24話 ズブグクとの死闘
24話 ズブグクとの死闘
数日後、リサドが注文した品を持って訪ねてきた。
その前にも何度かサイズを測ったり、試着したりはしていたのだが、出来上がりを見るのは初めてだった。
装着してみると、シンプルだが動きやすくて着け心地がいい。
防具の強度を上げるために、薄くて硬い石を俺の体の形に合わせて削り、それを硬いコムの皮で挟んで作ってある。
これなら1~2度の攻撃は耐えることが出来るだろう。
「とてもいい出来です。 ありがとうございました。 とても心強いです」
「御武運をお祈りいたしております」
◇◇◇◇◇◇◇◇
そろそろ奴が餌を食べに北のサールに来る頃だ。 アンは獣舎に繋ぎ、マリとトワにも挨拶を済ませて、早朝、身支度を整えてナブグの家に挨拶に行った。
死ぬ気はないが万が一という事がある。 ケジメはつけておきたかった。
ナブグの家に行くと村の主だった者達が待っていた。
「今までありがとうございました。 何としてもズブグクを倒してこの恩は返すつもりにしています」
「ご武運をお祈りいたしております」
一同が頭を下げた。
◇
俺は村の中を歩いて北のサールに向かう。
短めの槍を2本持ち、胸と腹と腰にナイフを装備し、両肩と胸、そして両腕と両足にも防具をつけている。
少し重いが、動きに支障はなかった。
そんな俺を見た村人たちは順に片膝をついて俺を見送ってくれた。
◇
北のサールに近い村の出口のサールに大勢の人たちが待っていた。
当然ガルヤたちもいた。
「帰ってくるのを待っているからな」
「おう」
ガルヤ、キムル、ツーラが小さい俺の背中を叩く。
俺がガルヤに耳を貸すように手招きすると、腰をかがめて俺の顔の前に耳を持ってきた。
「告白したのか?」
「ばっ!! バカ野郎、まだだ」
真っ赤になって動揺しているガルヤの背中をポンポンと叩いた。
当然ビルビも不安そうにしながら俺を待っていた。
「ケントさんの好物を作って待っているわ」
「うん。 俺の家族を頼む」
「もちろんよ」
「じゃあ、行ってくる」
俺は振り向いてみんなに向かって「行ってきます!」と手を振った。 すると全員が片膝をついて見送ってくれた。
◇◇◇◇
北のサールに行くと、アミが真ん中に繋がれている。 その場所から東に向かって今まで生贄になったアミの血の跡が伸びていることから、そちらの方に巣があるのだろう。
とりあえず風下の高い木の上に飛び乗ってズブグクを待った。
二つの太陽が天中高く昇った頃、東側の茂みに動きがあった。
しかし用心しているのかなかなか出てこない。 アミが怯えてキュイキュイ鳴いてこの場から逃れようと暴れている。
やっと顔を出した右目がつぶれたズブグクは、用心深く辺りを見回しながら藪の中から出てきた。
そしてキュイキュイ鳴いて逃げようとするアミの首を躊躇うことなくスパッと斬り落とす。 ドサッと頭が落ち、切り口から血を噴き出している胴体がワンテンポ遅れて崩れ落ちた。
俺はその音に紛れるように木から飛び降りて、下草の中に隠れた。 しかしズブグクは物音に気が付いたのか、顔を上げてこちらを見ている。
生唾を飲み込む音まで聞き取られそうで、俺は息を止めて気配を消した。
そのうちズブグクは視線を外してアミの頭部を口でくわえ、後ろ脚の一本でアミの脚を掴んで引きずりながらサールを出ようとした。
『今だ!』
俺は一本の槍を途中の地面に刺してから一歩でズブグクのすぐ後ろまで飛び、そのまま飛び上がって予め拾っていた大きな石で後頭部を全力で殴った。
石が砕け散りズブグクの動きが止まった。
