14話 ハクの群れに襲撃された!!
14話 ハクの群れに襲撃された!!
連夜の交代の見張りの疲れが溜まっている為、護衛達が移動しながらタムの上でウトウトしていた。
あと二日でイムルナック村という時、それは起こった。
もう少しで野営予定のサールに着くという所で、アンがしきりと鼻を上に上げ、臭いをかぎ始めた。
おや?と思うと、今度はマリの落ち着きがなくなって来た。
「ガルヤ! 来るぞ! みんな、サールへ急げ!」
そう言い終わると同時に、後ろから「わあっ!」と悲鳴が上がった。 振り返ると後ろの方を歩いている荷車を引いたアミが、数頭のハクに襲われていた。
「ハクだ! 走れ!!」
ガルヤが叫び、襲われたアミは見捨てて一斉に全員が走り出した。 護衛隊が人と荷車を守りながらサールに入る。
さっき襲ったアミに集まっているのか、今のところハクの姿は無い。
今のうちにサールの真中に荷車と商隊を集め、今来た森との間にタムを並べて、護衛隊がタムの上から森に向かって弓を構えた。
俺はマリを商隊に預けてタムの間に立ち、アンには動かないように制止をかけて弓を構えた。
よく見ると低木の間にハクの赤い目が光っている。 かなりの数がいる。
「まだ射るな」
俺は声をかけ、その時を待った。
張り詰めた空気の中、藪の中から一頭のハクの頭が見えたと思った瞬間、一斉に何匹ものハクが飛び出して来た。
「今だ!!」
何本もの矢が飛ぶ。 みんなの練習の成果が出た。 次々とハクが倒れていく。 その中でもキムルは百発百中だった。
ハクがひるんで森に戻っていく。 しかし、逃げた訳ではなく、低木の陰で様子を窺っているのがわかった。
暫く睨み合いが続いた。
「また来るぞ。 さっき襲ったアミを食べ終わったやつらも合流するぞ。 気を抜くな!」
ガルヤが森から目を離さずに言った。
全てハクを見たわけではないが、30頭近くはいる。 ハク達がジッと潜んでいた藪が動いた。
「来るぞ!」
そう言った瞬間、またハクが飛び出して来た。
「今だ!」
次々とハクが倒れていくが、さっきより数が多い。 矢の雨をくぐり抜けてきたハクに向かって槍が繰り出され、タムがハクを踏みつける。
その時アンが急に俺の制止を聞かずに後ろに走っていった。
「あっ!! アン!!」
後ろを見ると、三頭のハクが反対側の森から商隊に向かって走って来ていた。
俺とハクの間には、商隊やアミがいるので弓を射ることが出来ない。
「くそ!」
俺は槍を掴んで後ろに走り、商隊と荷車を一気に飛び越え、少し離れて走っている一頭を槍で仕留めた。
残りの二頭に向かってアンが飛びかかった。 一頭がアンに喰いつかれて絡み合いながら転がり、もう一頭はその二頭に足を取られてもんどり打った。
足を取られて倒れたハクが直ぐに起き上がり、走りだそうとした所を槍で薙ぎ払うと、ドウッ!と、前のめりに倒れ、動かなくなった。
もう一頭はアンと絡み合って戦っているので、手が出せない。 槍を構えてアンと離れる瞬間を待っていたが、先にアンの口がハクの喉を捉えた。
アンの下でハクが悶える。 アンが喉をくわえたまま首を一振りすると、ハクの動きが止まった。
「アン! 良くやった! 強いなお前」
アンはまだ喉に食らいついたまま、得意そうに尾を振った。
後ろを見ると、数を減らしたハクが森に逃げていく所だった。
「わあっ!」と、全員から歓声が上がった。 しかし喜んでいる間もなく、ガルーラが叫ぶ。
「ケガ人の手当てがすんだら、急いでここから離れるぞ! 血の臭いをかいで他の肉食獣がやって来る。 急げ!」
アンもだが、何人かがハクに咬まれている。
血の臭いを追って来る事が出来ないように、ケガ人の止血をしてから急いで隊を整え、次のサールに向い、そこで野営をする事になった。
先ほど襲撃のあったサールで野営をする予定だったので、次のサールに着いた頃には完全に日が落ちていた。
急いで火を焚いて野営の準備をし、落ち着いた頃に改めてアンの傷の手当てをしてあげた。 何箇所か噛まれてはいるが、大した傷ではなかったので安心だ。
「アン、良くやった。 いい子だ」
そう言いながら薬草を塗ってあげていると、ガルーラとガルヤ、ツーラ、キムルがやって来た。
ガルヤは興奮した様子だ。
「ケント! 弓は凄いな! こんなに倒せるとは思わなかった。 もっと練習しておくんだった」
上気した顔で嬉しそうに言う。 するとガルーラが片膝を着いてきた。
······何だか久しぶり······
「ケント様のおかげ助かりました。 アミには可哀そうな事をしましたが、ハクに襲われて一人も死人が出なかったなんて、奇跡としか思えません。 ありがとうございました」
アン以外でけが人は4人の軽傷者だけだった。
「やめて下さい。 私ではなく、みんなが頑張ってくれたからですよ」
「いやいや。 お前が弓を教えてくれなければ、こうはいかなかった。 やっぱり、お前のおかげだよ」
興奮しながらそう言うガルヤの後ろに、いつの間にか集まって来ていた商隊のみんなも、口々にお礼を言いに来た。
俺も役に立っているかと思うと、嬉しかった。
◇◇◇◇
焚火を囲んで遅い夕食をとりながら、今日のハクの迎撃の話が尽きない。
「しかし、キムルは凄かったな。 そうとう弓の練習をしただろう。 百発百中だったんじゃないか?」
俺が言うと、キムルが少し照れながら頭をかく。
「俺は体が小さいから、接近戦はどうも苦手で。 弓は俺に合っているみたいだ」
「これからは、弓のキムルと呼ぼう」
その言葉にみんなが賛同したので、キムルは大いに照れていた。
するとバラゴが、アンに大きな肉を持って来てくれた。
「アン殿にも命を助けていただき、ありがとうございました。 あの時アン殿が来てくれなければ、きっと何人かの犠牲者が出ていたでしょう」
「いやいや、アンに殿を付ける必要はありませんよ」
俺が苦笑しながら言うと、みんなも笑った。
アンもとても嬉しそうに大きな肉にかぶりついていた。
しかしもう大丈夫と安心していたのは俺だけで、他の全員がまだ不安に思っている事を、その時の俺はまだ知らなかった。
アンは強い!!( =^ω^)




