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触れなかった夜の続き

※史実をもとにした創作作品です。

実在の人物・出来事とは一部異なります。

桜は、目を覚ました瞬間に昨夜の続きを思い出してしまった。


触れなかったこと。

あと一歩、近づかなかったこと。

そのどちらもが、朝になってなお胸の奥に残り、指先から離れない。


布団の中で、桜は小さく息を吐く。

まだ眠りの名残が身体に絡みついているはずなのに、意識だけが先に目を覚ましてしまったようだった。

指先に残ったままの感触……

あまりにもはっきりしている……


あの距離。

指一本分ほどしかなかった、越えてはいけない境。


思い返すだけで、胸がきゅっと縮まる。

触れられなかったはずなのに、心の奥では何度も触れ直されているようで、落ち着くことができなかった。


やがて桜は、ゆっくりと身を起こす。

寝乱れた髪をそのままに、鏡の前へ向かう。


そこに映った自分の黒髪には、昨夜のまま簪が挿さっていた。

外すことも、外されることもなかったはずのそれが、今はやけに存在を主張している。


そっと簪に指を伸ばす。

触れた瞬間、胸の奥が跳ねた。


――忘れるな。

そう言われている気がした。


家宣の視線。

低く掠れた声。

袖越しに伝わった、あの小さな震え。


思い出すたびに頰が熱を帯び、呼吸が浅くなる。

触れなかったからこそ、記憶は鮮明すぎた。


――今宵の続きを……。


胸の奥で、その言葉がもう一度、静かに息づく。

恥ずかしさに身を竦めながらも、否定できない期待が、確かに膨らんでいく。


触れなかった夜の続きは、

きっと、触れてしまう夜へと繋がっている。


そう思っただけで、桜は小さく視線を伏せた。


 


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次話もお付き合いいただければ幸いです。

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