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4話 俺の新居

 4話 俺の新居




 門の中には手入れされた美しい庭園が広がっている。 その中を歩きながら、チョンチョンとロキの手を引っ張った。


「どうしたの?」

「なあ······お前のお母さんって王妃様なのか?」

「王妃様?······違うよ」


 良かった、偉い人なのだろうが王妃様でなければまだ安心だ。


「お母様は女王だよ」

「?!!··········」


 俺は言葉を失った。



······王妃様以上があった······



 城の大きな扉の中に入ると、まるでシン〇レラ城のような美しい内装が目に飛び込んできた。 思わず見とれてしまう。


「スゲェ······」



 女王様が立ち止まって振り返り、俺に向かって頭を下げる。


『女王様が俺に頭を下げるなんて、やめてくれぇ~~!!』

「お部屋を用意させていただいています。 これからは自分の家だと思って御くつろぎください。 夕食も直ぐに出来ると思いますので呼びに行かせます。 あぁ、当分の間は彼が案内役を務めます」

「サルバトーレ・ファビオと申します」


 さっき串焼きを買ってきてくれた(キロウ)だ。


「倉木賢斗です。 ケントと呼んでください」

「ではこちらへ······」

「ケント兄さん、後でね!」

「おう!」



 手を振りながら女王についていくロキに手を振り返してから、ファビオについていった。




 長い廊下を通ってから一旦外に出た。 渡り廊下を通った先に何棟かのオシャレな家が並んでいる。 その中の一軒のドアを開けた。


「どうぞ。 これからはここでお過ごしください。 私も当分の間、隣の家におりますので、出かけられる際には必ずお声がけください。   

 夕食が出来ましたら呼びにまいります。 湯浴(ゆあ)みの準備もできておりますので、遠慮なくお使いください」


 そう言ってファビオはドアを閉めた。 


 多分、案内役という名の監視役だろう。 しかし気にしない。 連れがいる方が楽しいからだ。





 案内された家は俺の実家より広い。 何十畳くらいあるのだろう、広いワンルームの中に、オシャレな応接セット、本棚と机、そして天蓋付きのベッドがあり広いテラスまである。


 奥に扉があるので開けてみるとサニタリールームだった。

 ちゃんと湯気の立ったお風呂まである。



······そう言えば湯浴(ゆあ)みがどうとか言っていたな······



 昆虫世界には風呂はなかった。 川か湖で洗うか、村の中のコンコ(水場)で洗っていた。

 


「風呂だ!!」



 湯加減もちょうどいい。 服を脱いでザバン!!と湯につかる。


「気持ちいい~~!!」

「フフフ、湯加減は大丈夫ですか?」

「えっ?!」


 どこからか女性(キロウ)の声が聞こえてきた。 俺は思わず大事なところを手で隠す。


 見回してみると、湯船の上に小窓がある。


「えっと······」

「あ···失礼しました。 上に小窓がありますでしょ?」

「はい」

「その下で薪を焚いています。 熱ければ仰ってください」

「ありがとうございます」


 誰かが(のぞ)いているのではなかったので安心して、ゆっくりとお湯に浸かる。




 体の汚れが流れ落ち、芯から温まっていく。





『お願い···お願いだから助けて······』

『夢子さん······大丈夫、俺が必ず助けるから······』

『······信じているわ······』


 美しい紫色の瞳が徐々に離れてゆく。


『お願い······お願い······』

『夢子さん!! どこに行くのですか?!』


「······てはダメですよ······」

「?」

「ケント様、起きていらっしゃいますか? 眠ってしまわれると溺れますよ」


 ハッとして目を開けた。



 湯船の中で眠ってしまっていたらしい。


「夢か······あ···大丈夫です。 もう上がります」

「承知いたしました」



 風呂から上がって備え付けのバスタオルで体を拭きながらサニタリールームから出た。


「久しぶりに夢子さんに逢ったな。 俺の方が年上になっているような気がする」


 フカフカのソファーにドカッと座って外を見つめた。



······アンはどうしているだろう······ナムルトが居なくなった時のクラムのようになっていなければいいのだが······


······みんなも心配しているだろうな···あっ、ネッドをイルムナック村に置いてきた···まぁいいか······誰かが面倒を見てくれているだろう······



 その時、コンコンとノックがあった。


「はい!」

「ファビオです。 夕食の準備が整いましたのでお越しください」

「ち···ちょっと待ってくださいね」



 ヤバイ、裸のままだ!



 ボサボサの髪を一つに(くく)り、いつもの服に着替えた。 もちろん防具や剣はつけていない。 靴も膝当てを外すとショートブーツのようになっている。



 慌てて身支度を整えて部屋を出た。




 城の中をファビオについていく。 途中で会う(キロウ)会う(キロウ)が立ち止まって挨拶をしてゆく。



······ファビオって偉いんだ。 そういえば女王様と一緒にいたくらいだからな······



 背中に立派な剣を背負い、背筋の伸びたキリリとした姿は美しいと思えるほどだ。



挿絵(By みてみん)



 大きな扉の一室の前で立ち止まる。 


 ファビオがノックの後、その大きな扉をゆっくりと開いた。 

 中には女王とロキだけかと思ったら、十数人の貴狼の面々が座っていた。


「どうぞお入りください」と、ファビオが俺を中に招く。 そして中に入った俺の後ろでバタンと扉を閉められた。



「ケント兄さん!!」


 ロキが立ち上がって俺の所に走って来た。 すると女王を含めて貴狼達が立ち上がる。 

 ロキがあの気持ちのいい手で俺の手を掴んで引っ張り、席まで案内してくれた。



 って、俺の席は女王様とロキの間の上座かよ!!



······いやいや、この世界には上座などというのはないのかもしれない······気にしない気にしない······




 席について驚いた。 テーブルに並べられた料理は、フランス料理のように豪華でオシャレに盛り付けてある。





 貴狼族、恐るべし!!











久しぶりに夢子さんが出てきましたね。


ケントの新しい生活が始まります!


私はファビオが好きです!!

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