23話 巨大ズブグクとの直接対決
23話 巨大ズブグクとの直接対決
夜、ガルヤ達に俺の家に来てもらった。
「このままではだめだ。 どうにかしないといけない。 奴は殺しを楽しむようになってしまったようだ。 まだまだ続くぞ」
「何か考えがあるのか?」
「ズブグクを近くで見てみたい」
「何を言い出すんだ。 今の奴は危険だ! それは無理だ」
「いや、本来の大きさのズブグクだ。 俺はズブグクの事を何も知らないし、まともに見たことさえない。 もっと敵の事を知る必要がある」
「そ···そうか、それなら可能だ。 じゃあさっそく明日行こう。 確か東の森に巣があったはずだ」
「巣の在処を知っているのか?」
そうだとガルヤが答え、ツーラが話を続けた。
「俺達が巣の主を殺しても次の年には別の奴がそこに巣くっているから、今も多分いるだろう。 お前と初めて出会った海の少し手前を南に行った岩山の麓にある。 一日がかりになるから、明日朝早くに出発しよう」
そう言って、三人は帰って行った。
◇◇◇◇
早朝、俺達は東の森へ向って出発した。
途中、左手に高く長い崖が見えた。 少し先に崖がぱっくり割れている所がある。 その間を通って2時間ほど走ってサールに出た。
「ここから南に行く道を通ってすぐだ」
ガルヤが道を指差した。 その道をしばらく行くと岩山に着いた。
岩山の麓に50㎝ほどの穴が開いている所があった。 それがズブグクの巣穴らしい。
ツーラが穴の出口の周り1m四方を枯れ木で囲った。
「こうやっておくと、穴から飛び出してきたズブグクの動きが一瞬止まる。 動きが速いので、こうしておかないとあっという間に逃げられる」
ツーラが穴の横に行き、穴の中に槍を突っ込むと、奥でカキンという音が聞こえた。 ズブグクの鎌の音だ。
「いくぞ」
もう一度槍で一突きすると、ズブグクが飛び出して来た。
柵の手前で一瞬止まったズブグクの後頭部をツーラが槍の後ろで殴った。
グェ!と鳴いてズブグクが倒れる。 そしてもう一度殴ると、完全に動かなくなった。
20㎝ほどの鎌を持ったアルマジロに似た黒っぽい動物だった。 全身蛇のような堅い鱗で覆われていて、触ってみるとヌルヌルしている。
「それは奴の体液だ。 攻撃を受けると更にヌルヌルした体液を出す」
「体液で覆われているのか」
「ああ、そのせいで捕まえようとしても滑るから、生きたままでは捕まえるのが難しい」
「そうなのか」
俺は色々な所を触ってみた。
急所だという後頭部や、鱗のつなぎ目の関節なども念入りに調べる。
どこもとても堅いが、ひっくり返して触ってみると、喉と腹のあたりに少し柔らかい所があった。
「喉の付け根辺りは柔らかいが、こいつは上を向く事がないし、鎌があるので攻撃が出来ない。 そして下の方は肛門だ。 さすがにそこまでは鱗は付いてないな」
ガルヤが笑った。
それからも、しばらく色々な所を触ったり、動かしたりしてみた。
先ほどの2か所と目以外は鱗に覆われている。 関節の隙間にナイフが入らないかと試してみた。 入らなくはないが、かなり厳しく、どちらにしても致命傷を与えることは出来ないだろう。
攻撃するなら喉か目しかないな······
「もう充分だ、ありがとう」
俺が離れたので、ツーラが袋を取り出してその中にズブグクを入れた。
「こいつは貴重だから、持って帰る」
そう言って、ニッと笑った。
◇◇◇◇
ある日、村の中を巡回していると、アンが急に走り出した。
「やつか?」と思いながら付いて行くと、サールの先でズブグクが今にもマリに襲いかかろうとしていた。
「マリ!! 危ない!」
俺はスピードを上げてアンを追い越し、猛スピードでズブグクに体当たりした。
ズブグクはズンッ!と、ひっくり返った。 俺はズブグクの上に飛び乗り、ナイフを喉の急所に突きさそうとしたが、鎌が迫って来たので慌てて飛びのいた。
