7話 快適な獣人世界
7話 快適な獣人世界
街に出た。
昨日は夜だったが、昼間に見る街もなかなか良くて街並みも美しい。
馬車や牛車もたまに通っているが、糞などは落ちておらず、ゴミも落ちていない。 そして夜に比べると人通りが多くて活気があった。
ここは王城前のメイン通りなので、とりわけ活気がある。
人間世界と同じようにガラス張りのショーウインドウの内側には飾り付けられた商品が並べられていて、道行く人々が中をのぞきながらウインドーショッピングを楽しんでいた。
俺が珍しがってショーウインドウをいちいち覗くたびに、ファビオが何の店か、他にどういう物が置いてあるか、店主や従業員の情報まで事細かく説明してくれる。
時間を忘れて見て回っていると、カーンコーンと、鐘の音が響いてきた。
「あれは昼の12時の鐘です。 夕方6時にも鐘がなります」
「へぇ~、御丁寧に教えてくれるのか」
「はい。 もう昼ですが、お腹が空きませんか?」
「そう言えば、腹減って来たな」
「じゃあ、私がよく行く食事処でよければ案内します」
「あっ···でも俺······金を持ち合わせてない······っていうより、この世界にはお金ってあるんだよな? お店でコインのような物を渡している人を見たが」
「もちろんです。 大丈夫です、私が持っていますから」
「でも···ファビオに金を出してもらうのも······」
「いえ、女王様からお預かりしているので心配には及びません」
「そ···そうか······」
「では行きましょう」
俺は歩きながら考えた。
昆虫世界に金はなかった、物々交換か、お互いに助け合って物を共有していた。
俺の所にはいつも誰かが何かしら持って来てくれていたので物に困る事はなかった。
そして食事も、いつもビルビかナルビが運んできてくれていたので当然のように受け取っていた。
自炊しようと思ったが(釜戸が出来る前にこっちに飛ばされてしまったのだが)こちらの世界ではそうはいかない。 自炊するにしても材料を買うのに金が要る。
······その前にいつまでも城にお世話になっている訳にもいかないよな······
······何か仕事をしないといけない······俺にできるのは警備くらいだよな······
······力以外に何ができるのかと聞いておるのだ······そう聞いてきたおっさんは的を得ていた······
······この世界に傭兵とかってあるのかな? それならできそうだけど······
「······殿?······ケント殿?」
不意に声をかけられてハッと我に返った。
「な···なんだ?」
「着きました、ここです」
入口の扉が大きく開け放たれている食事処のような店の前にいた。
さっきまでいちいちお店の説明をしてくれていたファビオだか、俺が考え込んでいる間は邪魔をしないように静かにしてくれていたのだ。
······気配りのできるいい奴だ······
中は100席以上ありそうな大きな店で、山小屋風の趣のある内装だ。
丸太小屋のような壁に、牛と鹿の角が飾られ、荷車の車輪や馬の鞍などもオシャレに飾ってある。
そしてテーブルの脚は切り株になっていてその上に分厚い天板が打ち付けられていて、4脚ずつの椅子は、ほとんど貴狼族で埋まっていた。
ファビオを見て数人の男達が立ち上がった。 身なりからして兵士のようだ。
ファビオが軽く手を挙げると、男達は座って再び食べ始める。
こういう時のファビオは特別カッコいい!! 友達になろうと言った時のワタワタした時を思い出して、少し笑えた。
しかし兵士達が鼻を突き合わせて俺を見ながらコソコソと話している。 兵士なのでファビオが人間族を連れている事を知っているのだろう。
まぁ、昆虫世界でも村人全員からもっと好奇の目で見られ続けたのだ。
もう慣れた。
店の中にある椅子には、所々に座面が高くなっている子供用のような椅子がある。 ファビオはその椅子を俺に勧めた。
······ガキ用の椅子のようで少し恥ずかしいが、普通の椅子だと低すぎて食べれないだろう······
「貴猿族のための椅子です」
「やっぱり」
······俺がチビなので仕方がない。 神の野郎! デカくしろよ!······
すぐにウェイターが注文を聞きに来た。 小柄だがポチャリした貴狼だ。
「お久しぶりです、サルバトーレ様。 なににしましょう?」
「いつものを二人分頼む」
「貴猿とご一緒とは珍しいですね。 すぐにお持ちします」
俺をチラリと見てから奥に入って行った。
「貴猿と言われて訂正しませんでしたが、よろしかったですか? 本当のことを言って騒ぎになっても困りますので」
「俺は一向に気にしないぞ。 でも、貴猿って嫌われているのか? たまに冷ややかな視線を向ける者がいるのだが」
「貴狼族もですが、貴猿族も貴豹族もプライドが高い者が多くて、自分の種族が一番偉いと思っている者もいるようです。 申し訳ありません、御不快な思いをされましたか?」
「いやいや、俺は気にしないと言っただろう? ファビオが謝る必要はないぞ」
「恐縮です」
すぐにウェイターが食事を運んできた。
山もりの何かの唐揚げと、野菜炒めに、パンとミルクだ。
これは美味い!!
お城で食べたフランス料理のようなのも美味しかったが、俺にはこっちの方が合っている。 母さんが作る鶏のから揚げに似ているのだ。
「これは美味いな!」
美味しそうに食べる俺を見て、ファビオは破顔していた。
◇◇◇◇
食後はファビオの勧めで、劇を見る事になった。
劇場はもちろんスポットライトなどはないために、青空劇場だ。 人気の芝居だという事で、ほぼ満席になっている。
演目は「ボーナの生涯」
ボーナという貧しい女性と、その国の王子様の許されない恋のお話だった。
◇
「面白かったな!」
「はい。 人気の演目で、もうずいぶん長く公演が続いています」
「だろうな」
「他の街で違う話が演じられていますので、また案内します」
「おう!」
その時、カーンコーンと夕方6時を知らせる鐘が鳴った。 辺りはまだ明るいが、日は傾いている。 日の入りは7時頃というところか。
「もうそんな時間か。 そう言えば城の夕食って何時からって決まっているのか?」
「場合によりますが、ロキ様の場合は7時からだと思います」
「じゃあ帰らないと」
「はい」
俺達は城に向かって歩き出した。
その時、キャッ!!という女性の声が路地の方から聞こえた。
覗いてみると、狭くゴミや荷物が置いてある路地の先に仁王立ちをした体格のいい男がいて、その向こう側に女性が倒れていた。
女性が襲われている!!(;゜0゜)




