5話 異世界移転をする理由
5話 異世界移転をする理由
「この方が人間族のケント様です」
「「「おぉぉぉぉ~~」」」
女王が俺を紹介してくれると、貴狼族の重鎮達が唸る。 俺を見る彼らの目は、初めて俺が人間だと知った時のロキのような珍しいものを見るような目もあれば、初めて会った時のガルヤのような敵意を持っているような目もあった。
ひと際大きな黒い軍服の貴狼に目が行く。
背の高さは女王と同じくらいだが、筋肉隆々の体で、二回りほど大きく見える。 後ほど紹介してもらったのだが、この国の将軍らしい。
そして女王の一歩後ろにはファビオと同じ赤い軍服の貴狼が立っている。 赤い軍服は近衛隊だそうだ。
文官の重鎮らしきおっさんたちが代わるがわる質問してくる。
「ロキ様を野蛮獣の虎から助けてくださったと言うのは本当でしょうか?」
「はい」
「あの野蛮獣の虎を一蹴りで倒したというのも?」
「まぁ···はい」
「ほぉ~~素晴らしいですね」
「他に何が出来る?」
「どういう事ですか?」
「力以外に何ができるのかと聞いておるのだ」
「いや······特に······」
「そんな事だと思うた。 力があるだけで何が出来るというのだ」
「助けてくださるというお優しいお心だけでも素晴らしいではないですか」
何なんだこのおっさん達は······何が言いたいのだろう?
「さぁさぁ、尋問はそれくらいにして、晩餐にお招きしたのですよ。 ゆっくりと召し上がっていただきましょう」
女王が助け舟を出してくれた。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます」
美味しそうな目の前の肉を食べてみた。 スパイスが効いていてとても美味しい。
昆虫世界では、香草などで香りを付けられてはいたが、ほとんど焼くだけ、煮るだけだったので、舌が驚くほど美味しかった。
ナイフやフォークも2年ぶりなので、思わず放り出して手で掴んで食べたい欲望にかられたが、なにせ女王様の前という事もあって辛うじて思いとどまる事ができた。
「ケント兄さん、美味しい?」
「うん、本当に美味い。 これは最高だ」
「よかった。 ねぇ、ご飯を食べ終わったら、僕が城の中を案内してあげるね」
「そうか、ありがとう」
「ロキ、ケント様はお疲れでしょうから明日にしたらどうですか? あなたも朝早くから出かけていて疲れているでしょう?」
「は~い」
女王に釘を刺されてロキは俺に向かってペロリと舌を出して肩をすぼめてみせた。
「じゃあ、後で僕の部屋だけでも見せてあげるね。 それくらいはいいでしょ?」
女王はコクンと頷く。
「いいって」
「わかった」
ニッコリと笑うと、ロキも嬉しそうに破顔した。
◇◇◇◇
食事が終わって俺とロキが立ち上がると、御丁寧に女王を含む他の者達が一斉に立ち上がった。 なぜ女王まで? と思ったが、神様と話せるロキが、もしかしたら神聖視されているのかと感じた。
「ケント兄さんに僕のお部屋を見せに行くね」
「御馳走さまでした。 お先に失礼します」
プニュプニュの手で俺の手を掴むと、引っ張っていく。 扉の外ではファビオが待っていて、あとをついてくる。
······城の中までご苦労な事で······
「ここだよ」
招き入れられた部屋は俺の部屋より狭く、想像と違って子供らしい飾りやオモチャなどはなかった。 どちらかというとシンプルで大人の男の部屋というイメージだ。
「お···落ち着いたいい部屋だな」
「そう?······もっとカッコいい壁紙にしてって言ったんだけど、大人になってもこの部屋なのだからって却下されたんだ」
「却下なんて、難しい言葉を知っているんだな」
「これでも王子だからね······毎日沢山お勉強しているんだ」
「そ···そうか······それは大変だな」
「でも僕は将来お母様の跡を継いでこの国の国王にならないといけないから、仕方がないんだ」
「そ···そうだな······ロキならきっと立派な国王になれるさ」
「うん!」
·····何だか凄い。 こんなに小さい頃から使命感を持っているなんて······
「僕が国王になれば、大好きなりんご飴をいくらでも食べていいって先生が言っていたんだ。 頑張って早く国王にならなくっちゃ」
······りんご飴に釣られたのか······前言撤回······
