10話 牛のようなコムを捕まえに行く
10話 牛のようなコムを捕まえに行く
それから何事も無く、数か月が過ぎた。
出かける時はいつもビルビやガルヤ、ツーラ、キムルと一緒に出かけた。
遠出をしたり、狩りをしたりした。
相変わらず訓練にも付き合ってもらっている。
訓練方法を色々考えてくれて、いい感じで訓練できるようになってきた。
◇◇◇◇
ある朝、トワの乳絞りをしていると、ガルヤが訪ねてきた。
「よお! ケント、乳絞りか?」
「ああ、ビルビに特訓されたよ。 上手いものだろ」
「ははは、お前をしごくビルビの顔が目に浮かぶぞ。 チルルの乳は時々絞ってやらないといけないからな」
「ああ、チルルの乳は美味いな。 そうだ! これでバターを作ってみたんだ」
「バターって何だ?」
「ミルに付けたり、魚や肉を焼く時に油の代わりに使うと美味いんだ。 バターは母さんが時々自家製のバターを作っていたのを、見様見まねで作ってみたんだ。 ナルビさんも俺がバターで焼いた肉を美味いって言ってくれたぞ」
「お前が料理をするのか?」
「ああ。 前の世界ではしたことがなかったが、結構暇を持て余しているから挑戦しているんだ。 時々ナルビさんに教えてもらっている」
「どうしてだ? そんな事をしなくても毎日ナルビさんが作ってくれているだろう?」
「それが申し訳なくて、自炊しようかと思っているんだ。 今度、ヤンドクさんに釜戸を作ってもらう予定だ。 その時は飯を御馳走するからみんなで来てくれ」
「えっ!······食える物を出してくれるんだろうな」
「多分な」
「ははは、ツーラ達にも言っておく。 期待せずに待っているぞ」
「ところでどうした? 何か用か?」
「ああ、忘れていた。 明日狩りに行く。 一緒に行くか?」
「もちろんだ。 何を狩るんだ?」
「狩るといっても、コムを捕まえて連れて来る。 いま、西の草原にコムの群れが来ているらしい」
「コムか······楽しみだな」
コムとは村にもいる牛のような動物だ。
「ああ、それからマリじゃなく、タムで来てくれ」
「え? なぜだ?」
「タムは他の肉食獣に襲われる事はまず無いが、アミは危険だ。 俺達が作業をしている間に狙われる危険がある」
「そうか······わかった。 ヤンドクさんに頼んでみる。 そうだアンは連れて行っても大丈夫か?」
既にアンは成獣サイズになっていて、アミにも十分ついてくることが出来る。
「ああ、アンは大丈夫だろう。 明日日が昇る前に出発する。 タムのサールに来てくれ」
「わかった。 じゃあ、明日な」
「おう!」
そう言って、ガルヤは帰って行った。
乳絞りを終えた俺は、マリとトワを放牧場に連れて行った。 二頭を放してやると、それぞれの群れの中に走って入って行った。
この放牧場はかなり大きなサールだと思っていたが、ここは家畜の為に村人が広げたそうだ。
アミやチルル、コムなどが、それぞれ群になって草を食んでいる。 その間をカルコがチョコチョコと歩きまわっていた。
コムは食用で、俺がこの村に来た頃に比べると、随分数が減っていた。 可哀そうだが、人が生きるためだ。
地球でも牛や豚が食べるだけの為に育てられ、次々と殺されている。
俺も肉は好きだ。 仕方がない事だと思っても、こうやって生きている姿を見ると、切なくなってくる。
しかし、フォーアームスはコム一頭、カルコ一頭をとても大切に使い切る。
命をくれた事に感謝し、命を奪う事に謝罪する。 捨てる所がないほど全てを大切に使い切るのだ。
俺はしばらくサールに放してある動物たちを見ていた。
やっぱり獣医になりたかったと、少し悔やまれた。
「そうだ、ヤンドクさんに、お願いに行かなくては」
踵を返してナブグの家に向かった。
ナブグの家で声をかけると、ナルビが出て来たのでヤンドクを呼んでほしいとお願いした。
「彼なら雑貨屋のタキムさんの家のチルルの具合が悪いからって、見に行っているわ」
「そうですか。 ではそちらに行ってみます」
ヤンドクはケガや病気に詳しく、何かあるとみんながヤンドクに相談しに来る。 この村の医者でもあり獣医でもある。
ちょうど、ヤンドクが獣舎から出てくる所だった。
「やあ。 ケント様どうされたのですか?」
「チルルは大丈夫だったのですか?」
「ちょっと食欲が無かっただけです。 薬草を食べさせたから、もう大丈夫ですよ」
「それは良かったです······そうそう、明日ガルヤ達と一緒にコムを捕まえに行く事になりました」
「じゃあ、マリでは無理ですね。 私のタムを使って下さい。 必要な物は、揃えておきます」
ヤンドクは、何も言わなくても全てを理解してくれた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」。
◇◇◇◇
夕食の時にナブグの家に行くと、ヤンドクが明日の準備を整えていてくれた。
「三日分の食料と縄と網とタムをつなぐ杭、そしてアンの食事も入れておきました」
「縄と網?」
「使い方はガルヤ達が教えてくれます。 全員が手分けして持って行くのです。 荷物はこの部分をタムの背中の鬣に縛り付けて左右に垂らします。 明日タムに付けておきます」
丁寧に説明をしてくれた。
◇◇◇◇
次の日の朝、明るくなり始めた頃にアンを連れてナブグの家の獣舎に行くと、ヤンドクがすでに準備を整えて待っていた。 タムの肩と腰のあたりに荷物が付けられている。
「ケントさん、気を付けて行って来て下さい」
「はい。 それではタムをお借りします」
俺はタムを引いてサールに向った。
サールに着くと既にガルヤ達は来ていた。
「来たか。 あと二人来れば出発する」
すでに12名がタムに荷を乗せて待っている。
12頭のタムの群れは壮観だ。 見上げるほどデカイタムに囲まれて俺は興奮していた。
最後の2名が来て、15名で出発した。
アミに乗り慣れた俺は、久しぶりにタムに乗ると物足りないほど乗り心地が良かった。
アンも嬉しそうに俺が乗るタムと並走している。
五分ほど走ると海に出た。
「海だ! こんなに近くにあったのか」
「ああ、ケントはこっちの海は初めてだったな。 まあこの辺りはターンナック(海の近く)だからな」
見ると、既に何人かが海で漁をしている。 そして浜と森の境目にタムがずらりと並べて繋いである。
「僕達は朝一に出発したのに、もう漁を始めているのか?」
「そうだな、朝暗いうちに出発して一回目の漁をする。 二つ目の太陽が登る頃には、次の仕掛けをして帰ってくるんだ」
「一回目? ということは、二回目もあるのか?」
「そうだ。 昼前から始めて一つ目の太陽が沈む頃には帰ってくる。 俺達もたまに狩り出される事があるんだ。 今度手伝う時はケントにも声をかけよう」
「ぜひ頼む。楽しみだな」
ガルヤとそんな話をしながら、走り続けた。
途中、二度ほどギギが草むらに隠れているのが目に入ったが、襲いかかる事も無く、じっとしていた。
主人公は昆虫世界を楽しんでいますね!
(*^_^*)




