【108話】意地と意地の攻防戦
「なぁ、こっからどうするんすか?」
「さあ、どうされると思う?」
【釘付け】によって固定されたアウグストは、ヘラヘラした顔のまま俺に問いかけてくる。
動きを止めるだけのスキル。
アウグストからの攻撃を受けないとはいえ、このままだと状況は動かないし、打開策にもなり得ない。
「このままだと平行線っすよ」
「そうだな。……スキルがこれだけだったら、その通りになってたことだろう」
「──っ!」
【腐食】
【釘付け】と組み合わせて使うと我ながらかなり強いスキルであるように感じる。
アウグストは、俺の言葉の意味を理解したように奥歯を噛み締めた。
「なるほどね〜、そういう面倒な感じか……」
アウグストの持ち味は、おそらくあの常人離れしたスピード感。
その長所を完全に殺し、【腐食】の定数ダメージによって、アウグストの体力をゆっくりとだが削っていく。
「まさか、こんな隠し球を持っていたとは……武術大会初出しっすよね」
「まあ、決勝でそっちのペア用に温存してたからな」
「光栄っす……ね!」
身体中に痛みが走り続けるが、このままの状態が続けば、アウグストは間違いなくダウンする。
【腐食】は地味だ。
対象となっている相手にしか、その脅威は理解できないし、変わり映えのしない動きを見て、観客はさぞ退屈していることだろう。
だが、そんな地味なスキルでも相手にとって脅威であることは確かだ。
──これで、アウグストは終わりだ。
モナの方はまだ勝負がついていないが、アウグストさえ処理できれば、モナの方に援護を入れられる。そうなれば、人数有利とコンビネーションで確実にレジーナも倒すことができる。
「油断したな」
「まあ……守衛を倒すことに没入し過ぎたことは、間違いじゃないけど。──【神速】」
アウグストは【釘付け】スキルの影響を受けながらも短剣を振り上げる。
「……そのスキル効かないよ〜ん」
そう告げたアウグスト。
彼がスキルに抗えるだけの実力を有しているのは、瞬時に理解できた。
──これは、厳しいな。
スキルが無効……いや、正確には、軽減されている。
アウグストの持つ速度アップスキルの【神速】と【釘付け】での固定する効果が相殺され、わずかにこちらのスキルがアウグストの動きを抑えきれなかったみたいだ。
──どうする?
【釘付け】を解除してアウグストの攻撃を避けるか。
それとも、【腐食】の効果を信じて、アウグストが倒れるまで攻撃を堪え続けるか……。
その2択だ。
「さあ、守衛。どうすんの?」
迫り来るアウグストの斬撃。
直感で選んだ結果。俺は【釘付け】のスキルを解除した。
▼▼▼
【釘付け】のスキルを解除したこと。
結論、この選択はどうやら正解だったみたいだ。
【神速】スキルによって、急激な加速を見せるアウグスト。けれども、その攻撃が俺には当たらない。
「うわっ⁉︎」
──まあ、アウグストの意思で、動けるようになったわけじゃないからな。
アウグストからしたら、急に【釘付け】の効果が消失し、制御しようとするまえに【神速】の効果が顕著に表れてしまった。
俺を捉えるのは難しい。
アウグストは、攻撃を空振り勢い余って、全く別の方向へと移動していた。
「……お、思い切ったことしてくんね!」
「焦ってるのが、声に出てるぞ」
「んなっ!」
──あと数歩止まるのが遅ければ、アウグストは場外に飛び出していた。
懸念点。
それをアウグストの考えに生じさせたのはかなり大きい。
今の危ない場面。
それは、彼の記憶に刻み込まれた。
──まあ、今だけなんだけど。
しかし、今はそれで十分だ。
アウグストは迷うだろう。
【神速】は、己を超加速させる強力なスキルである一方、制御をちゃんとできなかった場合には、首を絞めるような諸刃の剣である。
「また、仕切り直しかぁ……」
アウグストは、短剣を構えて呟く。
俺も時間いっぱいまでアウグストとの戦闘が続くことを覚悟して未だに痛む腹部を押さえながら、盾をアウグストに向ける。
「じゃあ、行くぜ」
「ああ、また始めようか」
アウグストの胴体が揺れ、こちらに向かってこようとしているのが察せられた。……その瞬間であった。
「────!」
鼓膜が破れるかと思うような轟音。
そして、遅れたように熱を含んだ爆風が吹き付けてくる。
「なっ、今のは……!」
アウグストと俺は、同時に爆音がした方向へと視線を向ける。
原因は魔法による大爆発。
紛れもなく、モナの発動させた魔法によるものであった。
「モナッ!」
砂煙が漂う中、モナがフィールド上に倒れているのが認識できる。
意味が分からない。
煙が晴れていくと、モナのすぐ近くにボロボロの状態で地に伏せているレジーナの姿もあった。
「レジーナ……お前。やられたの、か」
──相討ち……か。
横目でモナとレジーナの戦闘は、チラチラ確認していたが、互いの実力が均衡しており、決着まで長くなるだろうなとは思っていた。
戦っていたモナとレジーナが最もそれを理解していたことだろう。
……だから、モナは大きな一手を打ったのかもしれない。
隙を見て、少しずつ魔法を溜め、タイミングを見計らいそれを一気にレジーナに向けて放った。
渾身の一撃。
それは、自身の戦闘継続を生贄にしたものでもあった。
「悪役令嬢ってだけあって、過激なことするなぁ……」
アウグストが呟く。
過激なのには同意する。
モナに外傷はあまりない。
魔力切れによって、意識を失ったのか……。
ある種の賭け。
自身がこうなることを理解した上で、レジーナを倒す作戦を実行した。
──慎重に行こうってあれほど、言ったのに。
レジーナを倒したモナの功績は大きいが、これだと俺がアウグストを倒して勝負を決めなければならなくなった。
仕方がないこととはいえ、これは厳しい戦いになりそうだ。
「まあ、いいか。……俺が守衛を倒せば、万事解決することだもんな!」
「そうだな。俺たちの勝ち負けで全てが決まる」
アウグストは相方がやられたことを悲観している様子はない。
「あいつは役目を果たした」アウグストの瞳は、そんなことを語っているように思える。
俺が手負いであるからして、これはかなり不利な戦いだ。
これは、想定していたよりもすぐに決まりそうだな……。
守るのは、ここまで。
この先の展開は予想できないが、少なくとも攻めの姿勢で挑まなければならないことだけは確からしい。
モナの意思は無駄にはしない。
俺は、迫り来るアウグストに向かって、盾を振りかぶった。




