13話 ファビオの実家
13話 ファビオの実家
反対側の山道を下った先は牧場だった。
「どこからどこまでがファビオの家の牧場なんだ?」
「今見えている範囲は全てですね」
「えっ? 凄く広いんだな。 お父さんの牧場か?」
「いいえ、父は軍人でした。 牧場は母方の祖父から兄が受け継いだものです」
「へぇ~」
話しぶりからお父さんは亡くなっているようなので、深く聞くのはよそう。
と思ったのに、ファビオは話を続けた。
「父は私がまだ小さかった頃に貴猿族との戦いで亡くなりました」
戦争があったのか。 ファビオは少し遠い目になっている。
「ですから私が軍に入る事を母は反対したのですが、子供の頃に見た父の大きな手と、カッコいい軍服が忘れられませんでした」
「お父さんは憧れの存在だったんだな」
「はい」
「そういえば牧場をお兄さんが受け継いだって言っていたが、ファビオって何人兄弟なんだ?」
「兄と弟と妹が」
「4人兄弟? みんな牧場に?」
「妹は結婚して他の街に行きました。 兄と下の弟と母で牧場を経営しています」
「お母さんは健在なのか。 みんな結婚は?」
「兄だけしていて、奥さんと子供が一人」
「ファビオは結婚をしていないのか?」
「はい」
「そう言えば、ファビオの事は何も知らないな」
「何でも聞いてください」
「じゃあ、聞きたかったことが一つ。 年齢は?」
「62歳です」
「えっ?!」
······実は年寄りだったのか?······
「若くて驚かれましたか?」
「若いのか?······貴狼族の寿命ってどれくらい?」
「だいたい300歳ほどですが」
「さんびゃくさい?!」
······そうか······こことは時間の流れが違うんだ。 一日も短く感じるし、きっと一年が100日程なのだろう······
「ちなみに聞くが、一年って何日だ?」
「一年は315日です」
······大して変わらない······貴狼族って長寿だったんだ······
「そう言えばファビオってどこに住んでいるんだ?」
「えっ?······ご存じなかったんですか?」
「うん」
「今はケント殿の右隣の家ですよ」
「えぇっ!! そうだったのか?······知らなかった······」
「言いませんでしたっけ?」
「そんな事を言っていたような······」
「申し訳ありません」
「忘れていた俺が悪い······ハハハ、お隣さんか。 改めてよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
「俺の事も少し話しておこうか」
「聞かせていただけるのですか?」
「たいした話はないよ。 俺の家族は両親と妹の4人家族。 父は会社員···商人かな? 母は専業主婦で妹はまだ学生だ。 ここにも学校はあるよな?」
「はい。 職種によって入る学校が変わりますが」
「そうか······実は俺もまだ学生だった。 今の年齢は多分20歳前後。 寿命が80歳ほどしかないからな」
「そ···そうなのですか······時間のとらえ方が違うのかもしれませんね」
「俺もそう思う······思いたい······」
「しかし、寿命から考えると、同じくらいの年齢ですよね」
「そういう考えもあるのか。 そういうことにしておこう」
ファビオは大きく尻尾を振りながら嬉しそうに笑った。
◇◇◇◇
牧場に近づくと、一人の貴狼が狼の姿で走ってくる。 弟のルーカだと教えてくれた。
「ファビオ兄さん! 突然どうしたんだ? 今日は休み?······その人は?」
「俺の友人のケント殿だ」
「兄さんの友人?······珍しい······それも貴猿族」
「兄さんと母さんは?」
「母さんは義姉さんと家。 フェデル兄さんは······どこかにいるだろう」
「お前も仕事しろ」
「直ぐに終わらせて帰るな。 じゃあ」
俺に軽く頭を下げてからまた走って行った。
「なんだかすみません。 貴猿族も訂正しませんでしたが、大丈夫ですか」
「もちろん。 今日は貴猿族でファビオの友人だ。 友人に敬語を使うなよ」
「ウッ!······心がけます」
◇◇◇◇
ファビオの実家は二階建ての立派で大きな家だった。
家の横には従業員用の三階建ての建物と、三つの納屋と、離れた場所には大きな獣舎も見える。
そして家の裏には果樹園があり、高い木が規則的に植えられていた。
かなり大きな牧場のようだ。
家に入ると赤ん坊を抱いた女性が俺たちに気づいて寄って来た。 初めは兄嫁かと思ったが、ファビオのお母さんと甥っ子だった。
お母さんは足が悪いようで、片足を引きずっている。
「まぁ、ファビオ!! どうしたの? その人は?」
「母さん、ただいま。 この人は······」
その時、奥からもう一人、女性が出てきた。 こっちが兄嫁だろう。
「あら! ファビオさん、久しぶりです。 そちらの方は?」
「俺の友人のケント殿。 この国の事をよく知らないと言うので、見学がてらうちに連れてきた」
「ケントです」
「ファビオの母です。 この子は長男の子供でフェジモというのよ」
「私はファビオさんの兄嫁でクレオです。 ファビオさんのお友達に会うのは初めてですわ! どうぞ中に!」
家の中もきれいに整頓されていて掃除も行き届いている。 そして牧場らしく牛の角が飾られていて、馬の蹄鉄やロープなどもオブジェとしてオシャレに飾られていた。
しかし天井が高くてすごく広く感じる。 当然か。 貴狼族が大きいのだから。
大きいソファーを勧められた。
「いいハーブティーが手に入ったのよ。 作ってきますから、少し待っていてくださいね」
クレオはパタパタとキッチンに走って行く。
「ファビオが友達を連れてくるのは初めてなのよ。 次は彼女を連れてきてくれるのかしら?」
「母さん!」
照れているファビオも可愛い。 その時甥っ子のフェジモがぐずりだした。
「あらあら、ちょっとごめんなさいね」
母親はフェジモをあやしに表に出て行った。 その時、ファビオが俺の横に座り直して小声で話しかけてきた。
「ケント殿、兄を呼びたいのですが、いいですか?」
「もちろん」
「ただ兄は、父の事もあって貴狼以外の種族に偏見を持っています。 ですから不快な思いをされるかもしれません」
「そういうのには慣れているから大丈夫だ」
「ありがとうございます」
ファビオは立ち上がり窓を開けた。 何をするのかと思って見ていると、ワオォォォォ~!と、遠吠えを始めた。 兄を呼んでいるのだろう。
すぐに遠くの方からも遠吠えが聞こえてきた。
地主さん? 金持ち?
いい家族のようですが、お兄さんがくせ者?
( ゜ε゜;)




