9話 斬鉄双剣
9話 斬鉄双剣
朝食もまた三人で食べた。
未だに緊張した面持ちのファビオではあるが、昨夜よりは随分ましのようだ。
······慣れ、慣れ······
「ケント兄さんも今日からお勉強だね」
「剣術の勉強だな」
「あっ、ケント殿。 この後、実力を見たいので自分の剣を持って来てくれますか」
「わかった。 そう言えばロキは剣とかの練習はしないのか?」
「来年から武術全般の授業が始まるんだ!」
「それは楽しみだな」
「私も剣術を御教えする予定になっております」
「さすがファビオだな。 ところでファビオは四六時中俺と一緒にいて、本来の仕事はいいのか?」
「そうそう、ケント殿に言おうと思っていたところです。 実は私から直接女王様にお願いして、ケント殿の専属警護にしていただきました。 ケント殿がこの世界にいる限り、離れませんからそのつもりで······」
ファビオの尻尾が盛大に振られている。
「そうか!! それは良かった。 望むところだ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
◇◇◇◇
朝食後に部屋まで剣を取りに行ってから訓練場に行った。
訓練場には既に数人の兵士が練習している。
ファビオを見て手を止めて、直立不動になる。 それが敬礼みたいのものなのだろう。
ファビオが軽く手を挙げると、また訓練を始めた。
規律が厳しいようで、みんな気持ち良くシャキッと立ってファビオが手を挙げるまで待っている。
上位の兵士に対して当然の礼なのだろうが、こういう時のファビオはカッコいい。 改めて位が高い事を痛感するのだ。
「では、ケント殿の実力を見させてもらいます。 二刀流でどうぞ」
「了解」
俺は鞘を外して下に置き、両手で構えた。
ファビオも背中の剣をスラリと抜いて、中段に構える。
······す···隙がない······
ここまでとは思わなかった。 ガルヤ達も槍の腕は確かだが、レベルが違った。 ファビオには打ち込む隙が1ミリもないのだ。
自分がどれだけ下手なのかが、撃ち合わなくてもわかった。
「ケント殿? 遠慮なく来てくださいよ」
「お前、俺は隙だらけに見えるだろう」
「ワザとでなければ」
「やっぱり。 しかし、これが俺の実力と思ったら痛い目を見るぞ。 俺の身体能力は半端ないからな」
「わかっています」
「では、行くぞ」
ただ、ズブグクの鎌は恐ろしく切れ味がいい。 間違えて斬ってしまわないように注意も必要だ。 しかしそんな事を考えながら打ち込んだら逆に失礼になるかな?
いや、何も考えずにやろう。 ファビオならきっと大丈夫だろう。
その確信がどこから来るのか自分でも分からないが、ダメもとで打ち込んだ。
左で切り上げたのを払われ、右で横に払うが紙一重で避けてきた。 そのまま1回転して左を繰り出すとカン!カキン!と下から上に払ってきたが、その時何かが飛んで行った。
······カキン?······何の音?······
キラキラ太陽の光を反射しながら飛んで行った物が、ズドッ!と地面に刺さった。
ファビオの折れた剣先だった。
「わわわぁ! すまん! 折ってしまった」
「ケント殿のせいではないですよ。 この剣も古くなってきましたから」
ファビオは折れた先を拾って、折れた剣と共に先にあるベンチに置いた。
「訓練用の剣を持ってきます」
近くの建物から剣を一振り持って来た。
「お待たせしました。 もう一度どうぞ」
相変わらず隙なく構える。
俺がジャンプして上段から斬りかかると、体を開きながら受け流した。 直ぐに横から払う剣を受けたが、カキン!と音を立てて再び剣先が飛んで行った。
「「あっ!!」」
ファビオは折れた剣先を拾ってから、なぜか顔に近づけてじっと観察している。
「す···すまん!」
「ケント殿、その剣を一本、お借りしてもよろしいですか?」
「もちろん」
俺はズブグクの剣の柄の方をファビオに向けて渡した。 ファビオは少し眺めていたが、先ほどの折れた剣を差し出してきた。
「これを中段に固定して持っていただけますか」
「おう、これでいいのか?」
「動かないでくださいね」
そう言うと、ズブグクの剣を上段に構えて振り下ろした。
カキン!
驚いた事に、訓練用の剣がスッパリと切れて、5㎝四方の四角い金属片がスコンと落ちた。
ファビオは折れた(斬れた)部分を拾い、切り口を眺めている。
「これは驚きましたね」
「やっぱり折れたんじゃなくて、ズブグクの鎌で剣が斬れたのか?」
「ずぶぐく?」
「あぁ、これは前にいた世界のズブブクという動物の鎌なんだ。 柄とツバの部分もズブグクの骨をそのまま使っている」
「これが生き物の鎌ですか」
ファビオがズブグクの剣を眺めていると、周りの兵士達も集まって来た。 そしてズブグクの剣と折れた(斬られた)剣を比べて議論が始まった。
「まさしく斬鉄剣だな」
ファビオがつぶやいた。
「斬鉄剣? いい響きだ。 これからこの剣の事をそう呼ぼう」
「それなら斬鉄双剣ではどうですか? 左右二対の剣ですから」
「ファビオ! センスいいな! 斬鉄双剣か······カッコイイ!」
俺も嬉しいが、ファビオも褒められて嬉しそうだ。 それを見て俺も二重に嬉しい!
しかし······これが斬鉄双剣なら······
「やっぱりファビオの剣を斬ったのは俺だ。 スマン」
「とんでもないです。 そろそろ新しい剣が欲しいと思っていたので、ちょうどいいです」
「お前······やっぱりいい奴だな」
俺が腕をポンポンと叩くと、ファビオは下を向いて照れている。 分かりやすくて可愛い!
ただ、他の兵士達がその光景を驚いて見ている。 普段の彼からは想像できない光景なのだろう。
その事に気づいたファビオは、急に真面目な顔になった。
「お前ら、訓練はもういいのか?」
「「申し訳ありません!」」
蜘蛛の子を散らすように走って行く。
そのうちの一人が、3本の訓練用の剣を持ってきてくれた。
「ケント殿、だいたい実力はわかりました。 基本を教えしましょう。 多分、基本さえ習得すれば誰も敵わなくなるでしょう。 それと、双剣の使い手もいますので、今度紹介します」
「それは助かる」
「ではこれを」
ファビオは訓練用の剣を差し出した。
「斬鉄双剣で練習すると、全ての剣が斬れてしまいますので、こちらで教えます」
「ハハハ、当然だよな、悪いな」
ファビオは「先ずは持ち方から」と、一から丁寧に教えてくれた。
ズブグク恐るべし!!( ゜ε゜;)




