38話 イルムナック村からのSOS
38話 イルムナック村からのSOS
ナムルトを抱いて離れないダムダの周りに、残った村人達が集まった。
「ケガをしている方は先に手当てを。 ケガのない人はすみませんが、ナムルトを北のサールに運んであげて下さい」
「任せて下さい」と数人が歩み出てナムルトを運ぼうと手を出したが、ダムダが放そうとしない。
アストはダムダの肩に手を置き、優しく声をかけた。
「ダムダ、離してやれ。 北のサールに運んでもらおう」
ダムダは聞こえていないのか、動こうとしなかった。
「ダムダ! お前も警備隊だろう! しっかりしろ! しなければいけない事は山積みなんだ!」
怒鳴られてハッとしたダムダは、アストの顔を見上げた。
「ナムルトに笑われないように、彼の分まで動こう」
ダムダはそっとナムルトを下に降ろして立ち上がった。
数人の村人に抱えられて運ばれていくナムルトと、その後をついていくクラムをダムダは見つめた。
「ダムダ·········大丈夫か?」
「はい」
「俺はサムトさんの所に行く。 お前はケガ人の手当てに回れ。 俺の家から薬草を持っていけ。 落ち着いたら北のサールに来い。 わかったな」
「はい」
ダムダはトボトボとアストの家に入っていった。
◇◇◇◇
アストはすぐ先のサムトの家に行ったが、誰もいなかった。 それで村人のケガを見ながら村の中を歩いていると、サムトがケガ人の手当てをしているのが見えた。
近付くと、サムトも肩から血を流している。
「サムトさんケガを······」
「俺は大丈夫だ。 こっちを先に見てやってくれ」
「わかりました。 村長は?」
「親父も止める間もなく槍を持って家を飛び出した。 どこにいるのかわからない」
「あの体で?!」
このところ寝たり起きたりを繰り返していて、見るからに辛そうだったのに、あんな体でモルドと戦いにいったのか?
村長の若い頃は猛者として名を馳せていたと聞く。 村を襲撃されてじっとしていられなかったのだろう。
そこに一人の女性が走って来た。
「あっ! サムトさん! サムリクさんが酷いケガなの! 来て下さい!」
「親父が? どこですか?!!」
サムトはその女性と走って行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の夜、北のサールで葬儀が行われた。
死者十八名、ケガ人は数知れなかった。 サムリクも家で生死の境を彷徨っている。
ナムルトを含む死者を乗せた櫓に次々と火が放たれていく。 十八個の炎が美しい星空の中へ吸い込まれていくように立ち上り始め、夜のサールを昼間のように明るくしていった。
サムト、アスト、ダムダは言葉もなく、じっとその光景を見つめる事しかできなかった。
◇◇◇◇
太陽が昇り始め、朝日が村中を照らし始めた頃、北のサールにあるこの村の墓地に次々と骨が埋められていった。
埋葬が終わるとすぐに村長の家に村の主だった者達が集まった。
しかし、誰も口を開こうとしない。
その時、アストが立ち上がり頭を下げた。
「みなさん、すみません。 何も出来ませんでした」
「いや······アスト君。 君でなくても何も出来ないさ。 これからどうすればいいのかを考えよう」
「そうだ。 君には責任はない。 まだあんな化物がいたなんて······」
「あの化物にあの数だ。 また襲って来られてもどうする事も出来ない······」
再び座り込んで項垂れるアストが「ケントさんがいてくれたら······」と、呟いた。 それを聞いたサムトが立ち上った。
「そうだ! ケントさんなら何かいい考えがあるかもしれない! 彼を呼びましょう! みなさん、いいですね?」
「それがいい! 彼なら何とかしてくれるかもしれない」
「そうだ! それがいい!」
「彼は腕を失くした神。 我等ボルナック族の伝説の守護神だ」
「ああ、そうだ。 彼に賭けてみるしかない」
急いでクーナが飛ばされた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ここはターンナックの近くの湖の畔。 昼を少し過ぎた頃、まぶしい太陽の元、俺はいつもの木陰で横になっていた。
イルムナックから戻ってから毎日、散歩という名のトレーニングを始めた。 チートな力を授かってはいるが、それに甘えてばかりはいられない。
仕事はもちろんターンナックの警備だ。 隊長になってくれというのを、断固として断った。 隊長と言えばガルヤだ。 余所者の俺に務まるわけがない。
······と言うのは口実で、仕事が増えるのは面倒くさい。 こうしてアンとネッドの散歩をしないといけないし、どんどん膨らんでいくハクの大群の餌も確保しなければならない。
ハクたちのエサ取りに遠征したときに、他のハクの群れと出会う事がある。
しかし例のごとくアンとボスが対峙しても、あっけなくボスが降参し、気付くとアンの群は百頭を超える巨大な群になってしまっていた。
横になったまま空を見上げると、二つの太陽の光が生い茂った葉の間からチロチロと漏れ、目をくすぐった。
気持ちよくなり瞼の重みに耐えかねてウトウトし始めた時、ハク達が一斉に立ち上がった。
「?······どうした?」
ハクが見る方に目をやると、キムルが飼っているカムナが走って来た。 そしてその後ろからタムに乗ったキムルが走って来た。
「ああ、ケントさん。 やっぱりここにいた」
「どうした? 何かあったのか?」
「イルムナックからクーナが来ました。 詳しい事は聞いていませんが、大変な事が起こっているようです。 急いでケントを呼ぶように村長に言われました」
「イルムナックに? わかった! 帰ろう!」
何だかとても嫌な予感がした。 きっとまた巨大生物だ。
イルムナック村に残って、最後まで経過を見るべきだった。 とにかくズブグクではない事を祈る。
俺はネッドに跨り村に向かって全速力で走った。
タムより早いネッドは一足先に村に戻った。
「ナブグさん! イルムナックで何があったのですか?!!」
勢い込んで詰め寄る俺に、村長ナブグは「まあ、落ち着きなさい」と、黙り込んだ。
他の者達を待つのだろう。 俺はナブグの横で怒ったような顔をしたガルヤと泣きそうな顔をしたビルビの顔を見比べた。
嫌な予感が膨らんでいく。 ナブグに詰め寄りたいが、まんじりともせず入り口を見つめていて取り付く島もない。
俺は逸る気持ちを落ち着かせようと、胡坐をかいて目を閉じた。
イルムナック村からのSOSだが、ナムルトの事はまだ知らない。
ケントは落ち着いて話を聞けるか?
=(;゜;Д;゜;;)⇒グサッ!!




