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8話 ジャンシャード国一の剣士

 8話 ジャンシャード国一の剣士




 城に向かって歩いていると、キャッ!!という女性(キロウ)の声が路地の方から聞こえた。

 (のぞ)いてみると、狭くゴミや荷物が置いてある路地の先に仁王立ちをした体格のいい(キロウ)がいて、その向こう側に女性(キロウ)が倒れていた。



 俺はひとっ飛びで(キロウ)女性(キロウ)の間に割り込んだ。



「なっ! 何だ? お前は!!」


 突然現れた俺に驚いて(キロウ)は一歩下がる。


「貴猿のくせにでしゃばるなぁ!!」


 (キロウ)は殴りかかって来たが、俺はその腕を掴む。 掴まれた俺の手から逃れようと試みるが当然外れない。 仕方がないので今度は反対の手で殴って来た。 しかし再び俺に掴まれ、身動きができなくなった。


「うっ······グッ···ムッ······は···放せ······」

「お嬢さん、大丈夫ですか?」

「あ···はい···」


 女性(キロウ)はパンパンと服の汚れを叩いて立ち上がった。


「何があったんですか?」

「この人が酔った勢いで迫って来たのです。 それを拒むと殴られて······」

「それはいけないな。 君は彼女が好きなのか?」


「なぜお前にそんな事を言わないといけない!」

「好きな女性に暴力はいけないよ」

「貴狼は強い方がモテるんだ! 言うことを聞かなければ殴って従わせるまで!」


 俺は(キロウ)の腕を掴んだままで振り返り、彼女を見た。


「それは本当? 暴力で従わせるほうが男らしいと思う?」

「とんでもないですわ! 暴力をふるう男は最低ですわ!」

「と、言っていますけど?」


 

