10話 鍛冶屋でお買い物
10話 鍛冶屋でお買い物
昼食は城の食堂で食べる事になった。
中に入ると例のごとく全員が立ち上がった。
文官や使用人たちは一礼して座ったが、兵士たちは直立不動のままだ。
いつものようにファビオが手を挙げると全員が座った。
しかし一歩遅れて小山のような大きな貴狼が立ち上がったので、再び兵士達が立ち上がった。
見覚えがある。
「将軍だ」
横を見るとファビオも直立不動になっている。
将軍が食べ終わって帰るのかと思ったが、彼もまた直立不動になっている。 どうしたのだろう?
「?」
「ケント殿」
「なんだ?」
「右手を軽く挙げてもらえますか?」
直立不動のまま、小声でささやいてきた。
「俺?」
言われるままに、いつもファビオがしているように右手を挙げると、将軍は俺に一礼してから椅子に座った。
他の兵士たちもガタガタと椅子に座り直す。
「なんで俺?」
ファビオはふぅ~と、小さく息を吐いた。
「ケント殿は国賓ですから」
「俺が? なんで? あぁ、ロキを助けたから?」
「それもありますが、伝説の人間族ですから」
「伝説ぅ?!」
······前の世界でも、そんな事があったな···もしかして神の仕業か?······
その時、一人の兵士が貴猿用の椅子を用意してくれた。
やっぱり抵抗があるが、こればかりは仕方がない。
「ありがとうございます」と言うと、「とんでもございません!」と、直立不動になった。
俺は彼の腕をポンと叩いて椅子に座ると、嬉しそうに尻尾を振りながら「失礼いたします!!」と一礼して、自分の席に戻っていった。
「それで、伝説って?」
「私たちには子供の頃から聞かされている伝説があります。
『人間族の英雄が降臨し、貴狼族を導き、獣人界に平穏をもたらす』
これは過去にあった出来事なのか、この先に起こる出来事なのか、諸説あります。 しかしどちらにしても人間族は我ら獣人にとって大切なお方だと教え込まれてきました」
「そんな話があるのか。 責任重大だな······でも今は平和なんだろ?」
「はい、もちろんです。 しかし我々は人間族を見たことがありませんでしたし、過去に書き記した物もありませんでしたので、人間族というのはもっとこう······」
その時、二人の兵士が俺とファビオの食事を運んできてくれた。 焼いたデカイ肉にサラダがタップリ添えてあり、クリームスープとパンとミルクという献立だ。
昨日の食事処でのご飯のように庶民的で美味しそうだ。 俺にはこっちの方が合っている。
「美味そうだな」
「女王様にもお出ししている料理なので、本当に美味しいです」
「いただきます!」
確かに美味い。 肉も柔らかく、パンも香ばしい。
「それで? もっと······どうなんだ?」
「ケント殿の事ではありませんので、気を悪くしないでほしいのですが」
「もちろん」
「もっとこう······大きくて威厳がある姿を想像していました。 子供頃に読んだ絵本の挿絵もそうですし、小説や劇などでも大きな熊や虎が転変した姿で演じられることが多くありました」
「そうか、面白いな。 それでおっさん達は力以外に何ができるのかと聞いていたのだな。 どうせ俺の力もたいした事はないだろうと」
「おっさん?」
「初めて俺がこの世界に来た時に、一緒に晩飯を食った御偉いさんたちだよ」
「あっ···面目ない」
「ファビオが謝る事はないし、俺も気にしていないから平気だ」
「良かったです。 そうだ、忘れるところでした。 これを」
ファビオはポケットから20㎝四方ほどの、キレイな刺繍がされている黒い巾着袋を俺に差し出した。
手に取ってみると、重たく、チャリンと音がした。 中を見てみると、お金だった。
「女王様からです」
「なぜ金を俺に?」
「この世界で生活していくにはお金が必要になるだろうから、これから毎日、同額をお渡しすると」
「貰っていいのかな?」
