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【119話】神隠し




 旧教会都市の噂。

 それは、確証のない空虚なものであり、また間違っているとも断定できないものである。

 スタンピードによって、多くの死者が出た。

 その亡霊が無念であるということから、度々現れて、旧教会都市内を動き回る。


 ……そして、亡者は生者を求めて彼らを冥界へと引きずり込む。

 寂しさと暗闇の支配する空間。


 救いはない。



 ──。


 ────。


 ──────。


「そんな感じのお話が旧教会都市の都市伝説ってやつっすね! おん⁉︎ 旧教会都市、都市伝説……ああ、なんか語呂とかいい感じだわ。気に入った!」


 ケラケラとアウグストは、一通りの話を終えて自分の発言に大笑いする。


「まあ、アウグストの戯言は置いておいて……」


「戯言言うんじゃねぇよ!」


「なんとなく、分かったか?」


 レジーナは片目を閉じながら、こちらに確認をしてくる。

 ある程度のことは分かったが、それが調査隊の失踪と繋がりがあるかと言われれば、憶測の域を出ない。


「亡者なんているのか?」


 レジーナとアウグストは横に首を振る。


「っは! 亡者なんていねぇから。そんなワクワクドキドキする作り話が真実なら、この旧教会都市は大人気観光スポットにでもなってるよ」


 楽観的な話し方をするアウグストとは別に、レジーナの顔は、今の現状を憂いているものであった。


「……行方不明者が旧教会都市内で続出しているのは、私たちも把握している。自然にそんなことが頻発するなんて有り得ないことだ」


「そそ、つまり──人為的な神隠しってやつよ」


 ──人為的なもの。誰かが旧教会都市内で入り込んだ人々を誘拐しているというのか。


 しかし、彼らの話は的を射ている。

 亡者だなんだという内容よりもよっぽと信憑性が高いのが、結論だ。

 アイリスとモナも2人の話を聞き、深刻そうに顎を引く。


「じゃあ──アレンさんは」


 アイリスの言葉の先を聞かず、アウグストは見透かしたように息を吐く。


「神隠しの被害者ってことじゃね?」


「そんな……」


 明らかに動揺を隠しきれていない。

 アイリスは、その話を信じたくないのか、小刻みに首を横に振っていた。

 否定したい。

 認めたくない。

 アイリスにとって、アレンは本当に大切な存在なのだと思う。

 加えて俺たちも、アレンがそんな神隠しにあって、これまで続いてきた日常から消え去るなど容認することはできない。


「どうすれば、アレンを助けられるの?」


 腕を組み、モナはアウグストとレジーナに向かって、救助の方法を尋ねる。

 解決策があるのかも怪しい。

 アレンが連れ去られた。

 あの、アレンが、だ。

 もしも、その相手がアレンより強かったら?


 ……勝ち目なんてないし、方法もない。


 雲に陽が遮られ、周囲が闇に染まっていく中、アウグストは視線を天に向けながらしばらく無言で佇む。


「まあ、方法がなくもない……か」


「────!」


「いやぁ、そんな期待した目で見んなって。まだ俺も絶対なんて言ってねぇし」


 アイリスの表情が明るくなったのをチラリと確認したアウグストは、ポリポリと頭を掻きながら、眉をひそめる。


「アレンさんを助けられるんですね!」


「いや、だから──」


 言いかけた途端、モナの靴ずりの音が響き、空気が変わる。

 言葉を止めた。

 息をする音さえ、ほとんど聞こえないくらいの静寂に包まれる。

 それは、この場にいる5人ともが共通して静けさ溢れる空間を作り出したからだ。


 ──これは、来るな。


 モナは、ゆっくりとした所作で槍を構え、アウグストも短剣を腰から抜き出す。

 レジーナ、アイリスも周囲を視線を動かしながら、警戒を開始した。


「グゥァウ……」


 邪魔者の介入によって、アレン救出のための概要は一旦お預けになるようだ。


「まあ、この話は後でするとして……ゴミ掃除。しよっか」


「カァガァアッ‼︎」


 再び現れたゾンビの群れ。

 それぞれが死角を作らないような立ち位置を保ちつつ、ゾンビ殲滅の幕が下ろされた。




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