 えっ!と驚いている。 (キロウ)の中の常識が崩れたのだろう。


 突然男の力が抜けたので、手を放してやったが、(キロウ)はガクッとうな垂れたままだ。 俺は(キロウ)の背中をポンポンと優しく叩いて慰めた。


「女性は優しい男の方が好きなんだよ。 だから優しくしたり、プレゼントをあげたり、守ってあげたりすると彼女の心が動くと思うぞ」

「そうかな······」


 俺は背伸びをして小さい声で彼の耳元でささやく。


「俺が見たところ、彼女は君にまるっきり脈なしのようには見えないぞ。 だから常に彼女を一番に考えて優しくすればうまくいく可能性があると思うな」

「本当か?」

「ただし、二度と女性に暴力をふるうなよ」

「おう」


「ただ、今日の所は酔っているから一旦引け。 女性は酔っ払いも嫌いなんだ。 だから今度はシラフの状態で後日改めてプレゼントでも持っていくといい」

「わかった」

「ただし、一度でモノにできると思うなよ。 何度でも告白するんだ」

「分かった、やってみるよ。 お前、いい貴猿だな」


 そう言って(キロウ)は帰って行った。




「ケガはありませんか?」

「大丈夫です、ありがとうございました」


 そう言いながら女性(キロウ)も帰って行った。




「丸く収まってよかった」

「ケント殿、ハラハラしましたよ。 ところで最後は男に何を言ったのですか?」

「ちょっと恋のレクチャーを······」

「れく···? 何ですか」


「ハハハハハ、まともに恋愛もしていない俺がレクチャーもくそもないよな」

「?」

「さっ! 帰ろう」

「はい」




◇◇◇◇




 食事部屋に行くと、既にロキが待っていた。


「遅くなった、すまん」

「僕も今来たところだよ」


 ファビオはドアの手前で立ち止まって閉めようとしている。


「副隊長! 許可が出たから入っておいでよ」


 ドアを閉める手を止めて、えっ?という顔で不思議そうにロキを見つめた。


「あっ!······言うのを忘れていた。 今日から朝食と晩飯はロキと一緒に3人で食う事になったから、入って来いよ」

「はっ?!······それはどういう?······」

「ファビオと俺とロキの三人で飯を食おうって言っているんだ」

「は···はぁ~~?!!」


 ファビオは固まってしまっている。 完全に思考回路が止まっているようにみえる。

 こうなるだろうから事前に話そうと思っていたのに、あの酔っ払いのせいで忘れていた。


 俺はファビオの腕を掴んで招き入れるが、何だか全身で抵抗している。 ただ面白いのは、体に巻き付いてくる尻尾を巻かれまいとして、手で後ろに押さえている事だ。



······分かりやすい······



「夕食まで俺と一緒は嫌か?」

「と! とんでもないです」

「じゃあ、ロキと一緒に食べるのが嫌なのか?」

「とととととんでもありません!! そそそそそういう訳ではござりません」


「じゃあなんで?」

「やっぱり副隊長は僕みたいな子供と一緒にご飯を食べるのは嫌なんだね」

「めめめめっそうもござりません。 ただ恐れ多くてであります」


 何だかさっきから、微妙に言葉が変だ。


「プッ!!······ハハハハハ」


 俺は思わず吹き出してしまった。


「ファビオ、緊張しすぎだろう。 実は俺がロキにお願いしたんだ。 この世界で俺の友達はロキとファビオだけだから一緒にいたいって」

「·········」

「?···どうかしたのか?······ファビオ?」

「·········」

「副隊長? もしかして泣いてる?」


 ファビオは涙を袖で拭き取った。


「泣いてなどおりません!!」


 いやいや······今、涙を拭き取っただろう?


「私などでよろしければ、嫌だと言われましても、ケント様から離れません。 ロキ様! 不束者(ふつつかもの)ではございますが、お食事にもご一緒させていただきます!! よろしくお願いいたします!」


 盛大に尻尾を振りながら90度に頭を下げるファビオを見て、俺とロキは顔を見合わせてから大笑いした。


「ハハハハハ!!」

「ハハハハハ! 副隊長! 最高!」


 顔を上げたファビオは恥ずかしそうに頭を掻いた。



 ◇◇◇◇



 ファビオはまだ緊張しているのか、下を向いて黙々と食べている。


「なぁファビオ。 ロキの前でそんなに緊張していたら、ちゃんと警護が出来ないんじゃないのか?」

「こういう場と御守りするのは別ですから」

「そうだよ、副隊長の剣の腕前はこの国で勝てる人はいないって言われているくらい強いんだよ」


「へぇ~、そんなに凄いのか」

「まだ若輩者です」

「またまた御謙遜を······そうだ! お願いがあるんだけど」

「何なりと」


「俺、剣は持っているけど、実は正式に剣術を習ったことがないんだ。 練習相手もいなかったから自己流で練習していたんだけど······教えてもらえる事って出来るのかな?」

「もちろん、お安い御用です」

「やった!」


「では、明日の朝食後からでいかがですか?」

「もちろん!」

「いいなぁ~~。 僕も見に行きたいな~~」

「来ればいいじゃないか」


「それが、昨日ケント兄さんを探しに行って一日勉強をしなかったから、その分詰めて授業が入ったんだ」

「俺のせいか? それはすまないな」


「ケント兄さんが悪いわけじゃないよ。 でも一日くらいオマケしてくれてもいいのに······」

「やっぱり王子様は大変だな。 仕方がない、がんばれよ」

「······うん···はぁ~~······」


 ロキは大きくため息をついた。



 ◇◇◇◇



 部屋に戻って風呂に入ろうとサニタリールームに行くと、ちゃんと風呂が沸いていた。


「ベルタさん、ただいま」

「ケント様、おかえりなさいませ」

「お風呂に入りますね」

「フフフ、どうぞ。 あっ、着替えが置いてあるのに気付かれました?」

「着替え?」


 手洗いの桶の横にグレーの服が置いてあった。 部屋着のようなシンプルで着やすそうな服だ。


「ありました」

「お休みになられる時の寝巻です。 とりあえず今日はそれだけですが、他の服も急いで仕立てているそうですのでお待ちくださいという事です」

「わぁ、うれしいな。 ありがとうと伝えてください」


「承知しました。 それと、今着ておられる洋服をドアの外に出して置いていただけましたら、洗濯して、朝にはお届けいたします」

「至れり尽くせりだな。 後で出しておくよ」



 服を脱いで風呂につかる。 


「気持ちい~~っ」


 癖になりそうだ。


「そういえばベルタさんって一日中風呂を沸かしているのですか?」

「あ···そこに書いてありますけど、朝も夜も6時から10時までの間だけお湯を沸かしています。 他の時間に入りたい時は、従業員詰め所に言っていただければ沸かしにまいりますし、お急ぎならば従業員用大浴場なら一日中入れます」


「気が付かなくてすみません」

「とんでもございません。 ごゆっくりとお入りください」



······字が読めないんだから仕方がないだろと思ったが、言わない方がいいよな······


······神様も、ついでに字も読めるようにしてくれればいいのに······




 新しい服に袖を通す。 絹のようなサラサラした肌触りが気持ちいい。

 こんな服を着るのも何年ぶりか。 人間世界を思い出す。



 布団に入ると、あっという間に眠りについた。










やっぱり真面目なファビオさんです( *´艸`)

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