33話 ガルヤの幸せは俺の幸せ
33話 ガルヤの幸せは俺の幸せ
「みなさん! 解体を始めてください。 じきに後発隊も到着するでしょう。 ターンナックの皆さんは周りの警護をお願いします」
アストがテキパキと指示している。
さすが警備隊長だ。
俺も警護にあたるが、食事を終えたハクたちがポツポツと俺とアンの近くに集まって来た。
口の周りを血まみれにして、お互いを舐めながらキレイにしているハクもいれば、アンに挨拶に来てはとても満足そうに寝転がるハクもいる。
そんなハク達が一斉に顔を上げた。 何かと思えば後発隊の荷車が草原に入って来たのだ。
野生のハクが近づいて行き、後発隊に同行しているハクと挨拶をし合った。 そして恒例の村人の臭い嗅ぎも行われた。
後発隊の責任者はガルドと言う。
「ただ今到着しましたアスト殿。 しかしハクの儀式には閉口しますね。 私はハクが苦手なので緊張しました。
しかし······なぜパオが2頭仕留めてあるのですか? まさか1頭はハクが倒したという事は······ありませんよね?」
ハクはパオとサイズが違いすぎるので、攻撃することはないのが常識だ。
「まあ···ちょっとありまして······」
アストがガルドに事の次第を説明した。
解体と並行して積み込みが開始された。 大きな肉片を油紙で包み、それをまた布で包んで、荷車に積み込んでいく。
荷車が満杯になってきて積み込み作業が終わろうという時、再びハク達が一斉に立ち上がった。
森の中から何かが顔を出している。
「別のハクの群だ!」
ハク達が森に向かって牙を剥いている。 みんなも弓と槍を構えた。
しかし俺は新たに現れたハクに向かって行こうとするアンを見て、みんなを制した。
「待ってください。 アンに任せて下さい」
アンの肩をポン!と叩き「頼んだぞ」と言うと、低く唸っていたアンがゆっくりと森の方に歩いていく。
十数頭の群れがボスらしき一頭を先頭に森から姿を現した。 しかし明らかにそのボスよりアンの方が大きい。
アンと睨みあっているように見えたが、少し様子がおかしい。
牙を剥くこともなく、じっと頭を低くしてアンを見ている。 すると急にボスがアンの前に伏せた。
前にヤンドクが言っていた。
「ハクの群れ同士が出会った時、群れ同士では決して闘わず、ボス同士の戦いで決着がつきます。
この戦いで負ける事は死を意味します。 但し、闘う前に降参すれば、そのまま勝った群の仲間になります。 降参したボスも群諸とも勝った群の下になりますけどね」
新しく来た群のボスはアンに降参したのだ。
ボスは······いやボスだったハクは、体を低くしてアンに挨拶をした。 それをきっかけに、新しいハク達の挨拶が始まった。
これで50頭近い大所帯になってしまった。
再びハク達の挨拶が終わって落ち着いたところで新しく仲間になったハク達が、残っているパオの肉に凄い勢いでむさぶりついていた。
「ケント、どれだけ大きな群れになるんだ?」
「······本当に······どうしよう」
「取り敢えず、今はハクの恩恵に与ろう。 みんな、飯にするぞ!」
肉に群がるハク達を横目に、遅い昼食を取る事になった。 幾つかのグループに分かれ、草むらの中に座り込んでミルを口に運ぶ。
しかし、こんな所で御飯を食べるなんて、本来ならあり得ない事だった。
ただでさえパオの血の臭いで肉食獣が寄ってくるというのに、腰までの高さの草むらの中に座ってしまうと、どこから肉食獣が襲ってくるか分からないからである。
しかし、今は沢山のハクに守られている。
現に二度ほどハクが騒いでいた。 肉食獣を追っ払ってくれたようだ。
草むらに座って食事をしながら、あちらこちらで声高に俺がハクを倒した時の事を話しているのが聞こえた。
俺はガルヤとアストの3人で食事をとっている。 ちなみにキムルはダムダと、ツーラはナムルトと一緒だ。
「ケント。 お前の話でみんな盛り上がっているぞ。 いつもながら人気者だな」
「当然ですよ。 俺なんて目の前で助けてもらっても信じられないのですから」
「参ったな······しかし2頭目の狩りは一緒にしたかったのに、少し残念だった」
「なんだよ、そんなことを考えていたのか? 俺は一撃でパオを倒してみたいぞ」
「それよりガルヤ······ビルビとはどうなった? 告ったのか?」
「エッ?! いや······それは······まあ······」
ガルヤは真っ赤になってしどろもどろになっている。
しかし小声で言ったつもりだが、フォーアームスって耳がいいのか? キムル達とツーラ達まで集まって来た。
「そういえば、ここに来る前にビルビと話をすると言っていたのはどうなった? 返事はもらえたのか?」
「ビルビさんって村長の娘の、あのビルビさんですよね」
キムルの問いにダムダは目(複眼)を剥いて驚く。 アストとナムルトも興味津々でガルヤの次の言葉を待っている。
しかし俺は最後の言葉を聞き逃さなかった。
「まあ······という事は、いい返事をもらったって事か?」
「お······おう」
「「よっしゃ!」」
俺とキムルはガッツポーズだ。 何だかとても嬉しい。 お姉さんのようなビルビと、親友のようなガルヤが幸せになる事が本当に嬉しかった。
しかし、ちょっと疑問が······
「そういえばボルナック族って、結婚とか結婚式とかするのか?」
「けっこんってなんだ?」
「何ていうのかな·········男と女がずっと一緒にいると約束する事だよ」
「あぁ、契の儀式の事か」
「契の儀式っていうのか······」
「村の東の端に大きな岩があるのを知っているか?」
「あの模様が描いてある岩か?」
「それだ。 そこの前で契の儀式をすると、夫婦と認められる」
ガルヤは想像しているのか、にやけた顔を赤らめながら遠くを見つめている。
「そうか···どちらにしても良かったな、おめでとう」
「「「おめでとうございます!」」」
「「おめでとう」」
みんなにお祝いを言われて、とても嬉しそうなガルヤを見て、俺も胸が温かくなった。
良かったですね!!
ガルヤ!おめでとう!(*≧∀≦)人(≧∀≦*)♪




