絡み合ったその先
※史実をもとにした創作作品です。
実在の人物・出来事とは一部異なります。
二人が愛を確かめ合った部屋は、
まだ熱を宿したまま静かに息づいていた。
甘く重たい湿気が肌にまとわりつき、
触れ合った余韻が逃げ場を失ったまま漂っている。
障子越しに差し込む淡い光が畳の目に沿って細く伸び、
汗でしっとりと濡れた二人の肌を柔らかく艶やかに照らし出していた。
遠くの町の音はくぐもって届かず、
すぐ近くで響いているのは
互いの吐息が重なり合う微かな音と、
唇が触れ合った後に残る湿った余韻だけだった。
激しく乱れていた呼吸は少しずつ落ち着きを取り戻しつつも、
桜の喉の奥からこぼれる甘い吐息が静寂をそっと揺らしていく。
畳には二人の体温と汗が染みつき、
乱れた着物の裾が太ももに張り付いたまま、
熱を持った布地が肌に擦れるたび
桜の背筋に小さな震えが走った。
汗の粒が鎖骨のくぼみや胸の谷間に溜まり、
淡い光を受けてきらめいている。
静かに、けれど確かに、そこに在ることを主張するように。
心臓の鼓動はまだ速く、
甘い疲労が桜の身体を芯から深く沈めていく。
身体の奥に残る微かな震えが、
ついさっきまで深く重なり合っていた感触をそっと呼び戻していた。
家宣の指先が桜の腕の内側をゆっくりと辿る。
汗で滑る肌に指が沈み込み、
温もりがじんわりと伝わってくる。
それだけで空気が小さく波立ち、
名残の熱が身体の奥まで広がっていった。
家宣は桜の首筋に顔を寄せ、
汗と甘い匂いの混じった肌にそっと唇を寄せる。
額に。
頬に。
唇に。
ゆっくりと口づけを重ねていく。
吐息が触れ合う距離で互いの息が混ざり合い、
唇が触れた瞬間、桜の身体が小さく震えた。
甘い吐息が静かに漏れる。
――まだ、熱が引いていない。
肌の表面を這う細かな震えが、それを確かに物語っていた。
桜の胸の内に穏やかでいて切ない波が広がっていく。
この温もり、このぬくもり、この静かな繋がりがいつまでも続いてほしい。
そんな願いが身体の奥底からそっと溢れ出す。
桜は家宣の胸に頬を預けたまま、
次第に深い甘い眠りへと沈んでいった。
規則正しく、けれどどこか愛らしい寝息がひとつ、またひとつと重なり、
そのたびに柔らかな胸が家宣の肌に寄り添い、微かに形を変える。
家宣は守るように、けれど強く腕を回し、
桜の寝息と肌の熱と甘い匂いを確かめるように感じ続けていた。
指先が眠りを妨げぬよう髪を梳き、
首筋から背骨のくぼみへゆっくりと滑り落ちていく。
汗で濡れた肌をなぞるたび、
桜の身体は無意識にしなだれ、
ほんのわずかに温かな吐息が漏れた。
「……大丈夫だ」
その囁きは眠る桜へではない。
彼女を抱きしめ続ける想いを確かめるように、
自分自身へと落とされた言葉だった。
「ここにいる」
返事を求めない声が夜の湿った空気に溶けていく。
未来を語らず、
ただ今、この瞬間だけを。
この熱く湿った肌。
この甘く絡みつく吐息。
この静かな鼓動。
それらすべてを、強く、慈しむように抱きしめ続けていた。
深い静けさが部屋を包み込み、
やがて外の冷たい空気が障子の隙間から忍び寄ってくる。
それでも二人はまだ、
汗と熱と匂いに包まれたまま――
言葉にならない想いを、
肌と肌で。
呼吸と呼吸で。
深く、ゆっくりと、
重ね続けていた……。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次話もお付き合いいただければ幸いです。




