57話 真犯人
57話 真犯人
宿に戻るとニコロとグラウドが外で待っていた。
「ケント様! 大変や!」
「何かあったのか?」
「国王様から招待されたんや」
「? 謁見申請を受けてじゃなくて?」
「はい、謁見申請に行ったのですが、ライオン退治の噂が既に王様の耳に入っていたようで、我々と商隊のメンバーも一緒に招待されました。 明日の朝10時に来るようにと」
「それは良かったな。 労せずに国王様に会えそうだ」
俺の冷めた様子にニコロは拍子抜けのようだ。
「貴豹王の方から招待されたんやで? 凄いと思えへんか?」
「そうなのか? 貴狼国でも貴猿国でも普通に会えていたから、感覚がマヒしているみたいだな、ハハハ」
「ハハハって·····」
みんなは呆れていた。
◇◇◇◇
翌朝、城に向かった。
途中、中央広場を通った時は驚いた。 まるでお祭りのように飾り付けられ、出店が並び、中央では巨大なライオンの丸焼きが作られているのだ。
そして舞台のようなところに貴賓席のようにテーブルと椅子がズラリと並べられていた。
本当に国を挙げての一大イベントのような賑わいだ。
······後で遊びに来よう······
城に入ると30畳ほどの応接室のような部屋に通され、大きなソファーを勧められた。
俺は何も考えずに勧められるまま座ったがファビオたちは3人とも俺の後ろで立っている。
······たしか貴猿王の時もそだったな······
兵士というものはそうなのだろうと気にせずに座っていると、3人の貴豹が入って来た。 一人はジャガー種で、服装からいってこの人は貴豹王だ。
俺は立ち上がった。
「気になさらず、お座りください」
「失礼します」
「私は貴豹王のオルアーリ・アルノルドです」
「私は人間族の倉木賢斗です。 御会いできて光栄です」
「本当に人間族がいたのですね。 ライオンの件がなければ信じられなかったところです」
「いつも貴猿族に間違えられます」
「ハハハハ、そうでしょうね。 それと後ろの方々が?······」
貴豹王は後ろに立つファビオに視線を移す。
「ジャンシャード国、近衛隊副隊長サルバトーレ・ファビオと申します。 今はケント様の専属護衛を仰せつかっております」
「覚えているぞ。 前に来た時も評判になっていたと聞いた」
「恐れ多いです」
「女王様は御健在か?」
「······はい······」
クソ真面目なファビオは嘘がつけない。 辛うじて「はい」とだけ言えた。
「それと?······」
「ジャンシャード国、ドメンゴル町配属、歩兵大隊副隊長インザーギ・ニコロです。 私もいまはケント様の専属護衛です」
「おぉ、そなたの噂も聞いている。 双剣でそなたの右に出る者はいないと」
「いえいえ、この二人には到底かないません」
「ほう~······」
貴豹王は俺とファビオに視線を落としてからグラウドを見上げた。
「久しいな」
「はい。 覚えておいででしたか」
「もちろんだ。 しかしあの件については最近知った。 グラウドを近衛隊に復職させるように今動いている。 そうだったな?」
貴豹王は後ろに立つ貴豹を見上げた。 王が見上げたのは豹種で、もう一人は王と同じジャガー種だ。 体格がよいのですごく大きく見える。
「グラウド、すまない。 やっと証拠を掴んだ。 もう少し待ってくれ」
「隊長、ありがとうございます」
豹種の方は近衛隊長のようだな。 貴豹王は満足そうに頷いた。
「しかしあのライオンの群れには前々から悩まされていました。 今度本格的に討伐隊を組む予定にしていたのですが、本当に助かりました。 改めて全国民を代表して礼を申し上げます。 ありがとうございました」
貴豹王はわざわざ立ち上がって頭を下げてくれる。 俺も慌てて立ち上がった。
「王様、やめてください。 座ってください」
······腰が低くて、とてもいい人に見える······
「あっ、紹介するのを忘れていました」
王は後ろに立つ二人の貴豹に視線を向けた。 始めに口を開いたのはジャガー種の貴豹だ。
「私は将軍職に就いているガリーニ・ラウロ。 お初にお目にかかる」
「私は近衛隊長ボネット・パオリーノです。 お見知りおきを」
「人間族にお会いできると思うと、興奮して彼等の事をすっかり忘れていました。 この者達はとても頼りになる右腕です」
貴豹王は無邪気に笑い、将軍と近衛隊長も誇らしげに微笑んだ。
······やっぱりいい人だ······
俺は後ろにいるファビオに視線を送った。
それで理解したファビオが前に出てきて、胸元から書簡を取り出し捧げ持った。
「貴狼国からの書簡です」
近衛隊長が出てきて書簡を受け取り、貴豹王に渡した。
「ライオンの事がなくてもこちらから御会いしようと思っていました」
「ふむ。 ケント様の視察目的ですか。 いかかです? 貴豹国を楽しんでいただけましたか?」
俺は暫く逡巡してから口を開いた。
「視察は建前で、本当の目的は他にあります。 是非ともご意見を伺いたい」
「なんでしょうか?」
「実は······貴狼国の女王が拉致されました」
「なっ!! なんですと?!! あのお方が······なぜ? 誰が? どこに?」
3人とも本気で驚いている。 国王などは俺に掴みかからんばかりだ。
俺は初めからの経緯をすべて話した。
「我らを悪者にしようという企みか。 白い貴狼のコレクションなどとふざけるにも程がある! しかしなぜ?」
「あくまでも仮説ですが······」
「お考えがあるのですね」
「昨夜聞いたのですが、貴竜国が大きな船を造っているという噂を聞きました」
「それは本当か?! 知っていたか?」
貴豹王は振り返り、後ろの二人に聞くが、二人とも大きく首を振る。
「それが本当なら大変な事です王様」
「そうだな。 しかしその事と女王様の拉致に何か関係があるのですか?」
「お互いの国に容疑をかけて戦争をさせようという意図が見えます。 ラクイラ大陸で戦争と混乱を望む者」
「······リーヴォリ大陸の貴竜族」
「そう考えると翼竜が絡んでいる事も説明がつきます。 今までは貴竜族はこちらに渡れないので関係ないと思われていましたが、そうでないなら······」
「これは大変だ······ガリーニ、どうすればいい」
貴豹王は見るからに動揺している。
「船を造っているというのも寝耳に水です。 そちらから調べてみます」
「そうだな······しかし本当に貴竜族の仕業なら、あの美しい女王様は······」
「貴竜国に連れ去られたと考えられますね。 ですから貴竜国に行ってみようと思います」
「そうか······そうですね······しかしかなり危険だと思われますよ。 閉鎖的で狂暴な種族だと聞いていますし、我々などが想像もできないほど巨大な姿をしているとも聞いています」
「わかっています。 しかし女王様を見捨てることは出来ません」
ファビオたちは落ち着いている。 昨夜、既にその事について話し合っていたからだ。
当然昨夜はファビオもニコロも酷く動揺していた。
そしてグラウドは一緒に行くといって聞かなかった。 だから王様の承諾がもらえれば構わないと言ってある。
「王様、私も同行してケント様たちの御力になりたいと思いますので、許可をいただけますか?」
「グラウド······先程も申したが危険だぞ」
「承知いたしております。 しかしケント様がいなければ私は生きてはおりませんでした。 ですから御力になりたいと存じます」
「そうか······わかった、許可する」
「ありがとうございます」




