File No.38:戦闘ちゃんの七夕恋
トクサツ少女・石ケ谷ヒロミは、異世界へ転生された(自称)花の美少女である!
彼女が転生してきた世界は、悪の組織に支配された英雄都市【ブレイドピア】である。
神より授けられたチートツール【トクサツールベルト】で『トクサツ戦士HIROMI』に変身しながら、いつかは巨乳になるために……な訳じゃ全然なくて!!
英雄異世界の平和を守るために戦うのだ!!
――あたし、石ケ谷ヒロミ!
またしてもブランクを持って更新かと思えば、作者もモチベーションはあったようで、今度は七夕の日に合わせての更新。……季節ネタやり足りなかったのかしら。
それの辻褄合わせになってしまうけど、あたし達の住む英雄異世界ブレイドピアにも七夕の風習があるんですって。
短冊にお願いを書いて、異世界の天の川に祈りを捧げる所も全く一緒。ただ一つ違いがあるとすれば、
「ここじゃ家の扉に短冊を貼ってお祈りするの?」
「えぇ、毎年7月7日の前日には短冊をドアノブに引っ掛けるのが常識なんです」
ルリナちゃんが言うには、この世界には“笹の葉”というのが無い地域だそうで。
せっかくなら家に飾っておいて、自分達の願い事を分かりやすく天の川に見せてやろうという事で伝わったんだそうな。……でも自分の家に素直なお願い事がさらされるのは恥ずかしいよ!
「大丈夫ですよ、他人のお願い事は見ないのは暗黙の了解になってますから。……で、ヒロミさんのは何書いたんですか〜?」
「あぁっ、ダメぇ! 暗黙の了解どこ行った!?」
『身内は幾らでも見てOK』というルールがあるようで。悪乗り気分にルリナちゃんがあたしの短冊を覗いて見るならば。
【ルリナちゃんと未来の果まで永遠に繋がれますように。……いやもう繋がってるから直ぐ結婚させて! リリィ・マリアージュ♡♡ ―ヒロミ―】
(この人はホントにブレないなぁ……)
あたし、ルリナちゃんに褒められたのかしら?
いや違う、瞳の陰りから見てあたしの百合パワーに逆らえないことを悟ってる顔だ!
「恥ずかしい! だったらルリナちゃんのも見せて見せて〜」
「やぁん、ダメぇ!」
人の迷惑顧みず、今日も今日とて実家の玄関でいちゃつくあたしとルリナちゃん。
……けれど、今日も明日の7月7日も曇りの予報というブレイドピアの空。
どーせ雲の上じゃ織姫と彦星が一年溜めた分だけニャンニャンして――――
「風情もフィルターも無い事言うの止めません?」
……仰る通りで。
◇◆◇◆◇◆
マウンペアの町では、至る家のドアに短冊を引っ掛けて天の川のカップルにお願い事を書いていた。
一年に一度しか会えないカップルが、他人のお願いまで聞いてあげられる程の余裕は無いと思うけれど、そこまで言うのは無粋ってヤツかな。
あたしとルリナちゃんは散歩がてらに町を見回すうちに、気付けばサウザンリーフ地方まで歩いていた。
そこには『マリー・B・クイン』さんが経営するナイトクラブ【ローヤルゼリー】が……って、おおっ!?
「扉にすっごい短冊の数!!」
「上の辺りが短冊で覆われて、のれんみたいになってますよ!」
これじゃナイトクラブじゃなくて居酒屋じゃん!