『いける!』
俺は前に飛び降りて喉を槍で突こうとした。 しかし動きが止まったのはほんの一瞬だけだった。 すぐさま鎌が振り下ろされてきたので慌てて飛び下がったが、反対側の鎌が伸びてきて、俺の左腕をかすめた。
「つっ!」
痛がっている暇はない。 ズブグクは休む間もなく鎌で攻撃してくる。 右に左に上に下に鎌を避けて機会を窺うが、相手は二刀流でこちらは攻撃を避ける事しかできない。
俺に潰された右目側がやはり死角となっている。 なるべくそちらに回りながら観察していると、小さなズブグクでは無理そうだったが、この化け物なら肩関節にナイフが入りそうだと思えた。
『動きは見えている。 うまく隙を作れば攻撃できる』
俺は痛む左手に槍を持ち、腰に装着していたナイフを抜いて右手に持った。
休む間もなく攻撃してくる一瞬の隙を縫って足の後ろ側に隠れた。 ズブグクは俺を見失い逆側に視線を向けた時、飛び上がって右肩関節の隙間に付け根までナイフを突き刺した。
「ギュエェェェッ!!」
ナイフを刺すことが出来て一瞬油断した。 叫びながら振り下ろしてきた鎌がもう目の前に来ていた。
『間に合わない!!』
俺は左腕で鎌を受けた。
ガキッ!! バキッ!
腕に激痛が走る。 しかし腕はまだついていた。 きっと防具に挟んである石が割れたのだろうが、多分腕も折れているだろう。 腕をやられたと同時に槍も飛んで行った。
腕は痛いがまだ動ける。
しかしズブグクは図体がデカイわりに動きが素早くて隙がない。 何とか動きを止めたい。
『そういえば、足の関節にもナイフが入りそうだった』
足にナイフを刺すことが出来れば動きが鈍るだろう。
先ほどと同じように死角を利用して足の後ろ側に入り込めた。
『やった!』
足の関節にナイフを刺そうと思ったとき、ズブグクが一回転して短くて太い尾を俺に叩きつけた。
「グワッ!!」
俺は吹き飛ばされてサールの端の方まで飛ばされたのだ。 しかし丁度目の前に、先に刺して置いてあった槍がある。
それを掴んで木の陰に隠れた。
「ウウッ······ヤバい······肋骨をやられたか。 早く決着をつけないと」
息をするもの痛い。
ズブグクは木の裏にいる俺に向かって鎌を振って来た。 しかし俺はズブグクが鎌を振ってくる木を挟んで反対側から飛び上がって急所の喉に向かって槍を突き上げたのだ。
「ギュエェェェ~~ッ!!」
ズブグクは仰向けになって悶えている。 俺は飛ばされたもう一本の槍の所に飛び、その槍を腹の急所に向かって突き刺した。
「ギググググッ······」
やっと動かなくなった。
俺は用心深く近寄ったがまだ息がある。 喉の急所の刺さりが甘い。
ズブグクの上に飛び乗り、喉に刺さっている槍を一度引き抜き、再び付け根までドスッと突き刺した。
その時、意識してなのか痙攣していたのか、鎌が俺の方に向かってきた。 しかし痛みで素早く動くことが出来ない。 ザッ!と腰の辺りを斬られてズブグクから転げ落ちてしまった。
地面に叩きつけられた俺はもう指を動かす事も出来ない。 これ以上の攻撃は出来ないし、ズブグクがまだ生きていれば、俺は簡単に殺されるだろう。
地面に仰向けに寝転がったまま見上げていたが、ズブグクが呼吸をしている気配はなく、完全に仕留めることが出来たと確信した。
『やったぞ! 父さん! 母さん! 真鈴! 夢子さん!······俺は······やったぞ·············』
俺は暗闇の中に沈んでいった。
ズブグクを倒す事はできたが、ボロボロになってしまった(´д`|||)




