11話 兵士の詰所
11話 兵士の詰所
······困った。 捕まえたまではいいが、警察を呼んでもらう訳にもいかないし、こいつはどうすればいいんだ?······
俺は引ったくり犯を捕まえたのはいいが、その後は、どうすればいいのか分からない。
そこへファビオが走って来た。
「ケント殿!! 大丈夫ですか?」
「こいつはどうすればいい?」
「もらいます」
ファビオがひったくり犯の腕を掴んだので、俺はカバンを取り上げて後を任せた。
その時、観客(?)たちから「サルバトーレ様じゃないか?」「ファビオ様だ」と、いくつもの声が聞こえてきた。
······さすが······有名人なんだ······
その時、カバンの持ち主がやっと追いついてきた。 ハァハァと肩で息をしながら、泳ぐように走っている。
······獣人というのは身体能力が高いというイメージだが、みんながそうだと言う訳ではないんだな······
「これを」
「あ······ありがとうございます。ハァハァハァ」
カバンを差し出すと大事そうに抱え込んだ。
「ケント殿、行きましょう。 ご婦人も御一緒に」
ファビオはひったくり犯の腕を捻り上げたまま歩き出したのでついていく。
「貴猿族というのは機敏だと聞いていましたが本当に凄いのですね」
「それほどでも」
人間と言い直すのも面倒だからそのままにしておいた。
「坊やのお名前は?」
······坊や?······まぁいいか······まだガキっちゃガキだし······
「ケントといいます」
「変わった名前ですね。 私はエリデです。 北地区で商売をしておりますの。
このお金を取られてしまうと店が潰れてしまうところでしたわ。
ほんとうにありがとうございました。 そこでお礼の事ですけど······」
「お礼などいりませんよ」
「そういう訳には」
「本当に気になさらないでください。 みなさんの幸せが俺の幸せです······なんちゃって」
ペロンと舌を出して見せるとエリデはホホホと笑った。
◇◇◇◇
ファビオは頑丈な格子の門に高い塀に囲まれた場所に入っていく。
中にある庭の奥で兵士が二人、組み合っている。
体術の訓練をしているのかと思ったら「ハハハハハ!」と笑いあっていた。 どうやら遊んでいただけのようだ。
二人はファビオに気づき、慌てて直立不動になる。
二人の兵士を横目に建物の中に入ると、手前にカウンターがあり、その奥に三人の兵士がいた。
二人はソファーにくつろいで談笑していて、一人はソファーに横になって寝ているようだ。
後ろ姿で分からないが、クソ真面目なファビオはだらしない兵士たちを見て怒っているのだろう。
ファビオに気づいて直立不動になった兵士たちの恐怖に怯えた顔が半端なく、尻尾が腹に硬く巻かれて震えていた。
ソファーで寝ている兵士はまだ気づかずに気持ちよさそうに眠っている。
「こいつを頼む」と、ひったくり犯を兵士にドン!と押して引き渡す。
······こ···声が怒っている······
「はい!!」
兵士はひったくり犯が逃げないように腕と襟足を掴んだ。
「こいつがそのご婦人のカバンをひったくって逃げたので、ケント様が捕まえてくださった」
「ケント様?」
「ケント様って聞いた名前だな······どこで聞いたんだっけ?······」
「「あっ!! 人間族のケント様!!」」
「「えぇ~~っ?!」」
兵士たちはお互いを指さして確認し合い、エリデとひったくり犯までもが一緒に驚いて顔を見合わせている。
「「お会いできて光栄です!」」
兵士が俺に向かって頭を下げるが、その言葉に被せるようにファビオが怒鳴る。
「早く連れていけ!!」
「申しわけありません!!」
兵士たちはファビオの怒気に飛び上がらんばかりに驚いて、エリデも連れて、奥の部屋に入って行った。
ドアが閉まるのを確認してからファビオは寝ている兵士を蹴った。