その枚数から見てもマリーさんや、戦闘ちゃん達や、小公女のセレナちゃんらのスタッフの人数にはどう見たって合わない。……何かあるな。
「ちわ〜っ、女将さん居るかい?」
って、あたしゃ飲兵衛のオッサンかっつの。のれん短冊にすっかり雰囲気飲まれちゃったわ。
「あっ、ヒロミちゃん! 丁度良い所に来たわ。戦闘ちゃんが思い詰めたようで……」
「戦闘ちゃんが?」
バーカウンターの近くのテーブルで、何やら大量の短冊の束を携えてスラスラ書き上げ中の、黒レオタードと網タイツ、顔にはサイケなペイントの女の子の姿が。
「カズヒコ様に会えますように、カズヒコ様に会えますように、カズヒコ様に会えますように…………」
何かに取り憑かれたかのように必死にお願い事を書く、元ジャックスの女戦闘員。略して『戦闘ちゃん』。
三編みヘアーのこの子の名前は“サオリ”ちゃんと呼んでいた。
「サオリってば、昨日からこうして同じお願い事を短冊に書いては店に飾っちゃって。これで108枚目よ!」
「それで入り口がのれんみたいになっちゃったのね」
サオリちゃんの書き終えた短冊の束には、『カズヒコ様に会えますように』と濃い筆圧で書かれていた。
これはあれだな。好きな人に告れなくてパワースポット言ったり、神社とかで必死に願掛けするタイプだわ。
「恋に溺れるのはオールOKだけど、こうまで追い詰めた顔してちゃ営業にも支障を浸しちゃうわ。ヒロミちゃん、何とかしてあげて!」
「分かりました。出来る限りの事は……」
あたしはサオリちゃんの肩を叩いて、執筆に没頭する彼女をハッと振り向かせた。
「ひゃっ! ヒロミさんいつの間に!」
「どうしちゃったのよサオリちゃん。お淑やかな貴方がこんなに思い寄せて短冊にいっぱい書いて」
「……私の好きな人に、どうしても会いたいんです。私がジャックスを辞めてからも、ずっと思いを馳せているあの方に」
サオリちゃんには、セクハラ被害で女戦闘員を辞職してからも、その愛する殿方を忘れられずにいたのだった。そこでルリナちゃんも彼女を労いながら、提案に持ち込む。
「それで短冊で願いを込めてるのですね。でもそんなに会いたいなら、自分からアクション起こしてみませんか? 連絡先とか分かることがあれば……」
「何も分からないんです。私は女戦闘員ですから、スマホとか連絡手段なんて持ってませんし……」
確かに女戦闘員がスマホ操作してる姿を想像しても、歪んだ性癖の方々しか反応しないと思う。
「という事は遠距離恋愛なのかな。いや、顔を知ってて連絡手段が無いってのは矛盾してるし……」
等とあたしもルリナちゃんもウンウン悩み唸る所で、サオリちゃんが思い切ってカミングアウトした。
「わ、私の好きなカズヒコさんは……ジャックスの戦闘員なんです!!」
「「……………嘘ん」」
それはズバリ、社内恋愛の方であった!
(うわ、そっちの方かぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!)
社畜にも戦闘員なうしてる男と、戦闘員を辞めた女の恋愛に、あたしのようなヒロインが首を突っ込む事が如何に危険な事か。
皆様御承知の事と思われますが……はぁ〜あ、面倒くさい事になりそう……!
◇◆◇◆◇◆
……と、あたしが愚痴を溢した途端に、その予感が的中するのがこの作品の悪い癖。
とある場所に位置するジャックスのアジト内では、深刻な顔をしているベクター大佐が、戦闘員達を総員司令室に集めての緊急会議が行われていた。
「私としては、誠に心苦しいことなのだが……明日を控えている七夕の夜。我々野望を果たさんとするジャックスが一致団結して『世界征服を達成しますように』と、短冊に込めて祈っていた筈だろう?」
「「「ニィイイ!!」」」
気付けばこのアジト、丸型の自動ドアに戦闘員達が書いた『世界征服を達成しますように』短冊が辺り一面に張り巡らせていた。どんだけ天の川信者なの!?
「しかし、そんな団結の輪を乱そうとする輩がこの中にいる。謂わばこの行為は我々組織の裏切りに匹敵する! 今のうちに白状したらどうだ!?」
そんな奴がいるとも知らず、整列する戦闘員達が『誰だ?』『お前か?』と交互に疑いに掛けていく。
だがたった一人、明らかに白を切って自演している腑抜けた戦闘員がいた。
彼こそ、ジャックス戦闘員・カズヒコ。サオリちゃんと相思相愛の仲になっていた男だ!
「ベクター大佐、一体我々が何を裏切ったと言うのでしょうか!?」
何のことかさっぱりな戦闘員の一人が主張すると、ベクター大佐はドア越しの裏側に入って事態の説明をする。
「お前たちが書いた短冊の裏に、数万枚も『サオリちゃんにまた会えますように♡』とキモい願い事を書いた馬鹿の何処が裏切りでないというのだ!!」
うーわ、明らかに色ボケてるよ。サオリちゃんとどっこいどっこいだよカズヒコ君。
ここまで暴露されては、カズヒコもヤバいと思ったか。無謀にも脱走を試みたが、戦闘員達に直ぐに捕まってしまった。
「この愚か者め!! 我らジャックスに、愛だのと下らぬ情を持ち合わせおって! 戦闘員として恥を知らぬか!!」
「うるせぇ! お前らが俺のサオリちゃんを辞職させたんだろうが、元の仲間と恋愛して何が悪いんだよ!!」
サオリちゃんをそうさせたのは、あたしの責任も一部入ってるので……何かごめんなさい。
「えぇい、貴様のような腑抜け者は怪人にして悔い改めさせてやる! 直ぐに改造室へと運び出せ!!」
処刑されないだけでもマシか…………いやいやいや怪人にさせちゃったら、あたしと強制的に戦うことになるじゃないの!
戦闘員同士の恋を、トクサツ少女のあたしが引き裂くというの……!?
お願い、この最悪の事態何とかして! 織姫・彦星バカップル、イチャコラする前にこの悲恋を止めてーー!!




