40話 モルドとの戦い
40話 モルドとの戦い
村の入口にいた警備隊にネッドを預けてから、村長の家まで急いだ。
「入ります!」
声をかけるとアストが飛んできて、片膝を付いて挨拶をした。
「来ていただいて、ありがとうございます。 皆さん集まっておいでです」
「いつでも呼べと、言っただろう」
アストの腕を軽く叩き、中に入ると俺を見て全員が立ち上がった。
腕に包帯を巻いたサムトとダムダをはじめ、いつもの主だった面々が顔をそろえていた。
「ケント殿、こんな形でまたすぐにお会いする事になるとは思ってもいませんでした。 申し訳ありませんが、お力をお貸しください」
「はい、そのつもりで来ました。 後からガルヤ達も来ます。 ところでサムリクさんの容体は?」
「父は奥で休んでいます。 危険な状態は脱したようですが、まだまだ予断を許しません」
「そうですか······まずは、状況を説明していただけますか?」
それなら私がと、アストが前に出た。
アストは村にモルドが来始めた時から、ナムルトが巨大モルドを攻撃したが返り討ちにあって殺されてしまった事など全て話した。
「そうか······ナムルトは勇敢だったな······」
「彼のおかげで巨大モルドが逃げて行きました。 しかし······俺が側にいながら······申し訳ありません」
「アストさんが謝る事はないです。 ところで、モルド達はどの辺りに潜んでいるかわかりますか?」
アストは地図を持って来て広げた。
「イルム山がここで、あの石があったのがここです。 しかし、この山でモルドは見ませんでした」
「巨大モルドは、どっちの方向に逃げていったんだ?」
「北です」
「北となると、この辺りの山か?」
すると、ダムダが横から地図を指差した。
「この山は木が少なく小さな山ですから、いるとすればもう一つ奥のこの山の可能性の方が高いです」
「そうか······」
考えているだけでは埒が明かない。 とにかくこの目で確かめる必要がある。
「とにかく行って来る」と俺が立ち上がると、アストとダムダも立ち上がった。
「俺達も行きます」
「いや······モルドの住処を探るだけだから、僕とアンだけの方が見つからずにこっそりと探せます。 アストさん達は僕と入れ違いにモルド襲撃がないとも限らないので村を守ってください。
この距離なら昼前には戻れると思います。 夕方にはガルヤ達も到着するはずです。
もしそれまでに僕が戻らなければ、ガルヤ達と来てください。 お願いします」
「······わかりました。 絶対に無茶しないで下さいよ。 必ず一度、戻って下さいよ」
「わかっています。 ハクの群は連れていかないつもりだから、いくらなんでも僕一人で数百頭の群相手に戦わないですよ」
「ハクの群も来ているんですか?」
「ああ、もちろん。 また増えて百頭以上いるのでモルドに対抗できると思います。 そうだ、何か巨大モルドの臭いの付いた物はないですか? アンに臭いを追わせてみます」
「それなら、俺の槍に巨大モルドの血が付いています」
俺はアンに臭いをかがせた。
「アン、わかるか? この臭いを探せ」
村長の家を出てアストの家の前辺りで「ここで、ナムルトがやられました」と、道の脇の木を指差した。 そこには花が沢山添えられている。
俺はその場所に向かって黙祷をした。
その時、アンが俺に向かって一声吠えた。
「アンが臭いを見つけたようだ、行って来ます。 アン、行こう!」
アストは俺とアンが走っていく後ろ姿を、心配そうにじっと見つめていた。
「······本当に、無茶しないで下さいよ······」
◇◇◇◇
アンは北のサールから森に入った。
やはり一つ目の山は通り過ぎ、その先の山に入ってゆく。
ここは大きな木が生い茂り薄暗かったが、所々に差し込む太陽の光がカラフルな草木を照らし、幻想的な風景を醸し出していた。
しかし途中で巨大モルドは木に登ったのか、アンが臭いを見失った。
周りを警戒しながら森の奥へと入っていく。 しかし、モルドどころか動物の気配がまるでなく、森の中はしんと静まり返っていて嫌な予感が戻れと言っている。
気付けば俺達はずいぶん森の奥深くまで入り込んでしまっていた。
「まずいな······一旦引き揚げよう」
戻ろうとした時、アンが上を見たので釣られて上を見上げると、何かが落ちてきた。
