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3話 ロキの正体

 3話 ロキの正体




 町に近づくにつれ驚きが増してゆく。


 獣人を(あなど)っていた。 心の隅のどこかで「狼だし······所詮(しょせん)獣だし」と思っていた。 せいぜいフォーアームスの村に毛が生えた程度の街だと思っていたのだか、とんでもなかった。


 ジャンシャード国は10mほどの高い壁に囲まれていて、その壁の端は見えないほど広い。 そしてその高い壁の上から街中(まちなか)の高い建物がいくつも見える。


 もちろん高層ビルとかではないが、4~5階建てはある高さの建物だ。 上の方しか見えないがそれでも西洋の美しい街並みを思い出させる(おもむき)のある建物だ。





 町の前に着いた頃には太陽は沈んでいたが、恐ろしく巨大な月のお陰で夜はかなり明るい。

 松明が焚かれている大きく開け放たれた門の前には、二人の貴狼兵が立っていた。


 思った通りガルヤ程の3m以上ある身長で、黄色い軍服に胸当てを付けている。 そして背中に剣を背負っているのだが、手には長い槍も持っている。



 ロキを見ると貴狼兵は、シャッキッと直立不動になった。



······ロキは有名なんだな。 神と話が出来るからかもしれない······



 そんなことを考えながらロキの後ろをついていくと、貴狼兵の槍が俺の前でクロスされて止められた。


挿絵(By みてみん)


「通行証を見せろ」


 見下ろしながら言われた。 するとロキが「待って!」と、戻って来る。



「この人は俺を助けてくれた命の恩人なんだ。 だから通してあげて」

「しかし······」

「ケガの治療もしてくれたんだよ。 悪い人じゃないってば」

「しかし規則ですから······」


 その時、街の中から貴狼の集団が走って来た。 先頭を走る白い貴狼は一回り大きい。

 その大きい貴狼が、ロキの前に来ると転変した。 他の貴狼より頭二つは高く、なぜか威厳を感じる。


「お母様!」

「ロキ! 心配したのですよ、どこに行っていたのですか?」

「ごめんなさい。 神様が貴豹の森に行けって言うから」


「まぁ! お告げがあったの? それなら母に一言断りを入れて、護衛をつけて行きなさい」

「だって夜中だったから······」

「大丈夫なの? ケガはなかった?」


「実は虎に襲われたけど、ケント兄さんに助けてもらったんだ」

「と···虎に?! それはありがとうございました」


 母親が丁寧にお礼を言ってくれた。 しかし他のみんなは一斉に俺を見て、ふ~ん、そうなのか···的な顔だ。


「そしてね······お母様、気が付かない?」

「何が?」

「なんと!······ケント兄さんは、()()()ですぅ!!」


 ロキは俺に向かって手のひらを差し出した。


 再びみんなが一斉に俺を見る。 それも今度は驚きの表情になっている。 そしてロキが初めて俺が人間と知った時のように、頭の先からつま先までマジマジと眺めていた。



 ロキは俺のもとに走ってきて、俺の手を握った。


 まだ子供のプニュプニュの肉球が手のひらに当たって気持ちいい! 犬の肉球もいいけど貴狼の手は格別だ!



······わぉ!! 肉球の手が気持ちいい~~!!······



 だからみんなの好奇の視線は気にならなかった。



「貴猿族と違うのは分かるよね。 ケント兄さんは頭にしか毛がないし、体つきも微妙に違うでしょ?」

「そ···そうだわね」

「それにあの虎を一蹴りで倒しちゃうんだぜ! 凄いだろう!」

「一蹴りで?······」


 三度みんなが驚き感心して見てきたが、ロキはまるで自分の事ように自慢げに鼻を上げていて、千切れんばかりに尻尾を振っていた。



「そこでお母様。 ケント兄さんはここに来たばかりで行くところもないから、城に来てもらってもいいよね?」

『城?』

「もちろんよ。 この御方さえよろしければ」


 母親が俺に向かって微笑んだ。


「倉木賢斗です。 お言葉に甘えてお世話になります」


 この世界に握手があるのかは分からないが、とりあえず手を差し出した。

 すると母親が肉球のある大きな手で握り返してきた。


「トラファルザー・ベネッタです。 お会いできて光栄ですわ」

「やったぁ!! ケント兄さん、行こう!」


······珍しい生き物に逢って光栄に思う事なのか?······まあいいか···深く考えるのはよそう······



 大喜びのロキはスキップするように俺の手を引いて門を(くぐ)った。



 ◇◇◇◇



 ジャンドの街並みは期待を裏切らなかった。


 道路は石畳で整備され、等間隔に並べられた趣のある街灯に火がともされている。 そしてそこにいるのが貴狼族でなければ、西洋にあるどこかの美しい街にいるような感覚に襲われる。


 ただ、全てが一回り大きい。 貴狼サイズだから仕方がない事だ。


 立ち並ぶ店も人間の店と何ら変わりがなく、今度ゆっくりとウインドーショッピングをしてみたいものだ。



 貴狼族と言っても、さまざまな種類の狼がいるようで、サイズも色もバラエティーに富んでいる。 ただ、小さい者でも俺よりは大きい。 そして所々に転変せずに狼の姿で歩いている貴狼もいる。


 狼好きの俺としては萌える!!



 夢子さんといい、狼といい、俺ってやっぱりオタク決定だな。




「あっ!」


 俺は思わず声を上げた。 人間がいたからだ。


「どうしたの?」

「あの人は人間じゃないのか?」


 俺が指さした方を見て、ロキが笑った。


「あれは貴猿族だよ。 パッと見はケント兄さんと似ているでしょう?」

「貴猿族? そういわれてみれば·····」」


 服を着ているが確かに猿だ。 チンパンジーっぽい。

 よく見ると、動物園とかでよく見るただ立ち上がっているだけのチンパンジーではなく、転変していて骨格が変わって人間に近い。 そして身長は俺より少し高そうだがパリッとした紳士的な服装を着ていた。


「これは貴猿に間違えられても仕方がないな」

「フフフ、そうでしょう?」


 なぜかロキは嬉しそうだ。

 元々類人猿と人間は近い種族だから、ちょっと骨格を似せれば、同じになるのだろう。




 その時いい匂いがしてきた。 どこかの飯屋から匂いが流れてきたのだろう。

 よく考えると朝から···いや、ターンナックに着く前にミルを食べてから何も口にしていない。


「腹減った」


 思わず声に出してしまった。 するとロキが見上げる。


「僕も昨日の夜から何も食べていなかったんだ! 腹減った!」



 二人に言われて母親は苦笑した。


 母親に何かを指示された黒っぽい被毛に赤い服を着た兵士が、走っていく。 すぐにその兵士は飲み物と串焼きのような物を買ってきて俺とロキに渡してくれた。


 飲み物は何かの果実飲料で、甘くておいしい。 そして何かの肉の串焼きも、甘辛いたれがかかっていて、とても美味しかった。


 この世界の食事も口に合いそうで安心した。





 お腹も落ち着き、どこまで行くのかと思っていると、大きな城に向かう道に入っていく。どう考えてもこの国の国王が住むような城だ。


 そうしてそのまま城の門を(くぐ)った。


 そういえばロキは牧童や城門を護る兵士から挨拶をされていた。 自分の家を「城」と言っていた。

 もしかしたらロキって王子様? ロキの母親って王妃様?



 ひえ~~~っ! ターンナック村の村長の家にお世話になるのとは訳が違う! 規模が違う!




 いいのだろうか? お城に入り込んでも······お世話になっても······










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