27話 巨大カルコ捜索作戦
27話 巨大カルコ捜索作戦
一つ目の太陽が沈む頃、村の主だった人達がサムリクの家に集まった。
サムトに代わって、アストが事の次第を説明した。
「今回見つかったのはカルコだったのでそれほど脅威ではありませんが、他にもいるのかもしれません。 もしかしたらまだズブグクもいる可能性もあります」
「なぜ巨大化したカルコやズブグクがいるのだと思う?」
集まったうちの一人が聞いてきた。
「わかりません。 東の森に何かが起こっているのは確かだと思うのですが、なぜこんな事が起こるのか想像もつきません」
「そうですな······しかし、どうにかして原因を突き止めないと、これからもこんな脅威にさらされ続ける事になりますからな」
「そろそろイルム山に塩を採りに行かなくてはならないが、東の森に入っても大丈夫なのか?」
「今の時点では何とも言えません」
「アスト、その3頭のカルコは危険ではないのか?」
「それもわかりませんと、言うしかありません。 元々おとなしい動物ですし草食ですから、カルコの方から人を襲う事は無いと思うのですが、一昨年のズブグクのこともありますから何とも言えません」
ターンナックの者から巨大ズブグクが殺しを楽しむようになっていた話しを詳しく聞いていた。
「退治しておいた方がよくないか?」
そう言われたアストはサムトを見た。 それを受けて、サムトが頷く。
「そうですね。 大きくなってもズブグクやギギほどの脅威はありませんが、まだ大きくなる可能性はあります」
「なぜそう言える?」
「前回のズブグクの化け物は、10タールありました。 元々の大きさはカルコも同じ位なので、少なくとも10タールまで成長する可能性があります。 ただ、ズブグクと違って弓も槍も通用するので、倒すのには苦労はしないとは思います」
色々相談し合った結果、とにかく東の森に原因を調べに行く事と、他に巨大生物がいないかを調査する事になった。
そしてカルコを探して倒した方がいいだろうという事で全員の意見が一致した。
◇◇◇◇
翌日、サムトとアスト達。 そして彼らが飼っているハク達に、ガルドとダントを含め、総勢12名で東の森に向かうことになった。
念のため何人かが石矢も装備した。
カルコを見たというサールまで二つ目の太陽が昇る頃には着いた。 途中、大きな動物が動くのが見えたので緊張が走ったが、タムの群だった。
木の上にターガという豹のような動物が寝ているのも見かけた。
「これだけの動物がいるなら、あのズブグクの化け物のような危険な巨大生物はいなさそうだな」
サムトがアストにホッとした表情を見せながら言う。 以前、巨大なズブグクがいた時は、ズブグクを恐れて他の動物が一頭もいなかったからである。
「どのあたりにいたんだ?」
「あの辺りです」
ガルドはサールの左側を差した。
みんなでタムから降りてカルコを見た場所に向かった。 タムを引いて足跡を探したが、下草が多く生えていてなかなか見つからない。
下草をかき分けながら探していると、ガルドが手を上げてアストを呼んだ。
「アストさん! ありました! カルコの足跡です」
ガルドが示す地面を見ると、大きなカルコの足跡があった。 そこには見慣れたカルコの足跡の三倍近くありそうな、大きな足跡があった。
まだこの辺りにいるとは思えないが、とりあえず足跡を辿ってみた。 この辺りのイルム山の麓は、土に塩が含まれているせいか、木がほとんど生えていない。 その代わりに、塩分に強い丈の高い草が多く生えているため、地面の足跡はすぐに分からなくなってしまった。
しばらくこの辺りを見て回った後、イルム山まで足を延ばしてみたが収穫は何もなく、一つ目の太陽が沈んだので帰る事になった。
それからも範囲を広げて探してみたが、カルコは見つける事ができず、巨大化の原因といっても何をどう探せばいいのかもわからず、日にちだけが過ぎていった。
警備隊と言っても、ほとんどの者がそれぞれ自分の仕事を持っているので、こればかりにかかってはいられない。 それからも捜索を続けたが結局何も見つかず、塩を採りに行く事になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
塩採取に行く場合、いつもなら警備の者以外は徒歩で行くのだが、今回は念のため全員がタムに乗っていく事にした。
その為、荷車に乗せる荷の量を減らさなければならず、いつもは2台の荷車で行く所を4台引いていく。 そして警備も増やし、警備の者八名、塩を採る者10名とタムに引かせた荷車4台で、一つ目の太陽が登ると同時に出発した。
アスト、ダムダ、ナムルトはもちろん、ガルドとダントも同行した。 念のために石矢も装備してイルム山に向かった。
荷車があるので走る事は出来ないが、タムに乗っているためギギに襲われる心配はない。 周りを見ながらゆっくり進んでいると、チルルの群が前の方を横切っていった。
それを見てダムダがアストに小声で話しかける。
「チルルの群がいる事がこんなに嬉しかった事はないですよ」
「本当だな。 取りあえず、大きな危険は無いという事だ」
アストはニッコリと笑った。
◇◇◇◇
二つ目の太陽が登る頃、塩場に到着した。 塩を採る者の周りをタムで囲み、警護の者は森に目を配った。
必要量の半分ほどの塩が採れたところで、昼食を取る事になった。
タムに囲まれた中で昼食を食べていると、作業員の一人が「わぁっ!」と声をあげた。
慌てて警護の者達が駆け寄った。
「どうした!」
「こ···これを見て下さい」
作業員が指差した先には穴虫がいた。 ただ、普通の穴虫は小指ほどの大きさの、芋虫ような小さな虫だが、そこにいたのは手のひらほどの大きさはある巨大な穴虫だった。
「何だ、このでかさは! どうなっているんだ、東の森は」
「やっぱり何かありますね」
「ああ······だがなぜなのか、さっぱりわからない」
「そうですね······」
みんな黙り込んでしまった。
「殺しておかなくても、いいのですか? こんな虫でも大きくなると、厄介になりますよ」
「そうだな」
アストが槍で穴虫を突いた。
午後の作業が始まり、警護の者達はタムに乗り周りを警戒していた。
その時急にタルラとクラムが立ち上がり、森を見つめた。
「タルラ、クラムもどうした?」
アストがタルラの見つめる森を見ると、遠くで何かが動いた。
「あれは······何だ?」
ダムダがアスト達の異変に気付き、駆け寄って来た。
「どうかしたのですか?」
「あそこの木陰に······あっ! カルコだ!」
「本当だ! 3頭います」
「3人付いて来い。 4人はここに残れ。 タルラとクラムを押さえていてくれ」
アスト達は弓を構えて、タムに乗ったまま静かにカルコに近付いていった。
カルコ達はこちらに気付かず、草をついばんでいる。 高い草の上から七色の冠羽根がチョコチョコ見え隠れしていた。 あと少しで射程距離というところで「クエ~ッ!」と、カルコの警戒の鳴き声が聞こえ、2頭が慌てて逃げていく。
アストはダムダと顔を似合わせ、カルコがいた所に近付いてみると、ギギがカルコをくわえて押さえこんでいた。
「ギギにやられたか。 戻ろう」
「逃げた2頭を追わなくてもいいのですか?」
「今日は塩を取る者の護衛だ。 これ以上離れられない。 残念だがカルコを狩るのはまたの機会だ」
カルコの逃げていった方を一睨みしてから塩場に戻った。
カルコに穴虫···他にもいそうですね( ̄0 ̄;)




