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【048話】決別の時を迎える





「スカーレット、少しいいかい?」


 アレンがついに口を開いた。

 声音は震えておらず、平常通りの爽やかさを放っている。

 つまり、アレンは普段の調子を取り戻している。



「アレン……やっと分かってくれたのね! 早くそこの女をどうにかして!」


 スカーレットは嬉しそうに頷いている。


 だが、きっとアレンのしようとしている話は、スカーレットにとって期待していたものではないだろう。

 アレンのスカーレットに向ける視線は、どこか諦めたような悲しいものだ。



「スカーレット……」



「アレンは、私と来てくれるよね? 

 だって、小さい頃からずっと一緒にいたじゃない。

 アレンは私が隣にいてあげないとダメなの。

 3年前、アレンのことを拒絶したこともあったけど、あれは嘘なの。

 アレンが他の女の子と仲良くしていたから、ちょっと気を引こうとしただけ。

 本当にそれだけのことなの。

 だって、私にはアレンしかいないもの。

 アレンの居ない生活なんて耐えられない。

 ねぇ? 

 どうしてパーティを抜けたの? 

 私はずっと、アレンが私だけを見てくれる日を待っていたのに……。

 アレンが帰ってくるのをずっとずっと待っていた……。

 またそうやって、違う女の子に言いくるめられちゃったの?

 ねぇねぇ! 

 どうしてアレンは、私だけ見てくれないの?

 どうして、どうして、どうして、どうしてっ!」



「いや、ちょっと落ち着いて!」


「嫌っ! アレンが私と一緒に来てくれなきゃ落ち着いてあげない! また一緒に冒険するの!」




 ──うわぁ。これは、相当強烈な……。


 部外者の俺でさえ、きついと感じる。

 当のアレンからしてみれば、こんなに不安定な精神状態の幼馴染を目にして、さぞかし辛いことだろう。


「……ちょっと、私、悪寒がするわ」


「安心しろ……俺もだ」


 モナもあの勢いは、やはり苦手そうだ。

 顔色が悪いというより、あんな人が存在しているのかという驚きが勝っているような表情である。


「アイリスの教育に悪いわね……」


「いや、そういう問題じゃないだろう」


 モナさん、モナさん。

 貴女はどこ目線から、あの修羅場を観察しているんですか?

 なんか、子供の成長環境を整えようとする過保護な母親みたいなことを言い出すなんて……。

 けれども、スカーレットの病みっぷりは凄まじい。


 アイリスもこれには驚愕(きょうがく)の顔。

 ……と思いきや、特に動じず。


 俺やモナなんかよりも、精神的に強いのではないかと感じる。

 このままスカーレットの悪足掻きにも似た姿を延々と見せつけられるのかと思ったが、アレンがそれを許さなかった。




「スカーレット!」


「──っ!」


 聞いたことのないくらいに大きな声。

 俺とモナも、アレンの爽やかではない、緊迫した叱責の声に肩をビクッと震わせる。


「……3年前のこと。今のこと。ちゃんと話すから、真面目に聞いてくれないか?」


 幼児を諭すように、アレンは告げた。


「俺は、確かにスカーレットのことが好きだった」


 懐かしむように空を見上げるアレン。

 それは、スカーレットに振られた時とは真反対の動き。

 下を向き、地面に視線を落とし続けたアレンは、もう過去のものであると言わんばかり。


 それくらい、今のアレンの瞳には夢と希望が詰まっていた。


「スカーレットに振られた時は、本当に悲しかったよ。……噂が流れていたというのも、あったかもしれないけど、スカーレットなら、分かってくれるはずだって心のどこがで思い込んでいたんだ」


 ──でも、そんなことはなかった。


 噂を信じたスカーレットに酷いことを言われ、突き放された。

 アレンは深い傷を負ったのだ。

 身体的でなく、心に深い傷を──。


「けどね。あの時のことは、今でも辛いと感じるけれど、それが繋がって今があるんだと考えると……なんだろうな。これで良かったんだとも思えているんだ」


 しかしながら、アレンは清々しい顔をしていた。

 過去は辛かったことだろう。

 思い出したくなかった記憶が多い。

 それでも、過去と向き合い、今の自分と照らし合わせる。


 ──過去があり、それが繋がり、今があることの幸せ、か。


 相棒であるアレンの口から、そんな嬉しい言葉を聞けるとは、きっとずっとそう思ってくれていた。

 けれども、そういうことはあまり口に出す機会はない。

【エクスポーション】

 俺も思う。

 このパーティに入ることができて、人生が明るくなったと。


「だからね。スカーレット。……僕はもう、昔の僕じゃないんだ」


 現実味を帯びた言葉。

 それは、アレンから過去の想い人スカーレットへ贈る。


 辛辣で淡い思い出を存分に含んだ重い言葉であった。






本日1本目の投稿でした。

総合21000pt突破&ブクマ5500突破。

ありがとうございます!



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  邪智暴虐の闇堕ち聖女〜追放された元聖女は理不尽な世界へ復讐するため、悪逆非道な制裁を執行する〜

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― 新着の感想 ―
[一言] 文章だけで軽いSANチェックものなのに…トラウマの相手から、しかも音声で聞かされたら発狂するぞこれ…
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