30話 イルムナックのハク達
30話 イルムナックのハク達
それからの三日間は、何事もなく順調にイルムナック村に到着した。
相変わらずハクの姿は見えなかったが、どうやら彼らはアンがいたとしても村には近付かないようだ。
先ぶれを出していたので、沢山の村人が出迎えに出ていた。 その中から数頭のハクが走って来た。 この村で飼われているハク達だ。
競ってアンに挨拶に来る。 いつものようにアンだけが頭を高く上げている。
ここでもアンがボスのようだ。
現在村長代理を務めているサムトが駆け寄ってきた。
「皆さん、久しぶりです。 今回も犠牲者は無いようですね」
「犠牲者が出るどころか、お仲間が増えたんだ」
「仲間?」
「ああ·········大勢な」
「仲間って、どういう事ですか?」
村の中にある宿泊するサールに着く頃には、野生のハクが仲間になった事の顛末を話し終えていた。
イルムナックのみんなが一様に驚いて顔を見合わせた。
ダムダが大きな目を一層大きくしている。
「キムルさん、そんな事ってあるんですね。 始めて聞きました」
「俺だって信じられないさ。 40頭近くのハクに囲まれた時は生きた心地がしなかったぞ」
「ナムルト、お前の大好きなツーラはハクが苦手だ。 知っていたか? ハクに囲まれた時のこいつの顔は見物だったぞ。 ハッハッハッ」
「そうなんですか?」
「ガルヤ、黙れ!」
ツーラが怒鳴ったので、みんなは大笑いした。
アミやタムの荷車が外され、それぞれのサールに放された。
荷を解いて野営の準備を整え終わった頃には、沢山の御馳走が運び込まれていて、みんなで食事を囲んで雑談が始まった。
巨大生物についてアストが話し始めた。 今はアストが警備隊長をしているそうだが、彼の話に全員が耳をすまして食べるのも忘れて集中している。
カルコに始まりズブグクを倒した話で緊張感が高まり、誰もが固唾をのんで聞き入り、話し終わった時には、誰も言葉を発する者おらず、シンと静まり返っている。
その静けさを俺が破った。
「しかし······カルコや穴虫までいたとなると、他にもいると考えた方がいいな」
「はい、そう思います。 早く原因を突き止めなければ、これからもこういう事が続きます。
色々と探ろうとはしたのですが、何をどう探せばいいのかわからず、今まできてしまいました。 面目ありません。ケントさん、何かいい考えはありませんか?」
「なぁ、野生のカルコは、穴の中に巣を作るのか?」
「カルコ······ですか?」
「そう、カルコだ」
「普段は木の虚や低木の間で眠ります。 ただ······」
「ただ?」
「ただ、確か卵を産むときだけ穴の中に巣を作ったと思います。 それが何か?」
「やはり穴か······」
「何だ? ケント、穴がどうかしたの?」
「考えてみろ、ガルヤ。 もしどこかの巣穴の中に、動物が巨大化する何かがあるとすれば? ズブグク、カルコ、穴虫。 共通しているのは巣穴だ」
「そうか······しかし、巨大化する何かとは何だ? 何か心当たりでもあるのか?」
「分からないが考えられるのは宇宙船だ。 四角い家だったな。 四角い家の下に巣穴があっただろう? もしかすると四角い家に何かが積まれていたのかもしれない」
「調べてみる必要がありそうだな」
「ただ、俺にとっても文明の進化が違いすぎるから、分かるかどうか······」
「とにかく行ってみない事には分かるかどうかも分からんだろう?」
「そうだな」
◇◇◇◇
翌朝、俺たちターンナックの4人と、イルムナックからはアスト、ダムダ、ナムルトと村長代理のサムトを入れて8人と、それぞれのハクを連れて宇宙船まで行く予定だ。 しかしその前にすることがある。
イルムナックのハクとその飼い主全員に集まってもらった。
ターンナックの商隊のハクも入れると30頭近いハクが集まった。 みんながそれぞれ首に防具や首輪やアクセサリーを着けている。
アンの防具を見て自分のハクを主張するように飾り付けるようになったそうだ。
「みなさんは既に聞いていると思いますが、この村の外には野生のハクの群れがいます。 成り行きでアンがその群れのボスになっています。
この先、その野生のハクたちに襲われないために、イルムナックのハクたちも仲間であることを認識される必要があると思います」
ハクの飼い主たちは一様に不安そうだ。
「もちろん絶対大丈夫とは断言できませんが、彼らは俺達も、俺達のハクも受け入れてくれました。
危険が伴いますので強制ではありませんが、仲間になっておいた方がいいと思います」
みんなは顔を突き合わせて相談している。
「噂によると40~50頭の大きな群れらしいぞ」
「もしかしてその群れの中に俺たちを放り込むつもりじゃないのか?」
「でもケント殿が言うのだから大丈夫なのだろう」
「そうだな。 ケント殿が言うのだから大丈夫だろう」
いやいや······大丈夫とは断言できないって言っているのに······
「野生のハクの仲間になれるとは、楽しみですね。 どうすればいいのですか?」
そう言ったのはアストだ。
その一言でみんなの不安は吹き飛んだ。 お互いにボソボソ話していたのがピタリと止み、俺の次の言葉を興味深げに待っている。
「村の外に出ると、野生のハクがボスであるアンを待っていると思います。 みなさんのハクが暴走しないように必ず捕まえておいてください。 サールに行って待てば、野生のハクがアンに挨拶をしに来ると思います。
そしてアンに挨拶を終えると、みなさんとみなさんのハクの臭いをかいでまわります。 それで終わるはずです。
俺がいいと言うまではハクを放さないでください、お願いします」
出発しようとすると、ガルヤとツーラが留守番をすると言ってきた。
「俺たちはハクを飼っていないし、ここでタムとネッドの面倒を見ないといけないだろう?」
などと、もっともらしい事を言っているが、以前にハクに囲まれたのが怖かったのだろう。
「もちろん、ネッドを頼む」
「おう! 任せろ!」
二人は嬉しそうだが、よほど嫌だったのだろう。 キムルも苦笑していた。
という事で、彼らに留守番を頼んで、騎獣に乗らずにハクの首を掴んだまま、村の外のサールまで歩いていく。
途中からイルムナックのハクたちがキョロキョロしだし低く唸りだした。 姿は見えないが、既に野生のハクたちに囲まれているのだろう。
サールに着いた途端、野生のハクたちが森から出てきた。
緊張が走る。
野生のハクは一番にアンに挨拶に来てから、俺やターンナックのハクと人の臭いを確かめた。 その後イルムナックのハクと飼い主の臭いを嗅いでまわっている。
飼い主たちは緊張しているが、イルムナックのハク達は姿勢を低くしてアンに挨拶をする野生のハクを見て、直ぐに自分達の優位を悟り、頭を高くして挨拶に応えている。
一通り挨拶が終わると、野生のハクは森の茂みに入る者もいれば、サールの隅に寝転がる者もいた。
「もう大丈夫です」
俺の声に飼い主たちはハッとして我に返り、大きく息を吐いた。
「こ···これでもう大丈夫なのですか?」
「もうこの群れに襲われることはないと思うぞ」
「わぁ~~緊張しました」
「俺も初めは緊張した」
「ハクは怖い猛獣と体に染みついているのか、大丈夫だと言われても体が硬直しました。 ハ・ハ・ハ」
アストは力なく小声で笑った。
全部で何頭の群れになるのでしょうか?
( ̄0 ̄;)




