39話 イルムナック村へ
39話 イルムナック村へ
キムルが戻ってきた。 そしてツーラが数人の警備隊員を連れて入って来たのを見てナブグが口を開いた。
「よし······みんな、落ち着いて聞きなさい。 特にケント殿、話は最後まで聞くのじゃぞ」
俺の焦りが分かっているのだろう。 先に釘をさしておいてから、ナブグはゆっくりと話し始めた。
「クーナの知らせでは、イルムナックがモルドの群に襲われたそうじゃ」
「モルド? あの緑色の?」
「おお、知っておるのか」
「はい。 遠くの方でチラッと見ただけですが」
「普通は人里に下りてくる事さえない動物じゃが、どうやら巨大なボスモルドがいるらしい」
「なんだって?!」
みんなは腰を浮かせた。
「やはりまだいたのか。 それで、みんなは?」
「逸るな。 ボスモルドの大きさは15タール(5m)以上あるそうじゃ」
「15タール?! 化物だな」
「······そのボスモルドに······ナムルト殿が·········殺されたそうじゃ」
「なにっ!」
四人は一斉に立ち上がり、ビルビが口を手で押さえた。
「落ち着きなさい! 他にも十数名の死者が出て、サムリク殿も重傷だそうじゃ。 それでサムト殿がケント殿に助けを求めて来たのじゃ」
「わかりました!」
俺が飛び出して行こうとすると「待ちなさい!」と、ナブグが一喝した。
「最後まで聞きなさいと言ったじゃろう!」
「はい······すみません」
俺は手をグッと握りしめて座った。
「モルドの群は数百頭はいるそうじゃ」
「······数百······」
「ケント殿。 モルドの事は知っておるか?」
「いえ···あまり······知能が高く、二本足で歩けるという事くらいしか······」
私が教えましょうと、動物に詳しいヤンドクが説明をしてくれた。
「モルドは普段は六本足で歩くが、立ち上がると4タール(約120㎝)ほどあります。 知っての通り群を作り、ハクと同じようにボス同士の戦いで他の群を吸収します。
普通、大きくなりすぎた群は幾つかに分裂するものだが、ケント殿が率いるアンの群が百頭近い群になっても分裂しないのと同様、特別に強いボスの群はどんどん数を増やしていきます」
「では、そのボスをやれば群は分裂するのですね」
「はい、その筈です。 しかし同種同士の時とは違い、異種同士だとボスだけと闘える訳ではありません。 数百頭の群全体が攻撃してくるのです。 数が多いうえに賢い動物です。 心してかからないとやられますよ」
「はい。 気を付けます。 あの······ハクとモルドでは、どちらが強いですか?」
「実際に闘っている所を見た事はありませんが、一対一なら断然ハクが強いと思います。 サイズで言えば2~3頭対ハク1頭で対等というところかもしれません。 しかし確かな事はわかりません。 それに頭のいい動物ですから······」
「わかりました。 今日、またアンの群が増えました。 こちらにも百を超えるハクがいます。 ボスと対峙する事さえできれば、必ず倒して見せます」
「くれぐれも油断しないように」
「はい。 では行ってきます」
俺が立ち上がると、ガルヤ達も立ち上がった。 それを見て俺は三人を制した。
「今回は僕だけで大丈夫だ。 ハクがいるからな」
「何を言っている! 俺達も行くぞ!」
「いや、敵の数が多い。 みんなを守りきれない」
「お前に守ってもらおうなんて思っちゃいない!! 自分の身は自分で守れる!」
「しかし!」
俺がそう言うと、ツーラが目の前にツッと来て、バキッ!と、いきなり俺を殴った。
飛ばされ転がった俺に向かって、ツーラが怒鳴る。
「ナムルトの仇は俺が取る! それに、これはイルムナックだけの問題じゃない。 そいつらがターンナックに来ない保証はない! お前一人でカッコをつけるな!」
驚いてツーラを見つめていたが、目が覚めた。 俺はゆっくりと起き上がった。
「すまない。 そうだな······そうだった」
