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異世界移転するたびに俺が伝説の英雄になる件  作者: 杏子
第一章 人間世界から昆虫世界編
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29話 40頭のハクの群れに襲撃された!

 29話 40頭のハクの群れに襲撃された!




 ここはターンナック村。


 今年も商隊がイルムナック村に向けて出発した。 今回もガルーラが総責任者を務める。 商隊には大抵同じメンバーで組まれるので、ほとんどが顔見知りだった。 ただ今回はタムの荷車を1台増やすので、人も増やして37人だ。 当然俺もアンを連れ、アミのネッドに跨っている。


 そして今年はハクが8頭も同行する。



 今はターンナック村の多くの者がハクを飼っている。 警備の者はもちろんだが、ハクはフォーアームスの子供の面倒もよくみてくれる事がわかった。


 元々群で生活する動物なので仲間意識が強いのだろう。 

 両親が畑仕事をしている間、ハクが子供を守ってくれる。 森に潜むギギなどの気配をいち早く察して吠えたてると、ギギは諦めて森に帰っていく。

 今までに何度もそういう事があり、子供が出来るとハクを飼い始めるという者が増えた。



 商隊にハクがいる事でギギの襲撃は怖くなくなった。 ハクがいち早く気付き吠えたてると、ギギは退散するからである。


 怖いのは野生のハクだ。 ハクはハクを恐れない。 群で攻撃してくるので、ギギのように一頭倒せばいいという訳にもいかず、ある意味一番怖い。



「イルムナックに行く途中にいたハクの群は、2年前に壊滅状態にしたが、そろそろ新しい群が出来あがっている頃だ。 注意しないと」

「ああ、あの時のようにうまくいけばいいのだが」


 ガルヤは顔をしかめた。



 ◇◇◇◇◇



 村を出てから七日が過ぎた。


 イルムナックまでは十日かかる。 それまで二度ほどギギに遭遇したが、ハク達が事前に教えてくれるおかげで事なきを得た。

 その日の昼を過ぎた頃からアンがしきりと鼻を上にあげ、臭いをかぎ始めた。


「ガルヤ、ハクかもしれない。 2年前もこの辺りからハクにつけられていた。 新たにできた群かもしれない」

「そうだな、気を付けよう」



 ◇◇◇◇



 次の日の朝、出発してしばらくしてから、アンが臭いをかぎ始めたかと思うと、低く唸りだした。


「ハクが来るぞ! 走れ!」


 俺が叫ぶ。


 みんなが一斉に走り出した。 しばらくすると左右からアミをめがけてハクが森の茂みの中から飛び出して来た。


 キムルとツーラが弓で仕留め、一頭を護衛が倒した。 俺はネッドのスピードを少し抑え、隊列の中程まで下がった。 するとネッドめがけて二頭のハクが飛び出した。

 一頭を俺が剣で切り捨て、もう一頭をネッドが蹴り上げた。


 急いでサールに飛びこみ、商隊メンバーを荷車で囲んで森との間にタムを並べる。 そしてハクを飼っている者はタムから降りて、ハクの首輪を掴みながら弓を構えた。


「荷車の向こう側に二人行け! 後ろからも来るぞ!」


 二人がタムに乗り、荷車の向こう側に陣取り、弓を構えた。




 俺も片手でアンを掴み、片手で剣を構える。 商隊のハク達も低く唸って今にも飛び出しそうに構えながら森を見つめている。 そして森の中に幾つもの目が光った。


「まだ射るなよ!」


 俺は森に潜むハクの動きに集中した。 なぜか森から出てこようとせずに、ジッとこちらの様子を窺っているように見える。

 すると、大きなハクが一頭、ゆっくり森から出てきた。 そいつはアンに視線をロックして、真っすぐにこちらに向かってくる。

 それに答えるようにアンが一段と激しく唸りながら一歩前に踏み出し、そのまま進もうとする。


「アン?」


 俺はアンを離さないようにしっかり首の防具を握り直したが、それでもアンは前に行こうと足を踏み出そうとしている。



 そういえば以前にヤンドクから聞いた事があった。

 ハクの場合、群同士は闘わずにボスの一騎打ちで勝敗が決まると。 そして負けた群は勝った群の新しい仲間となると。

 アンが勝てば、このハクの群からの攻撃は受けないはずだった。


 しかし、かなり大きなボスハクだ。 もしアンが負ければアンを生かしてはおかないだろう。 それにこの商隊のハクが野生のハクの配下になってしまう。


 ただ、森の中にチラチラ見える野生のハクは、かなり大きな群れに見える。 このまま俺たちが直接ハク達と闘うにはかなりの危険が伴う。



 アンにかけるしかないか······



 俺は思い直し「みんなはハクを離すなよ」と言ってからアンの防具を持つ手を離した。


 アンは自分の役割が分かっているのだ。 仲間のハクのため、俺たちの為に自分のすべき事は何かを教えられなくても悟っている。



 アンは唸りながらゆっくりとそのハクに近付いていく。



 アンとボスは、お互いの位置を移動しながらにらみ合っている。 威嚇しながら相手の様子を覗っているのだ。


 ボスが先に動いた。 アンの首に向かって飛びかかって来たが防具のお陰でうまく喰いつけなかった。 その隙に飛びのいたアンは振り向きざまにボスの腰に咬みつき、すぐに飛びのいた。

 ボスが再び襲いかかって来た。 ボスの口がアンの前足をかすめた。 アンは飛び上がり、ボスを飛び越えると今度は太腿に咬みつき、振り返ったボスはアンの肩口に咬みついた。 お互い咬みついたまま食い千切ろうとゴロゴロと転がる。