ズブグクが飛び起きて俺に向かってきた時、アンが横から飛び掛かった。
「アン!! 下がれ!!」
飛び掛かってくるアンに鎌を振り下ろしたが、紙一重で避けてくれた。
ズブグクがアンに気を取られる隙に俺は頭の上に飛び乗った。 そして片目にナイフを突き刺してから、急いで飛び降りた。 ズブグクが痛みで「グエッ!」と鳴いた後、俺のすぐ横を大きな鎌がかすめるが、間一髪で避ける事が出来た。
その後は振り向きもせず、大慌てで森へ逃げ帰って行った。
それ以来、ズブグクは鳴りを潜めるようになった。
◇◇◇◇
ズブグクと直接対決をしてみて、やはり鎌の恐ろしさを思い知った。
今回はどうにか避ける事が出来たが、ほんの一瞬の油断でナムルトのように腕や足を斬り落とされかねない。 その地点で俺の命は終わる。
村に戻ってナイフの加工場を訪ねた。
「ケント様、どうされました? また槍が折れましたか?」
この世界に金属の加工技術はない。 だから鉄などの硬い物質はなく、武器もズブグクの鎌以外は石か木でできている。 それで俺の力に負けてよく槍を折ってしまうのだ。
「リサドさん、半分の長さの槍を2本作ってくれませんか? それとナイフも2本追加で」
「もちろんご注文通りに作ることは出来ますが······」
「それともうひとつ······防具を作っていただきたいのですが······」
「ボウグ······とは何ですか?」
「胸と肩と手足に······」
俺は地面に絵を描いて説明した。
「ズブグクの鎌の一太刀を防ぐことが出来れば後は壊れても構いませんし、重さは気にしなくて結構です。 何とか一太刀だけでも耐えることが出来る防具を作る事はできませんか?」
「もしかして······そんな危険な事を······」
俺はフッと笑った。 自分からこの名前を口にする事があるとは思わなかった。
「大丈夫です。 俺は腕を失くした神ですから死んだりしません。 しかし出来るだけの備えはしたいと思っています。 お願いします」
◇◇◇◇
俺がズブグクと直接対決するという噂はあっという間に広がった。
ガルヤが俺の家に飛び込んできた。
「お前っ!!······」
勢いよく飛び込んできた割にはその先の言葉が出てこない。
「お前、ズブグクと直接対決したそうだな」
「マリを狙っていたんだ」
「どうだった?······勝算はあるのか?」
「奴の片目を潰した」
「そっ!! そうなのか?!! いけそうか?!」
ガルヤにも俺を止めることは出来ないと分かっているのだろう。 それにいつかは誰かが倒さなくてはいけない。 それができる可能性はあるのが俺だけという事も分かっているだけに止めることが出来ないのだ。
「俺を信じろ。 必ず倒す」
「俺は何をすればいい?」
「とりあえずは······石矢を射る練習だな。 お前、外しすぎだぞ。 一発も当たっていないんじゃないか?」
「い···一度だけ当たったことが······あるような······」
「キムルに教えてもらえ」
「わ···わかった」
「そうだ! もう一つあった」
「なんだ! なんでもするぞ!」
俺は二ッと笑った。
「ビルビに告白しろ」
「バババババカ野郎! そそそそそんな事を······ここここんな時に······」
「こんな時だから、ハッキリ言っておいた方がいいと思うのがけどなぁ~~」
ガルヤはガバッと立ち上がった。
「よ···用事を思い出した。 またな」
逃げるように家を出ていくガルヤの後姿を見てクックックと笑いながらアンの頭を撫でた。
その後、キムルやツーラにビルビまでが俺を訪ねてきたが、結局誰も止めることは出来ず、最後は無駄話をして帰って行った。
とりあえず初対決は、追い払う事ができました!
(/ω・\)チラッ




