28話 巨大生物、再び
28話 巨大生物、再び
予定の作業が無事に終わり、塩を荷車に積み込んで出発しようと全員がタムに乗った時だった。
クラムとタルラが唸りだした。 視線の先を見てアストが叫ぶ。
「ズブグクだ!!」
4タールほどの大きさのズブグクがこちらを見ていたが、身を翻して逃げ出した。
「追え! 逃がすな!」
アストが叫び、警備隊が走り出した。
「皆さんも来てください! タムで囲んでください!」
作業員達にそう言って、アストも走り出した。
「タムで囲め! どこに行った!」
「こっちです!」
「どこだ!」
「そっちに行ったぞ!」
「わあっ!」
作業員のタムが棹立ちになった。
「くそっ! タムの足をやられた! そっちに行ったぞ!」
「ダムダ! あっちに回れ! あっ! タルラ! 離れろ!!」
タルラとクラムがズブグクに飛びつこうとしている。
「ナムルト! クラムが危険だ!」
「わぁ!! クラム!! 来い!!」
「ズブグクはどこに行った!」
「ここです! 今、止まっています!」
ガルドが前を見つめながら、手をあげた。
「タムで囲め! 回り込め!」
十八頭ものタムに隙間なく囲まれ、逃げ出す隙を覗いながら、ズブグクは鎌を高く上げて威嚇している。 普通の倍以上の大きさだった。
「石矢だ! 撃て!」
いくつかの石矢が当たり、ふらふらしながらズブグクがナムルトの方に向って行った。
「ナムダ! 俺の腕の敵だ! 踏み潰せ!」
ナムダとは、ナムルトのタムの名前だ。
ふらふらと近付くズブグクの前で棹立ちになったナムダは、全体重をかけてズブグクに向って前足を振り下ろした。
「バキッ!」
「グエッ!」
「やったぞ! ナムルトが仕留めた!」
周りから歓声が上がった。 アストが槍でつついてみたが、頭が完全に潰れて息絶えていた。
「塩袋を一つ、持ってきてください」
アストが作業員に言うと、荷車から袋を持って来てくれた。
ズブグクの鎌は貴重だという事もあるが、このサイズのズブグクを直接サムリクに見せる必要があるので、袋に入れて持って帰るのだ。
作業員たちがズブグクの鎌を縛り、袋に詰めてくれている。
ダムダは袋に入れられていくズブグクを見下ろすアストの横に来て一緒に見下ろした。
「やはり、いましたね」
「いたな······まだ成長途中だったのだろう。 これ以上大きければ、倒すのは難しかったかもしれない」
「そうですね······まだいるのでしょうか」
「いる可能性の方が高そうだな」
袋の中に押し込まれたズブグクを担いで、塩場まで戻った。
◇◇◇◇
タムの足をズブグクに切られた作業員はイザトという。
アストがイザトの所に行くと、イザトがタムの足に薬草を塗っていた。
「よ~し、よし、少し我慢しろよ。 手当てしてやるからな」
「タムの足の具合はどうですか?」
「ああ、アストさん。 ちょっと深いですが、薬草を塗って包帯を巻いておけば、そのうち治るでしょう。 中足なので歩くのにも問題ないと思います」
「申し訳ありません。 あなた方まで巻き込んでしまって」
「とんでもないです!! ズブグクは我々全員にとっての脅威です。 みんなで力を合わせるのは当たり前の事です」
「ありがとうございます。 本当に助かりました」
タムの治療が終わり、塩も十分に採取することが出来た。 そしてズブグクも荷車に積み込むと、村に向かって出発した。
◇◇◇◇
村に到着すると早々に塩の荷ほどきを始めたが、アストはサムリクに報告をしに行くと言って、ダムダ、ナムルトと一緒にズブグクの入った袋を抱えて急いだ。
村長の家の前ではサムトが心配で待っていた。
「ああ······帰って来たか。 良かった、大丈夫だったか?」
走り寄って来たが、アスト達の硬い表情とただならない様子に、サムトは急いで三人を家に招き入れた。 そして急いでサムリクを呼んだ。
「やあ、お帰り。 無事に塩は採れましたかな?」
「はい、塩は予定通り採れたのですが、これを見て下さい」
ズブグクの入った袋を開けて中を見せると、サムリクは驚いて一歩下がり、サムトは乗り出して覗き込んだ。
「ズブグクじゃないか! それも、でかい!」
「はい、このサイズなので作業員の皆さんにも手伝ってもらって、どうにか倒す事ができました。 他にも手のひらサイズの穴虫を見ました」
「なんだと? 手のひらサイズの穴虫? どうなっているんだ」
「わかりません。 例のカルコも見たのですが、一頭はギギにやられて、残りの二頭には逃げられました。 確かに6タール近い大きさでした」
「東の森はどうなっているんだ。 他にはいなかったのか?」
「今のところは······しかし、他にも巨大化した生物がいる可能性は高いです。 これからも定期的に東の森に入って、監視する必要があると思います」
「そうだな、ではアスト責任者として監視を任せる。 今回はご苦労だった。今夜は塩祭りだ。 楽しんでくれ」
「サムリクさん、祭りの時に村の者にこの事をちゃんと知らせるべきだと思います。 東と言わず、森に入る時は充分な装備をしていくようにと」
「わかった。 そうしよう。 そうだ、この大きなズブグクの鎌はアストくん······君が貰いたまえ」
「このズブグクを倒したのはナムルトです。 ですから一本は彼にあげてもよろしいですか?」
「おお! そうか、ナムルトが倒したのか。 よくやった、鎌は君の物だ。 腕の仇が取れたな」
サムリクに言われて、ナムルトは嬉しそうに「はい」と短く答えた。
「もう一本ですが······今回、ズブグクを倒すのを手伝ってくれたイザトさんのタムがズブグクに襲われて、足にケガをしてしまいました。 ですから、イザトさんにあげたいと思うのですが」
「そうだったのか。 イザトのタムは大丈夫なのか?」
「はい、中足を切られましたが、大丈夫です」
「そうか、よかった。 ではイザトにあげよう」
サムト達はズブグクを抱えてサールへ向った。
サムトとサムリクはサールに向う三人の後ろ姿をじっと見つめた。
「お父さん、これは大変です。 今回はまだ小さかったから良かったのですが······」
「ああ·········大変だ」
二人は黙り込んだ。
ズブグクは小さめで良かった(|| ゜Д゜)