「いってぇ!! なにをする!!」
目をこすりながら起き上がった兵士はファビオを見て固まった。
「どこの部署だ」
「·········」
自分の置かれている状況がまだ理解できていないようで、キョトンとしている。
「どこの部署かと聞いている!」
「はい!!」
やっと理解できたようだ。 尻尾が股の間から出てきて足に巻き付いて震えている。 よっぽど怖いとこうなるのか。
「だ···第12歩兵部隊、7小隊、3班班長カタラーニ・ニッコロであります!!」
「ここへは遊びに来ているのか?」
「申し訳ありません!!」
「夜は寝ていないのか?」
「申し訳ありません!!」
「奥にひったくり犯と被害者のご婦人がいる。 直ぐに調書を取りに行け。 ただしご婦人に失礼がないように」
「了解いたしました!! 失礼いたします!!」
カタラーニ班長は急いで奥の部屋に入って行った。
ファビオはふぅ~と、ため息をつく。
「みっともない所をお見せしました」
「いやいや、ファビオの本性が見れた気がする。 みんなが恐がっていたぞ」
「そんな事はありませんよ、やめてください」
「ここは兵士の出張所かなんかか?」
「ここは第1地区のルッカ詰所になります。 歩兵隊が交代で詰めて、捕まった犯罪者を調べて刑部に引き渡したり、市民からの苦情に応えたりします」
「警察のようなところか······『捕まった犯罪者』と言っていたが、犯罪者自体を捕まえる事はしないのか?」
「もちろん目の前で犯罪が起きれば捕まえますが、基本はそれぞれの街にいる自警団が捕まえて、それを裁くのが国という事になっています」
「自警団? 素人の集まりか?」
「いいえ、だいたいは警備隊として傭兵がそれぞれの街で雇われています」
「そうか、傭兵か······詰所はこの町にいくつ位あるんだ?」
「だいたい一つの地区に4ヶ所なので、48か所です」
「ふ~ん」
「何か気になる事でも?」
「いや、何でもない」
「では、鍛冶屋に戻りましょう」
建物から出ると、さっきのじゃれ合っていた二人の兵士がいない。
どこかに逃げたんじゃないかと思ったが、驚いた事に門の前に立っていた。
そこが本来の定位置のようだ。 ファビオを見て直立不動になる。
「また来る」
「「お疲れさまでした!! 失礼します!!」」
ファビオの言葉に兵士たちは一段と姿勢を正した。
ファビオは「お恥ずかしい」と小声でつぶやいた。
◇◇◇◇
鍛冶屋に戻ると、ガントが待っていた。
「どうかされたのですか?」
「何でもない。 できているか?」
「もちろんです」
奥から剣を持ってきた。
ファビオが受け取って、スラリと抜くと鏡のように刀身が光っていてキレイだ。
そのまま刃の様子を眺めていたが、納得したように鞘に納めた。
「やはりガント殿の仕事は間違いないな」
「ありがとうございます」
ファビオは剣を装着した。 やっぱりカッコいい!
店を出て、城に向かった丁度その時、6時の鐘が鳴った。
「そう言えば、剣の代金は?」
「経費で国が払ってくれますので心配ご無用です」
······本当かな?······
◇◇◇◇
ロキと夕食を食べている時、珍しくファビオから口を開いた。
「ロキ様、今日、ケント様がひったくりを捕まえました」
「本当? さすがケント兄さん!」
「人が多くて追いつけないと思われたのでしょう。 ケント様はピョンと屋根の上に飛び乗ると、屋根の上から追って行かれたのです」
「屋根の上? 凄い! そんな事が出来るんだ。 それで?」
「もちろん私が追いついた時には既に抑え込んでおられました」
「やったぁ!! やっぱり凄いや!」
必要なこと以外は話さないファビオが、自分から王子様に話しかけるのを見て、何だか嬉しかった。
ファビオはロキの前での緊張はなくなったようですね( =^ω^)




