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2話 助けた子狼は貴狼族

 2話 助けた子狼は貴狼族(きろうぞく)




 太い木々の間から太陽の光が差し込んでいて、森の切れ目を教えてくれている。 



 そのまま走り抜けると、突然目の前が(まぶ)しいほど明るくなった。


 森を抜けたのだ。 そこは少し高台になっていて、その先には広く美しい草原が広がっていた。




 所々に高い木が生えている他は一面緑で、遠くに流れる川の水面(みなも)がキラキラ輝いて見える。 晴れ渡った空に浮かぶ白い雲と(まぶ)しい太陽と、()()()()······


「3つの月?! それも1つはデカイ月だ。 直ぐ近くに惑星でもあるのか?」



 黒豹が喋った地点で異世界という事は分かっていた。




······深く考えるのはよそう······




 幻想的な3つの月と地球を思わせる美しい自然を堪能(たんのう)していたが、今は美しさに浸っている暇はない。 先に見える川に向かった。


 湖畔に子狼を降ろし、傷口を洗ってからビルビに貰った傷薬を塗る。

 思ったより傷は浅く、虎にやられたのではなくて逃げている時に枝や草で切ったか、穴に落ちた時のケガのようだ。


「ク···クウン······」


 子狼が目を開けた。


「ウッ!」

「大丈夫か? 少し我慢しろ。 もうすぐ終わる」


 傷口に薬を塗って、サッシュベルトを巻きなおした。


「よし」

「ありがとうございました」



······やっぱり喋った······



 子狼は物言いたげに俺の顔を見上げている。 


 さすが狼。 子供でも大きいが、それでもまだ生後5~6ヶ月というところか。

 抱きしめたくなるほど可愛い。


 アンの子供の頃を思い出した。



「俺の名前は倉木賢斗(くらきけんと)。 ケントと呼んでくれ」

「僕はロキ······ケント兄さんはキエン?」

「さっきも豹に聞かれたが、キエンとはなんだ?」

「キエンはキエンだよ」

「·········」


 分からない······素直に教えを()う事にした。


「実は俺······この世界に来たばかりで何もしらないんだ」

「もしかしてファーズロックコウから来たの?」

「ファーズロックこう?」

「海の向こうから来たの?」


「あぁ、()か。 そうじゃない。 信じてもらえないかもしれないけど、違う世界から飛ばされてきたんだ。 だから何も知らない。 色々教えてくれないか?」

「うん、いいよ!」

 

 こういう時は子供だと変な勘繰りはなく、素直に教えてくれるので助かる。


「ここはどこ?」

「ここはキロウの国、ジャンシャード国だよ」

「キロウってなんだ?」

「キロウはテンペンできる高貴な狼族(おおかみぞく)だから貴狼族(きろうぞく)

「テンペンって?」

「こういう事だよ」


 

 お座りして俺の前に座っていたロキが、突然後ろ脚で立ち上がり150㎝ほどの人型に変身した。

 おれは思わず、後ろにひっくり返りそうになる。



······ハイファンタジーによく出てくる獣人だ! スゲェ! これは萌える!!······



「こ···これが転変······狼はみんな姿を変えられるのか?」

「うん、そうだよ」

「それで高貴な狼で貴狼か······じゃあ······もしかしてキエンは転変できる猿?」

「正解! あと、貴豹族があるんだ」


「やっぱりあの豹は立ち上がっていたのか······じゃあ、あの虎は?」

「あれヤバンジュウだから転変できないよ」

「ヤバンジュウ?」


「転変も話も出来ない獣の事だよ」

「もしかして、野蛮獣······普通の野生動物ってところか······」


「虎から逃げているときに、後ろから虎以外の声がしたから振り返ると、ケント兄さんが虎を一撃で蹴り倒すところだったんだ!

 僕、あんなに強い獣人を見たのは初めてだよ。 そのすぐ後に、崖から落ちちゃったけどね」


 ロキはペロリと舌を出した。


「ねぇ······ケント兄さんは貴猿族じゃないとしたら、何族?」

「う~~ん······強いて言えば······人間族···かな?」


 するとロキがピンと直立不動になり、キラキラした目で俺を見上げてきた。

 そして可愛い尻尾が盛大に振られていた。


「本当?!! 本当に人間族?!!」

「人間を知っているのか?」

「もちろんだよ! 見たことも会ったこともなかったけど!······本当にいたんだ······人間族······」


 珍しいものを見るように、つま先から頭の先まで()めるように俺を眺めている。


「僕はね、ヴォルフシンと話が出来るんだ」

「ヴォルフシンって?」

「僕達狼の神様だよ」

「ヴォルフ神······神様と話が出来るのか?」

「そうだよ。 でね、神様が貴豹の森に行けって言ってきたんだ」


「へぇ~、本当に神様と話が出来るんだ」

「実は聞こえるだけだけどね。 とにかく急いで貴豹の森に行ったのはいいけど、何のために行けって言われたのか分からなくって、ウロウロしていたら虎に襲われて、ケント兄さんに逢ったってわけ」