 そして離れると再びにらみ合いが始まった。 ボスは後ろ脚を引きずっていて、アンも肩から血を流している。


 今度はアンが先に飛びかかった。 アンがボスに体当たりし、ボスが飛ばされて仰向けになったところに襲いかかり、喉に咬みついた。 起き上がろうともがくボスをアンは前足と中足の四本で抑え込み、喉を離さない。 下でもがくボスの足が何度もアンを引っ掻くが、アンが首を一振りすると、ボスの動きが弱まった。 そしてアンがもう一振りすると、ボスの動きが完全に止まった。


 周りから、「やった!」「よし!」と言う声が聞こえたが、弓は森に向けたままで緊張は解けずにいる。 ボスが死んで他のハクがどう出るのかわからないからである。


 

 アンは野生のハクたちに誇示するようにボスの喉をくわえたまま森の方に向き直った。 自分がボスを倒した事を見せつけ、噛みついているボスを、これ見よがしにドサッと落し、頭を高く上げた。




 しばらくすると、森からゆっくりハク達が出てきた。


「まだ動くなよ!」


 俺も剣をハクに向け、いつでも対応できるように構えたままだ。 ヤンドクさんの言う事が正しい事を祈る。




 森からハクが一頭また一頭と、体を低くしてアンの元へ集まって来た。 ぞろぞろと出てきたハクはかなり大きな群で、30~40頭はいるだろう。


 その時後ろで、わあっ!と言う声が聞こえた。 後ろの森から4頭のハクが出てきたのだ。


「動くな! 大丈夫だ、何もするなよ」


 その4頭のハクはゆっくりと隊員の横を通り、怯えるアミにチラッと目線を向けただけで、こちらに向かって来る。


「道をあけろ!」


 タムを移動させて道を作ると、4頭は悠々とその間を通り抜けてアンの所に行き、挨拶をした。



 これは大丈夫だと確信した。




「ハク達を離してみてくれ」


 俺が言うと、ハクの飼い主達は顔を見合わせたが、言われた通りハクを持つ手を躊躇(ためら)いながらゆっくりと離す。


 カムナ達、商隊のハク達は頭を高く上げ、野生のハク達の元へゆっくりと向った。 どうやら戦いに勝ったアンの群の方が野生のハクの群より上位に立ったようだ。


 野生のハク達がカムナ達に挨拶をしに集まってきた。


 キムルも最初の野生のハクがカムナのもとに来た時までは矢を構えていたが、お互い挨拶を始めたことで、やっと緊張を解くことが出来たようだ。



「もう大丈夫だ、この群れの攻撃はもうないだろう」


 俺がそう言うと、緊張して弓を構えていた者達が弓を降ろしてホッと息をつく。


 ガルヤとツーラがハクたちを刺激しないように、そろりと歩いて寄って来た。


「お前にはいつも驚かされる。野生のハクまで味方につけるとは、前代未聞だぞ」

「アンが凄いんだ。 勝ってくれて良かった」


 俺もフウ~と息を吐いた。


 大きさでは野生のボスとアンの大きさは同じくらいだった。 しかしアンは急所の首に防具を着けていたし、何といっても大きなギギと何度も対決をしているので大丈夫だろうとは思っていたが、正直ハラハラで心臓が飛び出しそうだった。



 自分が戦う方がよっぽどいい······しかし防具を作ってもらっておいて、本当に良かった。

 少しズルイ気もするが、それも実力の内と思う事にした。




 ハク同士の挨拶が終わったようなので、俺はアンを呼び寄せた。


「みんなも呼び寄せてくれ、ハクのボスは人だという事を教えてやろう」



 アンが俺の元に来てすり寄った。


「アン、よくやった! お前は凄いな。 後で傷の手当てをしてやるからな」


 頭を優しく撫ぜてあげた。 すると、アンについて寄って来た野生のハク達は、俺や他の人達の臭いをかぎ始めた。


「こ···今度は何だ?」


 ツーラが固まったまま、小声で聞いてくる。


「臭いを覚えようとしているんだろう。アンの仲間は自分達の仲間だからな」

「じゃあ、俺もハクの仲間か?」

「多分な。 この商隊の者はもうこの群れに襲われる心配は無いと思うぞ」

「それは嬉しいが······ちょっとこれは······」


 ツーラはガチガチに固まって、冷や汗を流している。 どうやらハクが苦手なようだ。



 俺も少し緊張していた。 頭では大丈夫と思っていても、40頭もの野生のハクに囲まれるのは生きた心地がしない。 特に、ほとんどのハクが俺の周りに集まってきたからだ。


 一通り臭いをかぎ終わると、ハク達は少し離れたところで安心したように寝転がった。




 再びあちらこちらから「ふう~」と、ため息がもれた。



 ◇◇◇◇



 隊列を整えてイルムナックに向って動き出すと、野生のハク達もついてくる。

 ハク達は森の中を並走しているようで姿こそ見えないが、ネッド以外のアミ達が怯えて落ち着きが無い。


「ハクがついて来ているな」


 ガルヤが森を見ながらグレッグに小声で言った。


「自分達のボスがここにいるからな。 しかしアミには可哀そうだが、これなら他の肉食獣に襲われる心配が無いから安心して旅ができる」


「野生のハクに護衛してもらっているなんて、誰も信じないぞ」

「まったくだ」









わぁ! アンが40頭の群のボスになっちゃった!(;゜0゜)

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