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【140話】反転する世界





「仕留めるぞ、レオっち!」


「ああ、スキルで動きを止めるから、その間に決めてくれ!」


 先鋒として、俺とアウグストが包帯女に一直線に突撃する。

 竜とゾンビが邪魔をしてこようとするが、それは当然信頼の出来る仲間たちがしっかりと牽制し、相手をしてくれた。



 ──【釘付け】で止めて、アウグストの強力な連続攻撃が重なれば、倒せるはずだ。


 考えるのは簡単。

 その作戦が完璧に遂行できれば、予想通りの結末になることだろう。しかし、俺やアウグストの手はもう初見ではない。

 手札は既に晒した後。

 対策されるというのは、安易に想像できた。


「さっきまでとは雰囲気が違うな」


「んなことどうでもいいっすよ。ぶっ潰せばそれまでなんだから! 靴舐めさせようぜ!」


 包帯女との距離はぐんぐんと近付く。

 それにつれて、息苦しい感覚がするのは、先程まではなかったものである。

 何をしてくるか分からない。

 相手の手の内が読めないからだ。


 ──物理攻撃、魔法が無効。これだけの特性を持っているのであれば、その他複数の特殊な力を行使してきてもおかしくない。


 ゾンビを出現させるゲート。

 それから、瀕死の竜を再生させる能力。

 凡庸なことが何ひとつない。


 けれども、それで消極的な攻めになるほど、馬鹿ではない。

 俺と一緒に戦ってくれるのは、アウグスト。

 モナと参加した武術大会でその実力は、実感している。彼との共闘、負ける気がしない!


「おらぁ!」


 空中にいる包帯女に向かい、アウグストは目にも止まらぬ速さで距離を詰める。

 そのまま腰を回して、渾身の蹴りを3回。

 打撃音が空気を伝ってこっちにまで伝わってくる。

 その蹴りを受けながら、余裕な表情を崩さない包帯女。


「チッ、硬すぎんだろ!」


「女性に向かって、それは少し失礼よ?」


「お前は、化け物に定義されるからセーフだっつの!」


 包帯女の素早いカウンターに対し、アウグストはしっかりとガードを挟みながら、戦闘を継続する。

 女性という表現に相応しくないほどに包帯女の拳からの一撃は、重く速い。


 ──早く動きを止めてやらないと。


【釘付け】


 こちらは2人で応戦する。

 アウグストにとって有利な戦局を作る。

 俺にできる役目はそれであった。


「2度も同じ手には、乗らないわよ」


 だが、包帯女は俺のスキルを身を捩り、発動を避ける。


「悪いアウグスト」


 アウグストと戦いあっている隙にスキルを当てようと思ったが、失敗してしまった。

 不意打ちはもう無理か……。

 アウグストは、それでも強気な顔つきを崩さない。


「大丈夫! レオっちがあのスキルを当てる機会は、作ってやるからさ! ──【神速】」


 アウグストは再加速し、包帯女の余裕を崩してやろうかというような猛攻を仕掛ける。

 鋭い刃先の短剣が包帯女に命中するたびに肉の切れる音が耳に響いてくる。

 真っ赤な血液は飛び散らない。

 紫色の生者ではあり得ないような体液が、絶え間なく包帯女の傷口から流れ出す。


「これでくたばってくれたら、楽なんすけどね」


「それだと面白くないのではないかしら?」


 無数の傷口はすぐに修復される。

 不死身なのかと思うくらいの自己再生能力だ。

 すぐに倒せるような相手じゃないというのは薄々感じてたが、あれだけの傷を瞬時に治すというのは、完全に予想を上回る凶悪さが垣間見えた。


「お返しよ」


「────⁉︎」


 世界が裏返るような衝撃。

 地面の揺れは、包帯女が仕掛けたものであると今の発言から察することができる。しかし、それがどういう原理で行われたのかは、分からない。


 考える前に俺はその場に立っているのがやっとになっていた。

 空中にいる包帯女とアウグストには、効果がないもの。

 つまり、この攻撃は──、


「あの盾の子は、これで暫く動けないわね」


「卑怯なことすんなぁ……」


「あら、悔しそう。ゾクゾクするわ」


「馴れ馴れしくてキメェ……人との接し方考えた方がいいぞ」


 遠のきそうな景色と上空にて、罵詈雑言の限りを尽くすアウグストが見える。されども、そこに辿り着ける気はしない。


 ──俺単体を狙い撃ちにしたのか⁉︎


【釘付け】は包帯女にとって厄介極まりないスキルなのだろう。

 しかし、当てられなければなんともないというのもまた事実。

 アウグストと対面での戦闘において、優勢であるのは優れた再生能力を持つ包帯女である。

 長期継続戦闘では、アウグストの旗色が悪い。


 ──俺が動けないうちにアウグストを倒すって魂胆か。だとすれば、してやられた!


 油断していた。

 アウグストの対応に精一杯だったと錯覚していた。

 おそらく、包帯女が得意としている衝撃波の類。

 防御の体勢が整っていない身に食らったものだから、身体が痺れて動けない。


「さあ、1人ずつ殺してあげるわ!」


「あんま俺のこと舐めんなよ! カスがぁ!」


 アウグストと包帯女の戦闘は激化する。

 短剣と拳が交わる。

 金属音と衝撃が響くのが肌身に伝わってくるたびに焦燥感に駆られる。


 ──くそ、動けっ! なんとか動きを止めないとアウグストが有利に立ち回れなくなる。


 望みは叶わない。

 空回る。

 身体を動かそうとすればするほどに電流が走ったかのように動きを阻害する痛みが走る。


 ──急げ急げ急げ急げ、動け動け動け動け!


「……早くっ」


 僅かに動けたのは、半歩程度のもの。

 足裏が地面を擦るような「ギリギリ動かせました」みたいな惨めな移動。

 足りない。

 こんなんじゃ、全然──!


「あっ……⁉︎ ヤッベ」


「あらあら、胴体がら空き。ふふっ!」


 短剣を弾かれたアウグストは、無防備な状態。

 それを包帯女は嬉しそうに眺めながら、恐怖の鉄槌を振りかざす。

 アウグストが落とされたら終わる。

 俺が代わりにあの攻撃を受け流さなきゃいけないのに、肝心な時に役に立てないなんて……。


「頼む、動いてくれっ!」


 足掻いて、足掻いて、足掻きまくって、それでもまともに動けない。


「これで、1人目の処理は完了ね──」


 女の手の甲とアウグストの胴体が接触をする。

 「アウグストがやられる」そう思い目を瞑った。

 だが、



 破壊されたのは、包帯女の振りかざしたはずの腕であった。





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