41話 危機一髪!
41話 危機一髪!
その少し前······
ガルヤ達がイルムナックに到着した。
村の入口ではアスト達と十数人の警備隊が首を長くして待っていて、ガルヤ達を見つけると駆け寄って来た。
「ケントさんが戻ってきません!」
「あいつがまた何か一人で暴走しているのか?」
「モルドの住処を探すと言って、出ていったきりです」
「そんなことを言っていたな。奴はいつ出発したんだ?」
「早朝、ここに到着して直ぐです」
「もう1つ目の太陽が沈みかけている。 奴が出発してからずいぶん経つな、探しに行こう」
「みなさんは、少し休まなくて大丈夫ですか?」
「俺達は大丈夫だ! 走りながら事情を説明してくれ! 行こう!」
「村を突っ切って北のサールから行きます」
アストは今までの経過を村の中を急いで歩きながら話した。
「場所はわかるのか?」
「ケントさんは北の山に向かいました。とにかくそこに向かいます」
キムルがダムダの背中に背負っている矢を見た。
「それだけでは足りなくなるぞ! 持てるだけ矢を持っていけ。 ただし、村を護れるだけの矢は置いて行けよ」
「分かりました、直ぐに北のサールに行きます」
ダムダは数人を呼び、矢を集めに走って行った。
◇◇◇◇
北のサールに入った時、サールの隅の方に一頭のハクがいるのが見えた。
「あのハクは?」
キムルが聞くと、警備隊の顔が曇った。
「ナムルトさんのクラムです。 あそこにナムルトさんの墓があるのですが、誰がいくら呼んでもあそこから動こうとしません」
それを聞いていたツーラが、大きな声で「クラム! 来い!」と声をかけた。 するとクラムはヒョイと顔を上げ、トコトコと歩いて来てツーラの前にチョコンと座った。
「俺達がいくら呼んでも、来なかったのに······」
「クラムは俺が飼う。 いいな」
「も···もちろんです。 ナムルトさんも喜びます」
「よし」
ツーラはタムから降り、クラムの前に膝を着いた。
「クラム。 これからは俺がお前の主人だ。 わかるな······俺について来い」
頭を撫ぜるとそれを理解出来たのか、クラムは嬉しそうに尾を振り、ツーラの顔を舐めた。
その時、ダムダ達が矢筒を二本ずつ抱えてサールに駆け込んできた。
「クラム? なぜクラムがツーラさんの前に?」
「なぜだかわからないですが、ツーラさんが新しい飼い主になったようです」
警備隊が嬉しそうに言う。 ダムダは信じられないという風にキムルの顔を見ると、キムルは頷いた。
「きっとナムルトのボスはツーラだと認識していたのだろう。 ツーラが呼ぶと素直に来たよ」
「それは良かった! きっとナムルトも喜んでいます」
「いいか! 出発!」
準備が整い、ガルヤの声に一斉に走り出した。
◇◇◇◇
しばらく走ると、ハク達が一斉に立ち止まった。
ついてこないハク達にみんなが戸惑い、呼び寄せようとした時、ハクの遠吠えが聞こえた。
ハク達もその声に応え、遠吠えを始めたかと思った途端、一斉に猛スピードで走り出した。
「アンだ! ケントが助けを求めているんだ! 急げ! ハクに置いていかれるなよ!」
全員タムをおもいっきり蹴り上げ、猛スピードでハクを追った。
◇◇◇◇◇◇◇
俺は木の上を逃げるモルドを追いかけていた。
しばらく走ると森が切れ、開けた場所に出た。
その広場の奥は山になっていて高い崖がそびえ立っている。 その崖の中腹辺りに段差があり、そこに巨大なモルドが立っていたのだ。
「いた! デカイ!! キング○ングかよ!」
しかし巨大モルドに辿り着くには、まだこんなにいたのかと思うほどの、数百を超えるモルドが広場内にひしめいている。 そしてそのモルドたちは一斉に俺に視線を向けた。
ちょっと焦る。
その時、先程の戦いを終えたハク達が、後ろから俺を追い越して広場にいるモルドたちに襲いかかっていく。 そしてアンもハク達と一緒に広場に走って行った。
俺は一瞬気が緩んでしまっていた。
広場にいるモルドが全てだと思っていたのだ。 しかし木の上で気配を殺し、様子を窺っていたモルド達が一斉に俺に向かって襲いかかって来た。
不意を突かれた俺は手首に咬みつかれた。 剣を持つ手が危険だと判断したのだろう。 防具が分かっているように、防具の切れ目を集中的に狙ってくる。
咬みつくモルドを振り払い、何頭か仕留めたが、先程の比ではない。 凄い数のモルド達息つく暇もなく四方から飛び掛かってくるのだ。
俺は剣を持ち直し、群がるモルドに応戦したが、今度は何頭ものモルドが腕に咬みついてきた。 斬り払おうとしたが、自分の血で剣が滑る。
反対の剣で斬り、再び向かってくるモルドに剣を向けようとした時、上から声がした。 見上げると大きく口を開けたモルドが飛びかかって来たのだ。
あわてて剣を上に突き出すと、自ら俺の剣の上に落ちてきて体を貫いた。 しかし剣が貫いているにも関わらず、俺の腕を掴んで動きを止めてきた。
その隙に横のモルドが俺の首を狙って飛び掛かって来た。
身動き出来ない俺は「やられる!」と思った。 しかしそのモルドの口は俺に届かず、ドサッと下に落ちた。 そして俺に群がるモルド達が次々に倒れていく。
見ると倒れたモルドには矢が刺さっている。 後ろを振り返ると、キムルとダムダが次々に矢を放っていた。
「ケントさん! 大丈夫ですか?」
アストが槍を振り回してモルドを払い、タムで踏みつけながら走って来た。
「来てくれたか。 助かった」
後ろから来たガルヤが怒りの表情をしている。
「お前は、また勝手な事をしやがって!」
「すまん! 予定外だった。 モルドを甘く見ていた。 あいつら頭を使って攻撃してくる」
「思った以上に数が多いし、あいつも想像以上にデカイな」
ガルヤは崖の上の巨大モルドを顎で指した。
「思った以上にモルドは賢い。 心して戦え」
「もちろんだ。 しかしお前、ケガは大丈夫か?! 血まみれだぞ」
「アドレナリンが出ているのか、今は痛みを感じないから大丈夫だ」
「あど······なんだ?」
「大丈夫って事だ。 それより巨大モルドの所に行きたい。 援護してくれ」
「任せろ! みんな、ケントを援護する! 崖まで道を作るぞ!」
広場の中ではハクとモルドの死闘が繰り広げられていた。 モルドの死体と共にハクの死体もそこら中に散らばっている。
「みんな、頑張ってくれ。 ボスさえ倒せば······」
俺はつぶやいた。
ガルヤ達が間に合って良かった!
( ´;゜;∀;゜;)




