6話 クソ真面目なファビオさん
6話 クソ真面目なファビオさん
朝の光が俺を包み込み、目覚めの時間だよと優しく揺り起こしてくれる。
「朝か······」
――― これは夢ではありませんよぉ~~っ! ―――
ガバッ!!と起き上がった。
本当に夢じゃなかったのか? しかし疑問に思っていた事が解決したのは確かだ。
俺は大きく伸びをした。
······深く考えるのはよそう······
サニタリールームに入ると既に風呂が沸いていた。 俺が入って来た音に気付いたのか、前回の女性が外から声をかけてきた。
「おはようございますケント様。 お目覚めですか? お風呂はどうされますか?」
「おはようございます! せっかく沸かしていただいているので入ります」
温かい朝風呂に入れるなんて、こんな幸せな事はない。
「お湯加減はいかがですか?」
「ちょうどいいです。 そういえば、お名前は何というのですか?」
「わ···私ですか?······そんな······」
「えっ?···女性に名前を聞くのって失礼な事なのですか?」
「と!···とんでもございません!! 名前を聞かれるなんて初めてですから」
「そうなのですか? でも失礼な事をしたんじゃなくてよかった」
「わ···私の名前はベルタです」
「ベルタさん。 いつもありがとうございます。 とても気持ちがいいです」
「それは良かったです! フフフ」
お湯の入れ替えとかどうしているのだろうかと思って見回すと湯船の横に隠し扉のような小さな扉があった。
······ここから入ってくるのか······うまくできているな······
風呂から上がって着替えている時に、ノックがあった。
ドアを開けると、キリッとしたスーツを着た三人の男性が立っていた。
「女王様からケント様のお洋服を作るように仰せつかって参りました」
「俺の服を?」
「失礼致します」
三人の男性は事細かく俺の体のサイズを測って書き留めていく。
「ご希望の色や形はございますか?」
「特に······あまり派手な色でなければ」
「承知いたしました」
サイズ測定が終わったはずなのに、なぜかキョロキョロしている。
「まだ何か?」
「失礼でございますが、身に着けていらっしゃった武器や防具のサイズも測らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんどうぞ」
防具のサイズを測り、剣を見たときに動きが一瞬止まった。
「何か?」
「あ······失礼いたしました。 この鞘についている宝石類があまりにも見事でしたもので···」
「へぇ~、そうなのか······やっぱり宝石だったんだ」
髪をくくっている紐にも宝石が付けてある。
ペンダントも勧められたが、飛んだり走ったりすると顔に当たって邪魔なので断った。 しかしそれもあれば、結構な金持ちになっていたかも······
洋服屋と入れ違いに開いた扉をノックしてファビオが入って来た。
「朝食の準備が整いました」
「ありがとう、行きましょう」
◇◇◇◇
今度案内された部屋にはロキだけが待っていた。
「ケント兄さん! おはよう!」
「すまん、待ったか?」
「ううん、今来たところだよ」
朝食が運ばれてきた。 昨夜のような豪華さはないが、それでも数種類の肉料理とサラダに、パンとミルクが並べられた。
「わぁい! 朝はいつも一人だったから、ケント兄さんがいてくれて嬉しい!!」
「えっ? いつも一人で食べていたのか?」
「だって、御母様は御忙しいから、なかなか御一緒にご飯を食べることができないんだ」
王子様なのに何だか可哀そうだ。 一人の食事は味気なくて寂しい。
妹の真鈴が小学校の低学年まで小児喘息で、たまに入院することがあった。 そんな時、一人でご飯を食べる事があったのだが、大好きなハンバーグも味気なくて美味しく感じなかったのを覚えている。
「これから朝晩は、できるだけロキとご飯を食べるようにするな」
「本当に?!! やったぁ!!」
「なぁ···王子様って普段は家臣と飯を食ってはいけないとかって決まりがあったりするのか?」
「そんな決まりはないけど?」
「じゃあ、次からファビオさんも一緒にたべるっていうのは大丈夫か?」
「うん!!······一応お母様に聞いてみるけど、大丈夫だと思うよ」
「よし! じゃあ食べよう!」
「うん! 食べよう!!」
◇◇◇◇
食後はロキが城内を案内してくれた。 もちろんファビオが少し後ろからついてきている。
初めはロキの部屋に行くのかと思ったら、その奥に兵士が立っている場所があった。
「あそこの奥に御母様の部屋があるんだ。 手前に会議室や書斎に相談室、他にもいくつもの部屋があって、一番奥に御母様の寝室があるんだよ」
「想像しただけででも物凄く広そうだな」
「広いよぉ~~。 はい、次!」
その後は、大広間に謁見室、大会議室に使用人の休憩室等々。 別棟には兵士や使用人の寮や訓練所や食堂や風呂場等々。
そして中は見なかったが牢屋専用の建物もあった。
少し離れたところには自家菜園場に獣舎や放牧場等もあり、城内はとてつもなく広い。
しかし今まで遠目で気付かなかったのだが、野蛮獣が、デカイ。
どれも俺の世界の動物と姿形はほとんど同じなのだが、どの動物も······いや、どの野蛮獣も俺が知っている動物よりひと回り以上大きいのだ。
もしかすると異世界移転する時に、俺のサイズがひと回り小さくなったんじゃないかと思った。 昆虫世界でもすべてが一回り大きかったので、そう考えると納得できる。
······もし次にまた神様に会う機会があれば聞いてみよう······
「あ······そろそろ授業が始まる時間になっちゃった」
ロキが建物を見上げるので、一緒に見上げた先には大きな時計があった!
