34話 ターンナック村への帰路
34話 ターンナック村への帰路
イルムナック村に戻ると、サールの中は多くの人でごった返していた。
狩りに出た者達を待っていた人たちはもちろんだが、明日はターンナックの商隊が帰る日なので、その別れの宴の準備をする者、パオの肉を楽しみに集まった者たちなどで、村人全員がいるのではないかと思えるほどごった返していた。
早速にパオに肉を配り始め、その肉を貰う為に長蛇の列ができている。
そして日が暮れた頃にようやく落ち着き、宴の準備も整った。
パオから助けた一件以降、アストは気付くと俺の横にいる。 もちろん今も横に座っている。
そして黒い石の実験の為にパオ狩りには来ていなかったサムトが、俺の横に座るガルヤの向こう側に座っていた。
キムルの横には彼を師と仰ぐダムダと、ナムルトはもちろんズブグクから助けてもらったツーラにベッタリだ。
このところ体調が優れず寝たり起きたりを繰り返しているイルムナックの村長であるサムリクが、病を押して出席している。
使用人に抱えられて立ち上がった。
「皆さんもご存じのとおり、ケント殿とターンナックの皆さんのおかげで巨大生物発生の原因となる物を特定する事が出来ました。 これでやっと我々は安心して暮らす事が出来ます。
改めて私からもお礼を言わせていただきます。 ありがとうございました」
「いや、まだ特定されたわけでは······」
相変わらず話を聞かないサムリクが俺達の方に向かって頭を下げたので、サール中で「わぁ~!」と歓声が上がり、俺の声はかき消された。
サムリクが手を上げると、歓声が収まる。
「そうして、久しぶりにパオの肉まで取って来ていただき、感謝の限りです。 明日にはターンナックに帰っていかれますが、これからもターンナックの皆さんと友好を深めていきたいと思っております。 本日はささやかながら宴の用意をさせていただきました。 みなさん! 楽しんでいってください!」
そう言い終ると同時に歓声が起こり、宴が始まった。
俺が何かを言いたそうにしているのを見て、サムトがすみませんと言ってきた。
「父はあんな人ですから、許してください。 私が責任をもって経過を観察しますから」
「あの石のせいであればいいのですが······」
「私はケント殿の勘を信じます」
「いやいや、俺の勘なんて······ただもしもあの石が原因だとしたら、これ以上巨大生物が現れないように処分しないといけません」
「そうですよね。 どうしましょう? 埋めてしまいますか? それとも海に捨てるのはどうでしょう?」
「いやいや······あの石には溶けたような跡がありました。 という事は燃やす事が出来るかもしれません」
「燃える?」
「あの箱の中で燃やすことが出来れば一番いいと思います」
「わかりました。 やってみます」
「サムト様、村長がお呼びです」
使用人らしき者が伝えに来たので、サムトは席を立った。 その後ろ姿を見ながら、ガルヤは笑った。
「あいつも大変だな。 あの石頭の親父のせいで」
「でも反面教師で、サムトは良い村長になるだろう」
「はんめ······なんだって?」
「いや、気にするな······それよりアストさん」
「はい」
「巨大生物の脅威は完全に去った訳ではありません」
アストは真顔になった。
「はい」
「あの巣穴がいつできたのかは分かりませんが、すでに他の生物があの石に触れているかもしれません。
それは明日みつかるか、五年後か、それとも本当にもう終わったのか、時が過ぎてみないとわかりません。
アストさん、あなたがイルムナックをしっかり守ってください」
「はい! 任せて下さい」
「しかし何かあった時は遠慮せずに僕を呼ぶように。 クーナを飛ばせば二日で駆け付けます。 必ず呼んでくださいよ」
「はい!」
「そうならない事を祈っていますが······」
「······そうですね······」
◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日、商隊の出発準備が整い、大勢が見送りに来ていた。
いつもなら日が昇ると同時に出発するのだが、昨夜が遅かったため、出発は昼過ぎになってしまった。
商隊責任者のガルーダの合図で隊列はサールから動き出し、村の中を南の出口まで移動して行く。
アストは俺に寄り添っていた。 アストの胸程の身長しかない俺を、ウルウルした目でずっと見降下ろしている。
「一年間会えないなんて淋しいです······」
「何を言っているのですか。 一年なんてあっという間ですよ。 それに昨夜も話しましたが、巨大生物の脅威は完全に去った訳ではありませんので気を引き締めて警備をしてください」
「はい! 任せてください!」
直立不動になっているアストは、失礼だが何だかとっても可愛い。
そうこうしているうちに、村の出口に着いた。
ダムダとナムルトに「アストをしっかりサポートしてやれよ」と、腕を叩く。(肩には手が届かない)
いつまでも手を振る人達を残して、商隊はイルムナックを離れた。
◇◇◇◇
ネッド以外のアミたちは、常に緊張していて可哀そうだったが、猛獣に襲われることはなく、多くのハクに護られての旅は、快適だった。
ターンナック村まで10日の旅だ。
ハクは10日間ほど食べなくても大丈夫だと聞いているが、途中の草原に大型の動物の影が見えたので、俺はハクたちの食事の為に隊列を抜けた。
◇
夜になってから野営している所に戻れた。
「戻ったか。 ほれ、ケントの飯だ」
ガルヤは俺に食事を差し出してくれた。
「ハク達に飯は食わせたか?」
「ああ。 多分、腹いっぱいになったと思う」
「あの草原には何がいたんだ?」
「見た事のない動物だったな。 コムに似ているが、一回り大きくて縦縞のあるやつだった」
「えっ? ゴルか?」
「ゴルって言うのか?」
「草食獣の中でも一番凶暴な奴だ。 向って来なかったか?」
「来た。 おかげで追いかけなくて済んだから、楽に狩れた」
「楽にって······お前······呆れた奴だな」
「パオを一撃で倒す奴だ。 ゴルなど何てことないのだろう」
キムルも呆れた顔で笑っていた。
これからあれだけのハクの面倒を見続けるのは、並大抵の事ではないですね(;゜0゜)




