22話 北の森に潜む化け物
22話 北の森に潜む化け物
それから五日が過ぎた。 ターンナックに到着する日だ。
「まだついて来ているみたいだ。 まずいな······このままだとターンナックまでついて来るぞ」
「そうだな······しかし、どうすればいい」
しかし、今の俺には名案が浮かばない。
何とかしてイルムナックにいるうちにズブグクを倒したかった。 そうでないとこうなってしまう気がしていたからだ。
そうこうしているうちにターンナックまであと少しという所まで来てしまった。
村から二つ手前のサールに入った時に俺は隊を止めた。 ツーラとキムルが後ろから走って来た。
「どうしたんだ?」
「ここに一頭置いて行こう。 周期で言えば明日か明後日だ。 ここにアミがいればこっちを狙ってくれるだろう」
「そうだな······アミには可哀そうだが、ズブグクにはここにいてもらいたい」
ツーラが賛同した。
話が決まり、サムリクに貰ったもう一頭のアミをこのサールの入口に繋いで、荷車はマリに引かせた。
◇◇◇◇
村に到着すると、村の入口に大勢の人達が出迎えに来てくれていた。 商隊の姿を見て「わぁ~っ!」と、歓声が上がった。
隊員達もそれぞれの家族と再会を喜び、抱き合っていたが、一様に表情は硬い。
ナブグとビルビも出迎えに来てくれていた。
ガルーラがナブグに挨拶をしに来た。
「ただいま戻りました」
「良く御無事で戻ってこられた。 御苦労様でした。 ところでクーナの知らせでは、何やら大変な事が起こっているようじゃが、詳しい話を聞かせてもらえますかな」
「歩きながらお話します」
そう言ってガルーラはナブグと歩き始めた。
ビルビが俺たちの所に来て、すり寄ってくるアンの頭を撫でた。
「お帰りなさい。 無事に戻って来てくれて本当に良かったわ」
「うん、ただいま」
俺はビルビにニッコリと頬笑んだが、すぐに笑いは消えた。
「ガルヤもお帰りなさい」と声をかけたが、「おうっ」と言ったきり黙ってしまった。
後ろの商隊のメンバーも一様に堅い表情をしている。 前を見ると、ナブグとガルーラがしきりに話をしながら歩いている。 ビルビもそれ以上聞かずに黙って一緒に歩いた。
村の中のサールに入ると村人が大勢待ち受けていた。 歓声の中、全員がサールに入ってから、俺は村人達の前に出て話し始めた。
「皆さんに、お話ししておかないといけない事があります。
我々はイルムナックで、タムより大きいズブグクの化け物に遭遇しました」
それを聞いた村人の中からどよめきが起こった。 既に噂は広がっているようなのだが、俺の口から直接聞くと、やはりショックは大きいようだ。
「そしてあろう事かズブグクは我々の商隊の後をつけてきて、とうとうターンナックの北の森にまで来てしまいました。
恐ろしい化け物を連れて来てしまい、本当に申し訳ありません」
俺が頭を下げると、商隊の全員が同じように頭を下げた。
「ただ幸か不幸か、ズブグクの化け物は腹が減っている時以外は、むやみに攻撃してきません。 そして奴の鱗は硬く、今のところ倒す術もありません。
もし見かけても、刺激を与えないように逃げて下さい。 それから許可が下りるまで、決して北の森には入らないで下さい。お願いします」
商隊全員でまた頭を下げた。
俺はざわついている村人全員の困惑の視線を感じて、いつまでも顔を上げる事が出来なかった。
◇◇◇◇
その日の夜に、村の主だった者たちがナブグの家に集まった。 そしてガルーラとガルヤが、今回の旅とズブグクの事について詳しく説明をした。
そして次の日は、村の警備の者達を集め、警備の割り振りを決め、石矢作りと石矢を射る練習に励んだ。
◇◇◇◇◇◇◇
あれから二度、アミをズブグクのいるサールに置いて来た。
今、俺とキムルは村の巡回中だ。
「まるで餌付をしているみたいだな」
「はい······奴はあそこに餌があるのを覚えたでしょう。 いつまでもターンナックから離れないでしょうね」
「そうだな。 何か策を考えないと······」
話しながら二人で歩いていると、ビルビが走って来た。
「ケント大変! 来て!」
ビルビは俺達二人を北側のサールに連れて行った。 サールの端で何人かが集まっている。 その中にいたガルヤが俺を見つけると、大声で叫んで手招きする。
「来たかケント、これを見てくれ!」
そこには2頭のハクの死骸が横たわっていたが、その傷はズブグクにやられた傷のように見える。
「まさか奴か? なぜだ? 昨日アミを置いて来たばかりだぞ」
「たまたまここに出て来てしまって、それを見つけたハクが攻撃したので反撃したのだろう」
「ハクは全部で何頭いた?」
「その二頭を合わせて6頭よ」
見回すと4頭のハクがいた。
「他の動物は、減ってないか?」
ちょっと待ってとビルビが周りの動物を数えた。
「多分、減っていないわ」
「と言う事は食べる為ではなかったか。 たまたまならいいのだが······念のため、置いて来たアミが連れ去られているか調べてみよう」
俺達はアミを見に行ったが、やはりアミは連れ去られていた。 村に来たのは食べるためではなかったのである。
◇◇◇◇◇◇◇
二日後、早目にマリとトワを獣舎に戻し、餌をやってブラッシングをしていると、村人が一人、慌てふためいて俺の元に走って来た。
「ケントさん! 大変です! またズブグクが襲ってきました! 今度は犠牲者が出ました!」
「どこだ! 北側のサールか?」
「はい!」
俺はその人を残し、北側のサールに走って行った。
サールの奥で警備の者が何人も集まり、森に矢を向けて立っていたが、足元にはアミが二頭、ハクが一頭、そして人が一人倒れていた。
「何があった?!」
「あっ! ケント様。 あっという間でした。
ズブグクがあの森の道から飛び出して来たと思ったら、周りにいる者を手当たり次第に攻撃しだしたのです。 そしてあっという間にまた森へ帰って行きました。
他にも何人か斬られて手当てをしに行っています。
動きが素早すぎて石矢を当てる事も出来ませんでした」
そう言ってその場にへたり込んでしまった。
その時、ガルヤ、キムル、ツーラが走って来た。
ガルヤが近くにいた者に「何があった!」と、掴みかからんばかりの勢いで聞いていたが、キムルとツーラは黙って殺された人を見ているだけだった。
俺もその殺された人が運ばれて行くまで、呆然と立ち尽くしていた。
ズブグクが、手当たり次第に攻撃を始めた!!
(|| ゜Д゜)