数字の文字もローマ数字のⅠ、Ⅱ、Ⅲに似ていて分かりやすく、ちゃんと12時間で分割してある。
「と···時計があるのか?!!」
「当たり前でしょ? ケント兄さんは時計を初めて見るの?」
「いや···そういう訳じゃないけど······」
これには驚いた! こんな異世界で12時間の時計にお目にかかるとは思わなかったのだ。
「ごめんケント兄さん。 一応城の中の案内は終わったから、後は副隊長に案内してもらってね。 じゃあね!」
そう言って忙しなく走って行った。
······王子様って大変なんだな···ん?······副隊長って誰?······
振り返るとファビオがロキに向かって頭を下げていた。
「ねぇ···副隊長ってファビオさんの事?」
「そうです」
「正式には?」
「女王付きの近衛隊副隊長です」
「そ···そんな偉い人が俺の案内をしてくれていたのですか?······いいの?」
「とんでもないです。 私の方がケント様の案内役を承って光栄です」
「様はやめましょうよ。 ついでに敬語もやめて頂けると嬉しいのですが······」
「そういう訳にはまいりません」
「もしかして、物凄く真面目って言われませんか?」
「光栄です」
ファビオは嬉しそうに太い尻尾をバタバタ振っている。
「いや···褒めている訳ではないんだけど······じゃあ、様だけはやめてもらえませんか? 柄じゃないものでケント様って呼ばれると、何だか背筋がむずがゆくって······」
「·········わかりました。 では二人の時はケント殿と呼ばせていただきます」
「様よりいいか······敬語は?」
「無理です」
「二人っきりの時だけでも······願い!!」
俺は両手を合わせてお願いした。
「しかし······」
もう一息だ!
「ロキから聞いたかもしれないけど、俺は違う世界からこの世界に来たばかりなんだ。 だから友達がロキしかいない。
あっ···王子様を友達っていうのも失礼かもしれないけど······だからファビオさんも俺の友達になってくれると嬉しいんだけど······お願い!!」
柄にもなく、ちょっと可愛くお願いしてみる。
ただ、それ以前に王子様を呼び捨てにしているのもどうかと思うが、始めが始めなので、今更変えるのもどうかと思うし、誰も注意しないから厚かましくロキと呼んでいる。
それは置いておいて······クソが付きそうなほど真面目な彼だが、ガルヤ達のような気の置けない友達になれると感じているのだ。
「わ···分かりました······では私の事をファビオと呼び捨てにしていただけますか」
「わお!! もちろんだファビオ!! 今から友達だ! よろしく!」
俺は手を差し出した。 すると今まで無表情だったファビオがニッコリ笑って俺の手を握り返した。 なかなか人好きのする可愛らしい笑顔だ。
「では、よろしくお願···よろしく、ケント殿」
「おう! じゃあ今から町中を案内してくれるか?」
「はい! あっ···分かった···うっ······や···っぱり勘弁していただけませんか?」
尻尾を股の間にいれるのではなくて、体に巻き付けている。
······これは「尻尾を巻く」と同じ意味なのかな?······
「ダメか······突然友達になろうって言われても困るよな······わかった。 じゃあ徐々に慣らしていこう。 それでいいよな」
「ありがとうございます。 精一杯努力します」
······ビックリするほど先が思いやられる······まぁいいか···焦らずにいこう······
自分で書いてて言うのもなんですが···やっぱりファビオさん好きやわ( 〃▽〃)