「明日も昼からはお勉強のスケジュールがいっぱいだけど、午前中はお城の中を僕が案内してあげるからね!」
「おう! 楽しみにしているぞ。 じゃあ今日は早く寝ないとな」
「うん。 実はもう眠たいんだ。 ふぁぁ~~っ」
ロキは大きなあくびをした。
「じゃあ、明日楽しみにしているぞ。 お休み」
「おやすみなさい」
◇◇◇◇
部屋に戻ってフカフカのベッドの上に横になった。
デッカイ月の明かりが差し込み、夜だというのにとても明るい。
見るともなく立派なベッドの天蓋の梁を見つめた。
······今度は獣人世界だ······どうしてまた移転したのだろう······夢···じゃないよな······
······でもなぜ巨大モルドにやられた死ぬほど痛かったケガが治っていたのだろう······なぜ服まで元通りになっていたのだろう······不思議な事が多すぎる······
俺は寝返りを打って、窓の外に見えるデッカイ月を見つめた。
······そういえばあの時······痛みで目眩がして······崖から落ちて、地面に激突する直前に目の前が真っ暗になった気がする······
······自転車から落ちた時もそうだった···よな······本来なら死ぬはずの場面で移転した?······
······まさか俺の特殊能力?······なんてことはないか······
ふと目を開けると、見慣れない場所にいた。 天蓋付きのベッドに寝ていたはずなのに、フカフカのソファーの上に座っていた。
そして目の前には超絶美しい男女が座っていた。
美しい銀色の長い髪に、キリッとしたフォーマルスーツをバシッと着こなしている男性と、これまた美しい金髪の超絶美女が、胸の大きく開いた美しい金色のドレスに身を包んでいた。
「「はじめまして」」
「えっと······」
俺はちょっと気後れしながらソファーに座り直した。
「私達は貴方達の言う神ですわ」
「神様?」
「貴狼族の言うヴォルフ神とは私の事だ。 そう言えば分かりやすいかな?」
「ロキと話ができるという?」
「そうよ。 そして貴方を異世界に移転させたのも私達よ」
「えっ?! 神様がなぜ?」
「君の魂は眩しいほど輝いているのだ。 しかしその輝きが激しすぎるが故に17年で命を閉じてしまう運命だったのだよ」
「だから私達が異世界に移転させて助けたのよ」
「じゃあ、あの時に僕は死んでいたはずだったのですか?」
「それも、二度」
「あまり無茶をするものじゃないわよ」
······巨大モルドにやられた時にも、死ぬはずだったのか······
「では、傷の手当ても?」
「もちろんだ」
「ついでに服もリセットしてあげたのよ」
「それで······もしかしてこのチートな力や言葉が分かるのも神様のおかげ?」
「そういう事だ。 異世界に飛ばされた時にただの人間では、1日も生きている事はできなかっただろう」
······神様だから何でも有りなのか?······
「じゃあ、もし次に死にかけたら、元の俺の世界に移転してもらう事はできますか?」
「残念ながらそれは無理ね」
「なぜ?」
「死んだ魂はその時に死んだ世界で転生する。 しかし無理やり移転させた魂は、二度と移転してきた世界に戻る事はできないのだよ」
「·········」
「残念ですわ」
······あまり期待はしていなかったが、やっぱりショックだ······
「俺をここに呼んだ理由は何ですか?」
「君が疑問を膨らませているようだからね。 命を助けるためとはいえ私達が勝手に移転させてしまったのだから、説明だけでもしておこうと思って」
「せっかく神から授かった力を無駄にせずに思う存分使いなさい。 でも無理をしすぎないようにね」
その時、神達がいた部屋が突然遠のいていった。
······ちょっと待ってくれ!! まだ聞きたいことがあるのに!!······
「神様!! 夢に出てくる女性は異世界移転することと何か関係あるのですか?!!」
「どこの世界でも必ず貴方は英雄になるでしょう······これは夢ではありませんよぉ~~っ!」
どんどん遠のいて暗闇の中の、小さな点になっていく。
「夢子さんと巡り逢う事は出来るのですかぁ~~~っ?!!」
小さな点がポツンと消えて真っ暗になり、俺は目が覚めた。
神様たちは、私の画力では描けません(。>д<)
美しい男女を想像してくださいね( v^-゜)♪