「もちろんです」
「これっていくら入っているんだ?」
「10万ルギです」
「10万ルギっていくらだ? そうだ、初日に買ってくれた串焼きは一本いくらする」
「一本500ルギです」
「てことは、円と同じ位の価値だな。 じゃあ一日10万円?! 多いだろう」
「ロキ様を助けていただいた御方にこの程度の金銭で申し訳ないと仰っていました」
多分本音は伝説の事もあって、少しずつお金を渡すことで俺を繋ぎとめていたいのだろう。
どうせ使い道もないが、ありがたく受ける事にした。
「わかった。 遠慮なくいただく事にしよう。 女王様にありがとうと伝えておいてくれ」
「承知しました」
「ところでこの後は、どこかに行く予定はあるのか?」
「私の剣を買いに行くのに付き合っていただけますか?」
「もちろん! サッサと食べよう」
「はい!」
◇◇◇◇
食後、大通りを10分ほど行った所にある路地に入って行った。 先にある金槌模様の店が鍛冶屋だという。
「私が昔からお世話になっているお店です」
「途中に大きな武器屋もあったが、もしかしたら鍛冶屋で修理するのか?」
「修理ではありません。 鍛冶屋で売っている武器の方が品質は確かで安いのです。 それに後の修理や研ぎも優遇してもらえますので」
「剣一本でも、いろいろあるのだな」
「正直な所、あの店のガント殿は昔馴染みで腕のいい鍛冶師なので他の店に行く気がしないだけです」
「気持ちは分かる」
店の中にはところ狭しと武器が並んでいる。 剣に槍、ナイフもあれば大きなバトルアックスまで並んでいた。
「サルバトーレ様、お久しぶりです。 そろそろおいでになるのではと思っていました」
ファビオは鞘ベルトごと、背中の剣を外して渡した。
「ガント殿、久しい。 剣が折れたのだが、柄は馴染んで使いやすいので、刃の部分だけ交換してもらいたいのだが」
「折れたのですか?」
ガントは鞘から剣を抜き、折れた剣を眺めている。
「サルバトーレ様、この剣は折れたのではなく······」
ファビオはハハハと笑ってごまかしている。
「そのような斬鉄剣を作れる者がいるとは。 どなたが作られた剣ですか?」
「いや、それが······」
そんな話をしている彼らを置いて、俺は外に出てみた。
ここは鍛冶屋街とでもいうのか、あちらこちらから鉄を打つ音が聞こえてくる。 よく見るとズラリと金槌の看板が並んでいた。
何軒あるのだろうと1,2,3と数えていると、大通りの方から「キャァ~~ッ!! 返してぇ!!」と女性の悲鳴が聞こえてきた。
俺は「ケント殿!」というファビオの声を尻目に、大通りに向かって走り出した。
路地を出た少し先に少し···いや、かなりポッチャリした女性が倒れている。
おれは駆け寄って声をかけた。
「どうしたのですか?」
「カバンをひったくられたの!」
彼女が指さす方には、道行く人々を押し退け突き飛ばして逃げていく男が見えた。 直ぐに追いかけるが、人通りが多くて追いつけそうにない。
上を見ると走れそうな屋根が並んでいる。 俺はジャンプして屋根の上に立つと、そのまま走り始めた。
大通りでは上を見あげて俺を指さし、ワァワァと騒いでいるが、気にせずに走り続け、あっという間に追いついた。
俺は逃げる男の少し前にダン!と飛び降りた。 男はどこから降って来たのだろうと一瞬上を見上げたが、気にせず俺を突き飛ばす気満々だ。
半笑いで俺に突っ込んできたが、ぶつかる瞬間、俺は男の胸元を掴んで背負い投げで地面に叩きつけた。
「グワッ!!」
痛みで呻くが、それでもひったくったカバンはしっかり掴んだままだ。
俺は男をうつ伏せにして上に乗って背骨を押さえて、カバンを持つ手を捻り上げた。
「イテテテッ! 放せよ!!」
「黙れ!」
そんな俺を見て、周りの通行人からパチパチと拍手が起こった。
あっという間にひったくり犯を捕まえちゃたよ!
ヽ(*´∀`)八(´∀`*)ノ