「そうだったんだ。 どうして森の中に子狼が一人でいたのかと思っていたんだ。 あっ···失礼、子供の貴狼族だったな」

「フフフ、神様は人間族に逢わせるために僕を貴豹の森に行かせたかったんだって納得したよ」


「ここに人間はいないのか?」

「もちろんだよ!! お母様が喜ぶぞ! ケント兄さん、僕の家に来てくれるでしょう?」


 右も左も分からない状態でお招きはありがたい。



······なんだか前にもこんな事があったな······



······それは置いておこう······



「俺は嬉しいけど、いいのか?」

「もちろんだよ! 行こう!」


 ロキが歩き出したので、ついていく。


「家はどこだ?」

「あそこ」


 指差したのはこの草原の先で、遠くの方にある山の(ふもと)に町があるように見える。

 かなり遠いのでよくわからないが、けっこう大きな町のようだ。


 ジャンシャード国のジャンドという町だと教えてくれた。



 ◇◇◇◇



 トボトボと歩きながら話を聞いた。


 貴狼と貴猿と貴豹はそれぞれ国を作っている。 三国は力が拮抗(きっこう)しているので戦争にはならないらしい。 いわゆる「三竦み」状態だ。


 ただ、時々小競り合いはあったらしいが今ではそれもなく、平和に暮らしているという事だ。


 貴狼は貴猿と貴豹の両国と国交があり交易もある。 しかし貴猿と貴豹は仲が悪く、戦争まではいかないが今でも小競り合いは時々あり、いつか本気の戦争になるのではないかと心配しているそうだ。


 そして海の向こうにも大きな国があるらしいが、ロキはよく知らないという。


「そういえば俺を貴猿と勘違いした貴豹が、有無を言わせず攻撃してきたな」

「貴豹族っていつも偉そうにしているんだよ」

「何だかわかる気がするな······そういえば······」


 この広い草原には野生動物···野蛮獣が沢山いる。 牛に羊、ヤギに豚と、アルパカかラマみたいなのもいる。 他にもいろんな種類の野蛮獣が俺達を怖がることなく草を食んでいる。


 ロキに聞いてみると意外な言葉が帰ってきた。


「この草原にいるほとんどの野蛮獣は飼っているんだよ」

「えっ? ここに放牧しているって事か?」

「そうだよ」


······そうだった。 狼ではなくて獣人だった。 獣が獣を飼うなんて驚きと思うこと自体が失礼なのだろう······


 俺は「ふ~ん」とだけ答えた。



 よく見てみると、所々に狼がいる。 いや、貴狼族がいる。

 カウボーイとか牧童とかいわれる仕事のように、見張りや護衛をしているのだろう。



 まさしく牧羊(おおかみ)だと思ったが、口には出さない。




 その時、近くにいた狼の姿のままの貴狼が俺達を見つけて走って来た。

 背中に剣を背負い、胸や肩に防具をつけた貴狼は、俺をチラリと見てからロキの前に座った。



 しかし、デカイ!! 狼ってこんなにデカかったっけ? アンもかなりデカイが、それくらい······いや、アン以上にデカイ。

 これが転変して立ち上がると、ガルヤ並みの身長になるだろう。



······また俺だけチビかよ······



 ちょっとショック。



「ロキ様、みなさまがお探しでしたよ」

『ロキ様?』


「わぁ! 本当?······ヤバいなぁ······」

「ところでその方は?」

「あぁ、僕を助けてくれた恩人だよ」

「それは、ありがとうございます」


 貴狼はわざわざ俺に頭を下げてくれた。



······ロキっていい所のお坊ちゃんみたいだな······



「今からお戻りですか?」

「うん。 あ、そうだ! 知らせておかないと!」


 そう言うとロキはウォォォォ~~!と、遠吠えを始めた。


 子狼の遠吠えは可愛い! 何だか一生懸命っぽくって、微笑(ほほえ)ましい。

 すると、横の貴狼も遠吠えを始め、そのすぐ後、遠くの方から幾つもの遠吠えが聞こえてきた。



 そうか、知らせるってこういう事か。 貴狼に携帯電話はいらないな。



「じゃあ、ケント兄さん、行こうか!」




 俺たちは再び夕日に赤く染まってゆく町に向かって歩き出した。








貴狼族の街はどんな所でしょう?


ケントは期待に胸をふくらませます( 〃▽〃)


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