「わかってくれれば、いい。 行くぞ」
「ああ。 だが僕はハクを連れて先に行く」
「ケント!」
「いやそうじゃない。 みんなが来るまでにモルドの根城を探っておくだけだ。
山は広い。 位置を把握しておいた方がいいだろう」
「そうか······わかった。 気を付けろよ」
「じゃあ、先に行く」
俺が出ようとすると、奥からビルビが出て来て呼びとめた。
「ちょっと待ってケントさん! これ······」
俺達がイルムナックに行くと聞いて、ビルビは携帯食と水を急いで用意してくれたのだった。
「三日分用意しておいたわ。 傷薬も入っているわ······必ず戻って来てね」
「ああ、もちろんだ。 ありがとう」
それだけ言うと、俺は飛び出した。
ビルビはあなた達の分と言って、ガルヤ達にも携帯食と水を渡した。
「ガルヤさん、気をつけて······」
「おう! 大丈夫だ、直ぐ戻る。 キムル、ツーラ、行くぞ」
キムルが横にいた警備隊員に向かって言った。
「矢をありったけ集めてきてくれ。 かなりの数が必要になると思うから、村中からかき集めるぞ」
「よし!」
みんなが外に出ると、警備隊数名が不安そうに村長の家の前で待っていた。
「隊長! 何かあったのですか?」
「イルムナックに巨大モルドが出て、沢山の犠牲者が出たらしい。 俺達は今からイルムナックに行って来る」
「き···巨大モルド?······俺達も行きます! 連れて行って下さい! イルムナックには友達になった奴がいます。 お願いします!」
「危険だぞ」
「わかっています!」
ガルヤが、キムルとツーラの顔を見ると、二人は頷いた。
「よし! では出発準備をしてくれ。 出来るだけ急げ!」
「はい!」
◇◇◇◇
サールに行くと、先ほどの警備隊員以外に十数名の者達が矢を抱えて集まっていた。
彼らの殆どは、先日のイルムナックへの商隊のメンバーだった。
「キムルさん。 俺達も連れていってください!」
「いいだろう。 準備は出来ているか?」
「はい!」
食料を持った警備隊と、ガルヤとツーラがサールに入って来て、すぐに出発することになった。
「遅れる奴は置いていく! 出発!」
村を出て走り出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺はネッドに跨り、走り出した。 村から出るとすぐに、アンが「ワォォォォォゥ~~!!」と遠吠えを始めた。 すると、遠くの方で沢山の遠吠えが返って来た。
どうやら仲間を呼んだようだ。
暫く走っていると、ハクたちが追いついてきた。 百頭もいると、以前のように気配だけではすまない。 ネッドの前や後ろについて走り、森の中の低木をなぎ倒しながらついてくる。
俺はネッドを休みなく走らせた。 時にはネッドから降りて自分の足で走って騎獣の負担を減らした
この世界では、チートな力を得ているせいか、それとも酸素濃度が濃いのか、いくら走っても疲れる事は無かった。 そしてハクはスピードと持久力を持ち合わせた動物だ。 それにアミであるネッドも長距離を走る事を得意としている。
俺はネッドとアンの様子を見ながら夜の間も走り続けた。
◇◇◇◇
朝方、湖が見えたのでそこで休憩を取った。 ハク達が湖畔にズラリと並んで水を飲んでいる。
これだけのハクが並ぶと壮観だ。 湖に黒い縁取りがされているようになっている。
その黒い縁取りの間にネッドが割り込んで水を飲んでいるのは、何とも不思議な光景だった。
俺はミルを口に入れて少し横になった。
イルムナック村に到着する前に体力を使い果たしてしまう訳にはいかない。 逸る気持ちを押さえて仮眠を取ってからまた走り始めた。
そうやって水場を見つけては休憩を取り、それ以外は走り続け、ターンナックを出てから2日目の朝方、イルムナック村に到着した。
巨大な群れになったハクと共にイルムナック村に急ぐ!
ケント一人で突っ走らなければいいのですが······
(;゜0゜)