ドスッ! と、俺のすぐ近くに落ちてきた物は、大きな石だった。
「石?」
再び上を見ると生い茂った葉と思っていた物がザワザワと動きだした。
葉と言えば緑と言う常識にとらわれている自分に気が付いた。 この世界では緑色の葉の方が珍しく、緑色と言えばモルドだと思う必要があったのだ。
「まずい! いつの間にか囲まれていた!」
今度はモルドが次々に石を投げてきた。 雨のように降ってくる石の幾つかが俺達に直撃する。
ジャンプして木に登ると、ザザッ! とモルド達は散っていくが、アンが取り残されて俺を見上げている。
「森の中では分が悪い」
飛び降りて走り出すと、周りの木の上をモルド達が追いかけてくる。
モルドは全身緑色の長い毛に覆われていて、足先と顔だけが真っ赤で怒っているようにも見える。
確かよく似た猿をテレビで見たな······
ふと気配を感じて上を見ると、一頭のモルドが飛びかかって来るところだった。 俺はそいつを剣で薙ぎ払い、再び走り出したが、その一頭をきっかけに次々と飛びかかって来た。
剣で払い、蹴り上げ、アンに襲いかかるモルドを殴り、掴んで放り投げた。 再びアンに飛び乗るモルドを掴もうとした時、上から別のモルドに飛びつかれて肩を咬まれた。
俺はナイフを抜いてモルドに突き刺した。
一瞬モルドの攻撃が止んだので俺とアンは走った。 森は上からの攻撃が来るので不利だ。
少し先に光が差し込んでいる場所がある。 森が切れているのだ。
迷わず森の途切れたところに飛び出すと、そこは小さな広場になっている。 しかしその先は崖になっていて行き止まりだった。
「クソッ! 崖かよ!」
俺達は崖を背に森に向き直った。 森からは続々とモルドが現れ、完全に退路を断たれている。
「本当はお前達を殺したくはない。 ボスさえ倒せばおとなしく山に帰っていくだろうからな。 しかしこうなってしまった以上そうも言っていられない。 来るなら来い!」
俺は剣を二本とも抜いて両手で構えた。
無数とも思えるモルドは、遠巻きに俺達を取り囲む。 しばらく睨み合っていたが、じりじりと迫って来た。
その時、ウオォォォッ~! と、アンが遠吠えをした。 仲間を呼んでいるのだ。
「アン、いいぞ。 みんなが来るまで踏ん張るぞ」
初めの一頭が飛びかかって来た。 剣を一振りするとそのモルドは簡単に倒れた。
また暫く睨み合っていると、今度は三頭が一度に飛びかかって来た。 それを合図のように次々と襲いかかって来た。
俺は休む間もなく剣を振るい、切り付け、薙ぎ払い、崖の下へ投げ飛ばした。
アンも果敢に闘っていて、身を翻して攻撃をかわし、噛みついては放り投げる。 一匹のモルドにかまっていると、別のモルドの攻撃を受けるからだ。 それでも少しずつ傷が増えていく。
俺達の周りには、累々とモルドの死体の山が出来ていったが、それを踏み台にして休む間もなく襲いかかってくる。
さすがの俺も肩で息をし始めた。
ふと、モルドの動きが止まり、再び睨み合った。
「はぁ、はぁ······きりがない······どれだけいるんだ」
そう思った時「ウオォォォッ~!」と、近くでハクの遠吠えが聞こえた。 すぐにアンが「ウオォォォッ~!」と、その声に応える。
「ハク達が来てくれた! あと少しの我慢だ! つっ!」
一瞬気を緩めた時、横から飛びついてきたモルドに腕を咬まれた。 慌てて引き離し、崖下へ放り投げる。
すぐにモルドに向って剣を構え直したが、モルド達は浮足立っている。 後ろの森でハクとモルドの闘う声が聞こえてきたのである。
「来た! アン! 行くぞ!」
オロオロしているモルドの中に突っ込み、剣で薙ぎ払いながらハク達の声のする方へ急いだ。
少し走ると、サールの中でハクとモルドが入り混じって闘っていた。 一頭のハクに2~3頭のモルドが群がっている。 2対1なら有利に戦える。 あちらこちらに飛び回り、3頭目のモルドを倒していく。
ハク達が優勢になった時に、遠くで「グオォォォッ~!」という咆哮が聞こえた。 その途端、モルド達が一斉に逃げ出した。
「巨大モルドの声か! ボスの所へ案内してくれるぞ! 行くぞ!」
俺は一息ついてから、木の上を逃げていくモルド達の後を追った。
アストが心配する通りになりましたね
(|| ゜Д゜)




