4話 これからここで暮らしていくのか
異世界での新しい生活とはどんなものでしょうね?
4話 これからここで暮らしていくのか
朝になると、ビルビが迎えに来た。 この村を案内してくれるらしい。
村の中は森ほどではないが多くの木が生えているので全てを見渡せない。 しかしかなりの広さがある。
千人弱程の規模の村のようだ。
その広い村の中をビルビと二人で歩いていると、村人が遠巻きにジロジロ見てくる。 俺が珍しいのだろう。
小さいし、腕が2本しかないし、顔の作りが全然違うから、当然と言えば当然だよな。
村の中には所々に石を積み上げた井戸のようなものがあり、よく見るとその中から湧水が出ていた。
その場所をコンコと言うらしい。 もちろん水道などは無いが、水に不自由はしていないのはコンコがあるおかげだろう。
大きなコンコでは、みんなが集まって洗濯をしていた。 また体を洗う専用のコンコなどもある。
そして小さなコンコは至る所にあり、野菜を洗ったり、飲み水に使っていたりしていた。
◇◇◇◇
それぞれの家の裏には、たいてい獣舎がある。 しかし昼間はサールに放牧しているので動物は何もいない。
動物がいなくて残念だというと、初めに来たのとは別の放牧場にしているサールに連れて行ってくれた。
そこには色々な動物がいた。
タムは別の放牧場にいてここにはいないが見たことのない動物がいくつもいた。 牛に似たコム、鹿のようなアミ、飛べない鳥カルコ、山羊のようなチルル、種類は分からないが、毛が長くモコモコのムークなど、他にも色々な家畜を飼っている。
タムは人にはよく懐くが気性が荒く、ハク以外の他の動物と一緒に放牧すると喧嘩をして蹴り殺してしまう事があるから別のサールに置いているのだそうだ。
また、村を抜けた先には畑が広がっていた。 畑は村人がサールを少しずつ開墾して、この広さまで広げたそうだ。 一面青々と葉が茂り、沢山の野菜が作られていて、多くの人が働いている。
ビルビは案内しながら一つずつ丁寧に名前を教えてくれたり、説明をしてくれたりした。
とてもいい子だ!
◇◇◇◇
次の日には、タムとアミの乗り方を習った。
タムは思ったよりスムーズに乗りこなせるようになった。 しかし鹿のようなアミを乗りこなすのは至難の技だ。
アミはもちろん六本足だが体は鹿のようで、頭の上に二本の角が前向きに生えていて、その角に手綱を付けてある。 また尾が特徴的で、体のわりに太く長い。
そしてとても優しい目をした縦縞で薄紫色の美しい毛並みの騎獣だ。
アミはタムに比べると、随分小さい(といっても馬ほどの大きさがある)ので、女性の乗り物らしいが、女性と同じくらいの大きさの俺には、こちらの方が扱いやすい。
それにタムより機敏で足も速いそうだ。 しかし飛び跳ねるような走り方をするので、何度も振り落とされ、乗りこなすのには苦労した。 この世界には鞍というものはないのだ。
だいたい馬にさえ乗った事がない俺が、鞍もないアミを乗りこなそうとすること自体、始めは無謀な事に思えた。 しかし何といっても、スーパー〇ンなみの運動神経とバランス感覚で、直ぐにアミに乗るコツを掴んできた。
ガルヤが二人の仲間を連れて、俺の練習風景を見にきていた。
彼らが事ある毎に声を上げて笑う。 そしてガルヤは4本の腕を組んだまま薄笑いを浮かべていた。
俺は相手にせずにアミに乗る練習をしていたのだが、休憩をしている時にガルヤが近寄ってきた。
「はん! お前みたいな小さいのに、何が出来るんだよ」
そう言って俺の頭を小突く。
何ができると言われても、何の事だか分からない。
とにかく因縁をつけようとしているのだろうが、相手にせずにアミに乗ろうと立ち上がると、またガルヤが小突いて来た。
因縁をつけるガルヤを見兼ねて俺を庇おうとしたビルビを、「引っ込んでろ」とガルヤがつき飛ばした。 それを見た俺はとうとう切れた。
「いいかげんにしろ!」
思わず突き飛ばすと、大きなガルヤが5~6mも吹っ飛んだ。
自分でも自分の強さにちょっと驚いた。
怒ったガルヤが突進してきたがジャンプでかわして蹴りを入れると、ドゥ!と倒れた。 今度は右手二本でパンチを繰り出してきたが、軽くしゃがんで躱しながら腹にもう一発入れるとガルヤはまた吹っ飛び、今度は腹を押さえて動けなくなった。
ビルビが場所を変えようと言うのでガルヤ達を置いてその場を離れたが、その様子を見ていた村人たちが追いかけてきて、次々に膝を付いていく。
強い者が偉いと思っているのか?
それ以来、村の男達の態度が少し変わった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
フォーアームスの村に来て5日が過ぎた。
この日もアミに乗る練習をしていると、村が騒がしい。 行ってみると一人の女性が泣き叫びながら、何かを探していた。
どうやら子供が居なくなったらしい。
とにかく俺も一緒に村の中を捜しまわったが、みつからない。
村の外の森の中に入ったのだろうと思って探しに行こうとすると、ビルビに止められた。
「森の中に歩いて入るのは危険です」
「しかし······」
「獰猛な肉食獣がいるので、武器もなく騎獣にも乗らずに一人で森に入るのは危険です」
その横をガルヤ達がタムに乗って森に入っていった。
数日間みんなで探しまわったが、結局その子供は見つからなかった。 森にいる猛獣に連れ去られたのだろうという事だった。
◇◇◇◇
ある日、ビルビとアミに乗る練習をしていると、昼過ぎにナルビが呼びに来た。
案内されるまま付いて行くと、一つの家に入っていく。
中にはナブグが待っていて俺を手招きする。 広い居間(?)と、奥に二部屋あるこじんまりした良い家だ。 片方の部屋には例のベッドがあり、もう一つの部屋は荷物部屋だそうだ。
「ケント様のために、家を用意させていただきました。 お気に召していただけると嬉しいのですが」
わざわざ俺の為に新しく家を造ってくれたらしい。
壁には装飾もしてあり、新しい綺麗な色の敷物まで敷いてある。
とても嬉しかった。 感激!
「俺の為に?! 凄い! 凄く嬉しいです。 ありがとうございます」
本当に嬉しそうな俺を見て、みんなもとても嬉しそうだ。
本当にこれからここで生活していくのだと思うと、少し淋しいようであり、楽しみでもあった。
そしてナルビが子供のハクを連れてきて、俺に差し出す。 子供と言っても既に柴犬位の大きさだ。
しかしとても可愛い。 俺に抱かれると嬉しそうに尾を振り、顔を舐めてきた。
家で飼っていた愛犬を思い出す。
「この子は俺が飼ってもいいのですか?」
「今までずっと練習に使われていたアミも差し上げます。 ハクは家畜の護衛として役に立つと思います」
これも本当に嬉しかった。 大感激!!
アミ用の獣舎も家の裏に用意してあった。
ハクは慣れるまでの間は、家畜の近くに繋いでおくのだそうだ。 そうする事で自分が守るべき相手を理解するらしい。
これからはこの2頭が家族だ。
名前を付けようと色々考えたが、アミは妹の名前の真鈴からマリとつけた。
ハクはオスだけど、家で飼っていた犬の名前の杏子からアンと名付けた。
ガルヤをやっつけてしまった( v^-゜)♪




