「そうやな」
「へぇ~、仲がいいんだな」
二人は顔を見合わせてから、嬉しそうに頷いた。
大阪弁のニコロ。
ニコロもいつかはイラストを描いて載せたいと思っています!
( ´∀` )b




